2-1 更年期障害の治療に用いられるホルモン補充療法は乳がん発症リスクと関連がありますか。
2-2 避妊の目的で用いられる経口避妊薬(ピル)は乳がん発症リスクを高めますか。

2-1.更年期障害の治療に用いられるホルモン補充療法は乳がん発症リスクと関連がありますか。

A.ホルモン補充療法の中でも,エストロゲン(ホルモン)とプロゲスチン(プロゲステロンなどのホルモン)を併用する方法では,乳がん発症リスクは,わずかながら高くなることが確実です。ただし,エストロゲンとプロゲスチンを使用するホルモン補充療法が乳がん発症リスクを高める程度はわずかなので,使用することによる利益とのバランスを考え併せて,使用するかどうかを決める必要があります。
エストロゲンだけを補充する方法では,乳がん発症リスクは高くなりませんが,子宮内膜がんが増えます。

解説

女性ホルモンと乳がんの関係

女性が思春期になると,乳房がふくらみ始め月経が始まりますが,これは卵巣が「エストロゲン」や「プロゲスチン」などの女性ホルモンを活発につくるようになり,乳腺や子宮に作用するためと考えられています。

一方,乳がんは悪性の乳腺細胞が異常に増殖したものであるため,女性ホルモンが高い濃度で長時間作用すると,乳がん発症リスクが高くなります。例えば,初経年齢が早い人や,閉経年齢が遅い人は,乳がん発症リスクが高くなります。

ホルモン補充療法と乳がん

女性が更年期を迎えると,卵巣機能が衰え,女性ホルモンがつくられなくなるため,体内の女性ホルモンの量が急激に減ります。そのため,ホットフラッシュ(ほてり,のぼせ),,イライラ感など心身の不調や,などさまざまな症状が出るようになります。これを更年期障害といいます。その治療法として,減少した女性ホルモンを体外から補充する方法が有効と考えられていて,これがホルモン補充療法です。この治療法は更年期障害の症状の緩和には有効性が高いことがわかっています。

ホルモン補充療法には主に2つの方法があります。1つはエストロゲンだけを補う方法(エストロゲン単独療法)で,もう1つはエストロゲンとプロゲスチンを併用し,両方を補う方法(併用療法)です。従来はエストロゲン単独療法が一般的でしたが,この単独療法では子宮内膜がん発症リスクの増加が指摘され,その欠点を補う目的で普及してきたのが併用療法です。一方で,ホルモン補充療法と乳がん発症リスクとの関連についての調査では,併用療法の普及に伴い乳がん発症リスクが高まるという報告が増えてきました。このリスクはホルモン補充療法を行った期間が長いほど高くなり,補充療法をやめると低くなると考えられています。また,乳がん以外では,心疾患,脳卒中, , 認知症などの疾患や症状が増えることも報告されています。したがって,エストロゲンとプロゲスチンの併用療法については,更年期障害の症状が日常生活に悪影響を及ぼすような場合以外は勧められません。

一方,エストロゲン単独療法に関しては,子宮切除を受けた女性を対象とした最近の大規模な調査では,乳がん発症リスクを低下させることが示されました。また,その他の研究でも,エストロゲン単独療法では乳がんの発症リスクは高くならないことが示されています。しかし,エストロゲン単独療法では子宮内膜がんの増加以外にも,脳卒中や血栓症などの増加も示されているため,この治療を乳がん予防目的に行うことは勧められません。

いずれにしても,ホルモン補充療法を始める際には,事前に婦人科医とよく相談されることをお勧めします。

2-2.避妊の目的で用いられる経口避妊薬(ピル)は乳がん発症リスクを高めますか。

A.経口避妊薬の使用により,乳がん発症リスクはわずかながら高くなる可能性があります。ただし,経口避妊薬が乳がん発症リスクを高める程度はわずかなので,使用することによる利益とのバランスを考え併せて,使用するかどうかを決める必要があります。

解説

経口避妊薬と乳がん

日本でも1999年9月に経口避妊薬(oral contraceptive; OC)が使用できるようになりました。経口避妊薬も,ホルモン補充療法と同様に,エストロゲンとプロゲスチンを組み合わせて使用されています。避妊を目的とする場合は自費で処方されます。一方,月経困難症や子宮内膜症に伴う疼痛の改善を目的とする場合は,組み合わせるホルモンの種類や量はOCと同じですが,保険適用のある製剤を使用することができ,低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(low dose estrogen progestin; LEP)と呼ばれています。世界的にはOCやLEPと乳がん発症リスクについては数多くの研究がなされています。それらの研究報告をまとめて検討すると,OCやLEPの服用は,乳がん発症リスクをわずかながら高める可能性がありますが,含有されるエストロゲンの量や製剤の種類などを考量すればリスクが増加しない可能性もあり,まだ一定の見解が得られていません。