A.どのような治療を受けるかを決めるのに必要な情報(目的,内容,効果,リスク,時間や費用)などについて詳しい説明を受け,患者さんご自身の希望を伝え,医師の考えや勧めも聞いて話し合い,納得したうえで方針を決めてください。
解説
医療スタッフとの上手なコミュニケーションのとり方
治療をうまく進めていくには,患者さんと医療スタッフが十分コミュニケーションをとり,良好な信頼関係を築くことがとても大切です。また,どのような治療を受けるかを決めるときには,自分の病気の状況や治療の目的,治療内容,効果,リスク,時間や費用などを十分に理解することが必要です。限られた診察時間の中で,医師の説明内容を十分に理解するためには,患者さんも診察を受ける前に聞きたいことを簡潔にまとめ,あらかじめいくつかに絞って質問するといいでしょう。
医師の説明を理解するために
医師が普通に使う専門用語は,一般には馴染(な じ)みのないものです。わからない言葉が出てきたときには遠慮せず,すぐにその場で質問し,わからないままにしておかないようにしましょう。医師に直接確認できない場合には,看護師や薬剤師など医療スタッフに尋ねることもできます。病院には医師だけではなく,患者さんをサポートする大勢のスタッフがいますので,遠慮せず相談や質問をしてみましょう。一人で説明を受けるのが不安な方は,ご家族や友人など信頼がおける人と一緒に医師の話を聞くとよいでしょう。話の内容を理解するうえでも,気持ちの整理をするうえでも,心強いものです。また,録音したいときには,事前に申し出て許可を取るのがマナーです。
この「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」も医師の説明を理解するうえで役に立つと思います。また,医療スタッフと話をするときに本書を持って行き,活用するのもよいでしょう。
インフォームド・コンセントとは
患者さんが検査や治療について医師から必要な説明を十分に受け,理解したうえで同意することを「インフォームド・コンセント」といいます。
医師には,患者さんの希望や価値観,家族の状況や社会背景を十分考慮したうえで,患者さんにとって最善の方法を提案することが求められます。そのために,患者さん自身は,「自分にとって一番大切なことは何か,どういう生活をしたいのか」といった自分の希望や意思を伝えることが大切です。また,病気にかかわることだけでなく,生活状況や価値観,その他の事情なども,治療を決めるうえで大切なことですので,ためらわずに伝えてください。「インフォームド・コンセント」の主体はあくまでも患者さん自身です。検査や治療について十分に理解し,納得して同意できるように,説明内容がわかりにくい場合には,遠慮せずに担当医に伝えてください。治療法選択に必要なさまざまな情報を担当医と患者さんやご家族が共有し,最善の治療は何か,ということをともに話し合って決めていく過程(shared decision makingといわれます)が,納得して治療を受けるには大切です。
セカンドオピニオンについて
セカンドオピニオンを直訳すると「第二の意見」です。つまり,担当医の意見が第一の意見であるのに対し,他の医師の意見をセカンドオピニオンと呼びます。セカンドオピニオンを聞くことは,担当医から提示された診療内容を信じないとか,担当医を見限る,あるいは他の医療機関に移ることを意味するものではありません。セカンドオピニオンを聞くのは,①乳がんという診断を確認したい場合,②初期治療を受ける際,手術,放射線療法,術前化学療法,術後化学療法など,どのような選択肢があるかを知りたい場合,③再発・転移したときに,治療法や使用できる薬剤の種類などを知りたい場合,④臨床試験について知りたい場合,などがあります。なぜ,セカンドオピニオンを聞きに行きたいのか,自分の気持ちを整理しましょう。はっきりした理由もなく,セカンドオピニオンを聞きに行くこと自体が目的となってしまわないようにしましょう。
すべての患者さんがセカンドオピニオンを聞きに行ったほうがよいわけではありません。担当医の説明を聞き,自分で納得できればそれで十分である場合が多いでしょう。乳がん診療を専門とする医療機関の多くは,グループ診療を行っており,一人ひとりの患者さんの診療方針をよく話し合い,標準治療を提供しています。担当医の説明を聞いても理解しにくい場合には,その旨を担当医に伝え,もう少しわかりやすく説明してもらいましょう。それでもなお,説明が理解できない,納得できないというようなときや,他の医師の意見も聞いてみたいときには,セカンドオピニオンを聞きに行きたいと担当医に申し出てください。
セカンドオピニオン外来の受診の仕方は医療機関によって異なりますので,受診を希望する医療機関に事前に確認することをお勧めします。
聞くべきこと,質問の仕方
患者さんの中には,医師の説明を聞いていて「質問したいことはたくさんあるのだけど,何をどう聞いていいかわからない」という人が多くいます。治療の前に聞いておくべきポイントを挙げましたので,参考にしてください。
- 私の病状(病気の広がりや手術ができるかどうかなど)はどのようなものですか
- 治療の内容と目的(再発の予防,症状の緩和など)は何ですか
- その治療のリスク(副作用,手術後の後遺症など)にはどのようなものがありますか
- その治療を受けると,どんな良いこと(再発の可能性が低くなる,症状が軽くなるなど)が
ありますか - 日常生活は制限されますか(どのくらいの程度,どのくらいの期間,入院か外来か,仕事を
休む必要はあるかなど) - 他の治療にはどのようなものがありますか。それぞれの利点・欠点や,費用を比べてみると
どうですか - その治療を受けないと,どうなりますか
- 私の希望(再発の可能性はできるだけ少なくしたい,胸の開いた洋服を着たいなど)に合った
治療は何ですか