A.手術後の放射線療法は,温存した乳房や乳房を切除した後の胸壁や,その周囲のリンパ節からの再発を防ぐために行います。
すべての乳房温存手術後の患者さん,および乳房全切除術を受けた患者さんのうち,わきの下のリンパ節に転移があった患者さんや,しこりが大きかった(5cm以上)患者さんには,手術後の放射線療法が勧められます。

解説

乳房温存手術後の放射線療法は何のために行うのですか

乳房温存療法における手術の役割は,目にみえるがんのしこりを摘出することですが,放射線療法の役割は,手術で取りきれなかった可能性のある,目にはみえないがん細胞を死滅させることです。手術と放射線療法の両方を行うことで乳房を温存しつつ,乳房内の再発を抑えることが可能になります。

乳房温存手術後に放射線療法が必要かどうかについては,海外で多くの臨床試験が行われました。手術で切除した組織の断面を顕微鏡で詳しく調べた結果,断面およびその近くにがん細胞がなかった(断端(だんたん)陰性といいます)患者さんに対して,放射線療法を加えた場合と,加えなかった場合を比べた試験では,放射線療法を加えることにより,乳房内再発が約3分の1に減ることが明らかになっています。さらに乳房内再発を防ぐことにより,生存率も向上させることが示されています。ただし,放射線療法を行っても乳房内再発を100%防ぐことはできません。切除断面にがん細胞があった(断端陽性といいます)患者さんや,腋窩(えきか)(わきの下)のリンパ節に転移があった患者さん,年齢の若い患者さんは乳房内再発の危険度が高くなるといわれています。また,最近では,腋窩リンパ節に転移があった患者さんには,温存した乳房に加えて鎖骨上窩(さこつじょうか)(首の付け根で鎖骨の上の部分)のリンパ節にも放射線照射を行うことが勧められる場合があります(☞Q34参照)。

また,非浸潤性乳管がんの乳房温存手術後も,乳房内再発率を低下させることができるため,放射線療法を行うことが勧められています。

乳房全切除術後の放射線療法は何のために行うのですか

海外で行われた臨床試験の結果,乳房全切除術の場合でも,胸壁やリンパ節などから再発する危険性が高い場合は,化学療法やホルモン療法に加えて,放射線療法も行ったほうがよいということがわかりました。

乳房全切除術の後,胸壁や鎖骨上窩のリンパ節に再発が起こると,その再発病巣から全身にがん細胞が広がる危険性があります。放射線療法を行うことにより,これらの場所の再発を減らすことができ,その結果,病気が治る可能性を高めることができると考えられています。局所再発の危険性が高く,かつ他の臓器に転移のない患者さんでは行うべき治療です。

どの患者さんが放射線療法を受けたらよいかは,胸壁やその周囲のリンパ節への再発の危険度によって異なり,もともとの乳房のしこりの大きさやリンパ節への転移の状態をみて判断します。局所再発の危険度が高いとされる,腋窩リンパ節転移があった患者さんや,しこりが大きかった(5cm以上)患者さんでは,化学療法やホルモン療法のほかに放射線療法を行うことで局所再発のリスクを減らし,ひいては遠隔転移のリスクも下げることができます。また逆に,しこりが小さかった場合や,リンパ節への転移がなかった場合には,放射線療法を受けなくても胸壁やその周囲のリンパ節に再発することは少なく,放射線療法を受ける利点はないことが多いです。