A.手術した胸壁(きょうへき)(手術した胸の範囲)全体と鎖骨上窩(さこつじょうか)(首の付け根で鎖骨の上の部分)に,総線量で46~50グレイ程度を約5週間かけて照射するのが一般的です(☞Q21の図1参照)。

解説

どのような場合に放射線療法が必要ですか

乳房全切除術を受けた患者さんでも,しこりの大きかった(5cm以上)患者さんや, 腋窩(えきか)(わきの下)のリンパ節に転移があった患者さんでは,胸壁(手術した胸の範囲)や周囲のリンパ節に再発する危険性が高いことがわかっています。胸壁やリンパ節の再発を減らすことで病気が治る可能性が高まりますので,再発の危険性の高い患者さんには放射線療法をお勧めします。

特に,腋窩リンパ節に4個以上転移があった患者さんには放射線療法を強くお勧めします。腋窩リンパ節の転移が1~3個の場合も,基本的には放射線療法をお勧めしますが,リンパ節転移の個数以外の要素も含めて判断しますので,担当医と相談してください。

乳房を再建する場合,上述のように腋窩リンパ節に転移があり,放射線療法を行った方では合併症の割合が増えます(☞Q27参照)。通常,自家組織(自分の筋肉や脂肪)よりインプラントなどの人工物を用いた再建乳房に照射するほうが合併症が多くなります。また,人工物による再建の場合,インプラントを入れる前に,エキスパンダーという皮膚と周囲の組織を伸ばす器具を入れることがあります。一般的にはエキスパンダー挿入中に照射すると重篤な合併症が増えますので,インプラントに入れ替えてから照射することをお勧めします。

乳房全切除術後の放射線療法では,どの範囲に照射するのが適切ですか

放射線療法の効果は,放射線を照射した部分にのみ現れます。十分な効果があり,副作用が少ない放射線療法を行うためには,必要かつ十分な照射範囲を決定することが大切です。現在の標準治療は,胸壁全体(手術した胸の範囲)と鎖骨上窩(首の付け根で鎖骨の上の部分)を照射する方法です。乳房のしこりが手術で取りきれていない可能性がある場合には,胸壁全体と鎖骨上窩への照射後に,しこりのあった周囲に追加照射(ブースト照射)を行うことがあります。追加照射は,胸壁の再発を減少させることを目的とします。

また,胸骨のわきにある内胸(ないきょう)リンパ節への転移はまれですが,腫瘍の位置などの症状によっては内胸リンパ節にも照射することがあります。

なお,腋窩リンパ節の郭清後,さらに腋窩に放射線照射を追加しても生存率は改善せず,かえって腕のむくみや肩の副作用が増えるので,腋窩リンパ節郭清後の腋窩への放射線療法はお勧めしません。

乳房全切除術後の放射線療法の線量や治療期間はどのくらいが適切ですか

手術した胸壁全体と鎖骨上窩に対して1回線量2.0グレイ,総線量46~50グレイ程度を約5週間かけて行います。一度にすべての量をあてるのではなく,少しずつ分割してあてるのは,正常組織への影響を小さくして,がん細胞を弱らせて死滅させるためです。1回の照射時間は1~3分程度で,通院の時間以外は通常の生活が可能です。

放射線療法の効果は,どれだけの総線量を何回に分けて,どれだけの期間に照射したかで決まってきます。一般に,手術後に残っているかもしれない,目にみえない程度のがん細胞に対しては,1回線量2.0グレイで総線量50グレイ程度を約5週間かけて治療する方法が有効とされています。毎日続けて照射することにより,がん細胞が次第に少なくなっていきます。途中に長期間の休みを入れてしまうと,同じ総線量を照射しても効果が薄れるのでよくありません。なお,副作用についてはQ36を参照してください。