A．思春期・若年成人（adolescent and young adult;AYA）世代の乳がんは，乳がん患者さん全体からみると約5％の割合であり，患者さんの絶対数としてはとても少ないのが現状です。治療に関する基本的な考え方は他の世代の乳がん患者さんと同じですが，AYA世代の乳がん患者さんは，結婚や出産，子育て，仕事など，人生の基礎をつくるさまざまなライフイベントを考える時期と治療が重なるため，それぞれの患者さんの多様な状況に応じた意思決定が必要です。

解説

AYA世代の乳がんの現状

思春期・若年成人（adolescent and young adult; AYA）世代（一般的には15～39歳）は，がんの罹患率，死亡率が最も低い世代です。しかし，がんはAYA世代の病死の原因の第一位です。AYA世代のがんは年齢によって，がんの発生する部位が大きく異なります。乳がんは，AYA世代の中で20歳代から増加し始め，30～39歳においては最も多くなります。しかし，乳がん患者さん全体からみると約5%の割合であり，患者さんの絶対数としてはとても少ないのが現状です。

AYA世代の乳がん患者さんは，結婚や出産，子育て，仕事など，人生の基礎をつくるさまざまなライフイベントを考える時期と治療が重なります。同じ年齢であっても，自立の度合い，家庭環境，就学・就労・経済的状況，人生設計は個人によって異なるため，それぞれの多様な状況に応じた意思決定が必要です。

AYA世代の乳がんの特徴

日本を含め世界の多くの国でマンモグラフィ検診の対象は40歳もしくは50歳以上であるため，40歳未満の女性が無症状で検査を受ける機会は少なく，AYA世代の乳がんの多くは患者さん自身がしこりや乳頭からの血性分泌物などに気づいてみつかっています。そのため，非浸潤がんは少なく，2cm以上の浸潤がんやリンパ節転移を伴うなど，ほかの年代の乳がんに比べると病状が進んだ状態で診断されることが多くみられます。また，AYA世代の乳がんの特徴として，ホルモン受容体陰性乳がんやHER2陽性乳がんが多いこと，トリプルネガティブ乳がんの割合が高いことが挙げられます。手術後の再発の危険性は，年齢よりも，診断された時点での進行度や，がんの性質（ホルモン受容体陽性乳がんか，HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんか）との関係によるものと考えられています（☞Q30参照）。

また，AYA世代で乳がんと診断された患者さんは遺伝性乳がんを考慮する必要があり，手術の方法を決める際にも考慮したほうがいいと思われます。

AYA世代の乳がん治療

AYA世代の乳がん患者さんも，治療に関する基本的な考え方はほかの世代の患者さんと同じです。ただ，次に掲げるような点についてはAYA世代特有のこともあると思いますので，該当するページをご覧ください。

＃　遺伝に関すること：Ｑ4

＃　手術に関すること：Ｑ22，Ｑ26，Ｑ27

＃　妊孕性，妊娠，出産に関すること：Ｑ48，Ｑ53，Ｑ62，Ｑ63

＃　脱毛や爪など外観の変化：Ｑ49

＃　治療中・治療後の生活：Ｑ58

＃　仕事：Ｑ16，Ｑ58

＃　夫（パートナー），子ども，親との接し方：Ｑ15

＃　経済面・生活面の支援：Q17

 

また，AYA世代の患者さんが少ないため，同世代の患者さんがどのようにしているか知りたい，情報を共有したいなどの希望もあると思います。現在では各地にさまざまな患者会，サポートグループが立ち上がっています。地域のがん相談支援センターに相談し，必要な情報を入手することも可能です。