A.「標準治療」とは,多くの臨床試験の結果をもとに専門家が集まって検討を行い,専門家の間で最善であるとコンセンサス(合意)の得られている治療法のことをいいます。乳がんの治療法は,乳がんの進行の度合い,乳がんの性質,患者さんの状態などによって異なります。そのため,一人ひとりの患者さんで最適な治療法も異なります。最善の治療を受けるためには,まず自分の乳がんについて正しく理解すること,そして自分の乳がんに対する標準治療が何であるかを知っておくことが重要です。

解説

標準治療とはどのような治療ですか

乳がんの治療には,手術などの外科療法,ホルモン療法や抗がん薬などの薬物療法,放射線療法などがあります。実際に個々の患者さんで治療方針を決める際は,それらの中から適切な治療を組み合わせて決めていきます。乳がんに関する研究の進歩により,乳がんは一人ひとりの患者さんで性質が異なり,最適な治療法もそれぞれ異なるということがわかってきました。そして,専門家が世界中の研究の成果を集めて,有効性と安全性を確認し,現時点で最善の治療として合意したものが「標準治療」です。標準治療は,一つだけとは限らず,複数の治療法が示される場合もあります。

一部の患者さんでは標準治療というと「並みの治療」でしかないのではないかと誤解されている方もおられますが,標準治療は「現時点で,患者さんに最も効果が期待でき,安全性も確認された,最善の治療」ということです。

マスコミなどで「最先端の治療」とされる治療と標準治療ではどちらがよいのですか

標準治療のほうがよい治療といえます。患者さんやそのご家族から,「最先端の治療を受けたい。先日の新聞記事で取り上げられた治療を受けることはできないのですか?」などのご希望をよくお聞きします。最先端の治療を受けたいと思われることは当然のことですが,「最先端の治療」と「最善の治療」とは違うのです。新しい治療法を開発するためには,まず研究室で乳がん細胞やラットなどを使った実験により効果が確認できた物質を,実際に人に投与してその安全性や有効性を確かめる臨床試験が行われます(☞Q12参照)。これらの段階で本当に乳がんに対する治療効果が確認されて初めて,患者さんに実際の臨床の現場で使うことのできる治療法となります。新聞やテレビで「最先端の治療」として取り上げられる記事は,基礎的な実験段階の(例えば,実際の患者さんに投与されたことがないか,ほとんどない)ことが多々ありますから注意が必要です。標準治療は臨床試験の結果をもとに検討されたものですから,臨床の現場で使用できる最善の治療法ということになります。

標準治療はどのようにして決まるのですか。また,標準治療とガイドラインの関係を教えてください

乳がんの分野では数多くの臨床試験が全世界で行われており,毎年国内外で開催される学会で多くの研究結果が報告されています。これらの最新情報をもとに専門家が集まって討議し,その時点で最善であるとコンセンサス(合意)の得られた治療法が「標準治療」となります。そして,それらの合意事項をまとめたものが「ガイドライン(治療指針)」です。日本では,日本乳癌学会が医療スタッフ向けの診療ガイドラインを作成しています。薬物療法,外科療法,放射線療法を扱った「治療編」と,疫学・予防,検診・画像診断,病理診断を扱った「疫学・診断編」の2冊が出版されており,2~3年ごとに改訂されています。この「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」も,日本乳癌学会の医療スタッフ向けガイドラインの作成に従事した専門家と看護師,薬剤師,患者会の代表が集まり,最新情報をもとに標準治療をわかりやすく解説するために編集されたものです。

最善の治療を受けるコツは何ですか

患者さんの中には最新治療を自分自身で調べ,納得したうえで治療法を決めたいという人もいます。一方,いろいろと調べてもよくわからないし不安になるだけなので,ある程度担当医に任せて決めてほしいという方もいます。どちらが正しくて,どちらが間違いというわけではありません。大切なことは,最終的に自分で納得したうえで治療法を決めることです。そのためには,担当医とよく話し合い,お互いに納得することがとても大切です。そして,よく話し合うためには,担当医との信頼関係,良好なコミュニケーションとともに,いまの自分に対する標準治療が何であるのかを,ある程度理解しておくことも大切です(☞Q10参照)。