A.担当医に具体的な手術の創(きず)あとの状態を,絵や写真でみせてもらい,イメージをもつことが重要です。また,手術の創あとの位置や許容できる乳房の変形の程度について,ご自身の希望を担当医に伝えるとよいでしょう。

解説

乳がんの手術
(1)乳房全切除術

乳房全切除術は,乳頭,乳輪,乳房のふくらみを含めてすべて切除する手術で,しこりのある部分の皮膚を一緒に切除することになります。切除したあとは,皮膚を縫い合わせて手術は終了です。通常の手術後の状態としては,筋肉(大胸筋,小胸筋)は残されているものの,乳房のふくらみが消失し,真ん中近くから横あるいはわきの下に向けて,少し斜めの手術の創あとがつくことになります。がんのしこりの位置,患者さんの体型(肥満型,やせ型,中肉中背など),乳房のボリュームの大小によって,手術の創あとのつき方は違います。また,特に大きなボリュームのある乳房を切除した場合には,術後乳房の重さの左右差によって,肩こり, 脊椎側彎症(せきついそくわんしょう)などが起きることがあります。現在,重さの左右差を補整するパッドや専用の下着が多く販売されており,これらを着用することで調整できます。手術後にわきの下にたまるリンパ液の量が少なくなり,手術の創あとが治る頃(1カ月から遅くとも3カ月)には補整下着を用意するとよいと思います。病院内であれば,看護師などの医療スタッフに相談するとよいでしょう。手術の創あとの治りやすさには患者さん自身の持病も関係します。例えば,糖尿病の方は治りが悪く,処置が長引くことがあります。

(2)乳房温存手術

乳房温存手術は,乳がんの存在する乳房の一部分のみを切除して,できるだけ乳房を残す手術方法です。以前は,がんのある部分を含めて乳房の4分の1程度を切除する扇状(せんじょう)部分切除術が多く行われていましたが,術後の乳房の形は満足できるものではありませんでした。最近では,手術の前にMRI検査,CT検査,超音波検査などで,乳房内でのがんの広がりを詳しく調べることにより,円形に近い形で切除する円状部分切除術が可能な方が多くなりました。切除する範囲が狭くなったことに伴い,手術の創あとも小さくすることができるようになってきました。

しかし,患者さんにとっては,手術の創あとが乳房のどこにつくかがとても気になると思います。医師はしこりの真上の皮膚を切るのが最も簡単なのですが,そうすると手術の創あとが非常に目立つことがあります。しこりが真上の皮膚まで広がっていなければ,しこりの真上の皮膚を切除する必要はなく,皮膚のどこを切るか(手術の創あとがどこにつくか)を患者さんはある程度希望することが可能です。まず患者さんは,自分の希望を担当医に伝えてみましょう。例えば,わきの下の縦のラインでやってほしい,乳輪に隠れるラインでやってほしい,胸の開いたドレスを着ることが多いので胸の谷間に手術の創あとはつけないでほしい,乳房の下はブラジャーで隠れるので変形してもよいが,谷間でみえる部分のボリュームは保ってほしい,などです。しこりのできている場所,乳房の大きさ,切除する必要のある乳房の量などによって制限はありますが,医師は,患者さんの希望と病気の状態を考え,皮膚を切る位置を考えます

その他の手術への希望

乳がんの広がりによっては,温存を強く希望しても乳腺をすべて切除したほうが安全な場合があります。このような場合には,皮膚温存乳房全切除術や乳頭温存乳房全切除術(☞Q21参照)で一期または二期再建(☞Q27参照)を行う場合があります。細かな適応があり,すべての方で実施できる方法ではありませんが,自分の乳頭・乳輪を残したいという希望があれば,担当医にしっかりと伝えるべきです。その方法が無理な場合は,医師はその理由を説明し,次に良い方法を提示します。