A.ホットフラッシュ(ほてり),生殖器の症状,関節や骨・筋肉の症状などが出ることがあります。それぞれの対処法を参考にし,担当医や看護師,薬剤師に相談しましょう。

解説

ホットフラッシュ(ほてり,のぼせ)

ホットフラッシュは,血液中のエストロゲン(=女性ホルモン)が少なくなり,体温調節がうまくできなくなるために起こると考えられています。更年期の症状としてよく知られていますが,ホルモン療法はエストロゲンを抑える作用がありますので,同じ症状が出ます。ホットフラッシュの症状として,突然,かっと暑くなったり,汗をかいたり,胸から顔面にかけて赤くなったりします。動悸や不安,睡眠障害などを伴うこともあります。ホルモン療法によるホットフラッシュは軽いものも含めると50%以上の患者さんに出現しますが,次第に軽減することが多いので,しばらく経過をみるのがよいでしょう。

《対処法》 服装の工夫や運動などを日常生活に取り入れてみましょう。頻繁にホットフラッシュが起こったり,夜眠れなかったりして仕事や日常生活に支障がある場合は,薬によって症状を和らげることもできます。セロトニン作動性抗うつ薬のパロキセチン(商品名 パキシル)やベンラファキシン (商品名 イフェクサー),抗てんかん薬のガバペンチン(商品名 ガバペン),降圧薬のクロニジン(商品名 カタプレス)等によってホットフラッシュの頻度が3~6割低下するという報告があります。ただし,上記の薬はホットフラッシュに対しては保険適用外であり副作用もありますので,担当医と相談してください。なお,パロキセチンはタモキシフェンの効果を弱めてしまうおそれがあるため,一緒に内服することはお勧めできません。薬剤以外では, 鍼(はり)治療によりホットフラッシュが改善するという報告があります。

更年期症状としてホットフラッシュが出たときには,エストロゲン補充療法を行うことがありますが,乳がん患者さんでは再発を増加させる可能性がありますので避けなければいけません。

アロマターゼ阻害薬は,ホットフラッシュの発生頻度がタモキシフェンより低いので,閉経後の患者さんではアロマターゼ阻害薬に変更するのもよいかもしれません。

生殖器の症状

性器出血,腟分泌物(ちつぶんぴつぶつ)の増加,腟の乾燥,腟炎などの症状が現れることがあります。また,5年間のタモキシフェン内服により,閉経後の方は子宮内膜がんになる危険性が2~3倍に増えるといわれています。しかし,もともと800人に1人くらいの割合だった子宮内膜がんになる可能性が,800人に2~3人の割合に増えるくらいで,頻度は非常に低く,タモキシフェンを再発予防目的で使用する場合,子宮内膜がんになるリスクより乳がん再発予防効果の利益のほうが大きいと考えられます。

《対処法》 タモキシフェン内服中の方が定期的な検診を受けることにより,早期に子宮内膜がんを発見できる可能性が高くなるというデータはないので,タモキシフェン内服中であるからといって必要以上に子宮体がん検診を受けることはお勧めしません。特に閉経前の方では,タモキシフェンにより子宮内膜がんが増えるというデータ自体がありません。ただし,不規則な性器出血や血液が混ざった腟分泌物などがある場合には,婦人科を受診して精密検査を受けるようにしてください。

血液系への影響

タモキシフェンや酢酸メドロキシプロゲステロン(商品名 ヒスロンH)では血液が固まりやすくなるため,足の静脈に血栓(けっせん)(血の塊)ができたり,血栓が肺に流れていき,血管が詰まる「肺動脈塞栓症(はいどうみゃくそくせんしょう)」を起こしたりすることが非常にまれにあります。そのため静脈血栓症の既往(きおう)のある患者さんでは,原則としてこれらの薬の使用を避けるようにします。

関節や骨・筋肉の症状

エストロゲンは骨を健康的に保つように働いています。アロマターゼ阻害薬やLH-RHアゴニスト製剤はエストロゲンを減らす作用があるため,骨密度が低下し,骨折が起こりやすくなる可能性があります。また,アロマターゼ阻害薬では関節のこわばりや関節の痛みなどの症状が出現することがあり,時間の経過により症状は改善することが多いですが,鎮痛薬が必要になることもあります。治療が継続できない場合には別のアロマターゼ阻害薬かタモキシフェンへの変更を行います。一方,タモキシフェンは骨に対して保護的に働きますので,骨が丈夫になります。

《対処法》 アロマターゼ阻害薬を内服している場合や抗がん薬治療等によって早い時期に閉経となった場合には,年に1回の骨密度測定を行い,骨密度をチェックしましょう。骨を強くするためには,カルシウムやビタミンDを多く含む食品の摂取や,定期的な運動を心がけるとよいようです。骨密度が低下している場合にはビスホスホネートという薬を内服したり,デノスマブ(商品名 プラリア)という注射をしたり,タモキシフェンに変更したりすると,骨密度の低下や骨折を予防できます。

精神・神経の症状

ホルモン療法により,頭痛,気分が落ち込む,イライラする,やる気が起きない,眠れないなどの症状が現れることがあります。このような症状に対処するため,睡眠薬や気分を安定させる薬が処方されることがあります。カウンセリングも効果が期待できますので,担当医と相談してください。

ホルモン療法薬,特にタモキシフェンとうつとの関連については,うつ症状のためにタモキシフェン治療が継続できなかったという研究結果もあれば,タモキシフェン治療によってうつのリスクは上がらなかったという研究結果もあるなど,いまだに一定の見解は得られていません。治療中にうつをはじめとする心理的な症状が生じていないかどうかに常に留意しておく必要があります。なお,タモキシフェン以外のホルモン療法薬とうつとの関連については,報告がありません。