A.「局所再発」は,手術をした側の乳房や胸壁(きょうへき),その周囲の皮膚やリンパ節に起こるものをいいます。遠隔転移がない局所再発の場合は,さらなる再発リスク低減を目的として,初回原発手術後に用いた治療なども参考に,全身薬物療法や手術,放射線療法などを適宜組み合わせて行うのが一般的です。

解説

温存乳房内再発と治療

温存乳房内再発とは,乳房温存療法を受けた後,残された乳房に再び乳がんが発生することです。乳房温存療法では,乳房温存手術をした後に,目にみえないがん細胞を根絶して再発を予防する目的で,残された乳房に放射線療法を行います(☞Q34参照)。しかし,残された乳房に再び乳がんが発生することがあります。この温存乳房内再発には,最初のがんが残っていてそれが再発したものと,最初のがんとは別に新たながんが発生したものの2種類があります。しかし,実際にはこれらを区別することは難しく,併せて温存乳房内再発としています。

温存乳房内再発は,定期的な検査でみつかる場合や自身でしこりを感じ検査を受けて判明する場合があります。治療は,超音波,マンモグラフィ,MRIなどの検査を行い,がんの広がりを判定したうえで手術を行います。乳房全切除術によって,残された乳房全体を切除するのが標準です。再び乳房温存手術が可能なのは,しこりが小さく,病巣の広がりが限局的で,手術後も美容的に十分満足のいく形が保たれる,初回の治療が不十分であった(切除範囲が小さすぎた,放射線療法をしていないなど),患者さんが再度の温存手術を強く希望している,再発までの期間が長いなどの場合です。この再度の温存手術の後,2度目の乳房内再発を起こすこともありますが,どのような人に再発が多いのかはまだわかっていません。

一方,再発までの期間が短く,皮膚全体に赤みを帯びた再発をきたした場合は,がん細胞の悪性度が高く,進行も早いことが多いため,がん細胞が全身へ広がっている可能性があります。このため,抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などの全身療法を先に行い,それらの治療効果が現れれば,手術,放射線療法などを考慮します。

乳房全切除術後の胸壁再発と治療

乳房全切除術後に,その周囲の皮膚,胸壁に再発を起こすことがあります。これらは,しこりとして感じたり,湿疹(しっしん)や虫刺されのような症状でみつかる場合もあります。治療方法は,そのしこりが,全身的な再発の一部分の症状なのか,局所的な(胸壁とその周りだけの)再発であるのかで異なります。

(1)全身的な再発を伴う場合

肝臓や肺などの全身的な再発とともに胸壁再発が起こった場合は,胸壁の病巣より肝臓や肺の病巣がからだに悪い影響を及ぼすので,全身療法としての抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などを優先します。

全身療法により肝臓や肺などの病巣は縮小したにもかかわらず,胸壁の病巣に対して効果が不十分である場合には,出血や感染を予防する目的で,その部分だけを切除することもあります。一方,肝臓や肺などの病巣とともに,胸壁の病巣も縮小傾向にある場合には,全身療法を継続します。これに加えて,以前に放射線療法を受けたことがなければ,放射線療法を行うことがあります。

これらの全身治療を行っても病状が悪化した場合は,病変からの出血や感染を予防する目的で,切除したほうがよいという意見もあります。しかし,このような場合の胸壁再発に対する切除は,ほかに治療法がない場合にのみ検討されることが一般的で,あまり勧められないのが現状です。いずれにしても,体力や病気の進行状況と併せて治療法を考える必要があります。

(2)全身的な再発を伴わない場合

他の臓器に転移がなく,胸壁とその周りだけに再発した場合は,手術から再発までの期間によって治療法が異なります。再発までの期間が長いときは,がんの悪性度が高くないと考えられ,積極的に治療することが勧められます。病気の広がりが小さく,切除が可能であれば手術を行い,以前に放射線を受けたことがなければ,術後に放射線療法を併用します。

手術や放射線療法を行った後,局所のコントロールと予後改善を目的として抗がん薬治療やホルモン療法などの全身療法を考慮します。ただし,ホルモン療法の投与期間や抗がん薬を行うべきかどうかは個々のケースにより違いがあるので,担当医とよく話し合い決定する必要があります。

手術から再発までの期間が短い場合(一般的には2年以内)や,胸壁全体が赤みを帯び広範囲に及ぶ炎症性乳がんのような再発では,がん細胞の悪性度が高く進行も早いことが多いため,がん細胞が全身へ広がっている可能性があります。この場合は,抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などの全身療法を先に行い,治療効果が現れれば,手術,放射線療法などを考慮します。

リンパ節再発と治療

初回手術を受けた側の腋窩(えきか)(わきの下)のリンパ節にも,まれに再発することがあります。多くの場合,初回手術でセンチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清が行われていますが,そのときに隠れていて切除できなかった転移リンパ節が大きくなり発見されたと考えられます。このとき,肝臓や肺などの全身的な再発(遠隔再発)が同時になければ,再度腋窩に対して手術することをお勧めします。しかし,同時に遠隔再発がみられたり,手術した側の腋窩以外のリンパ節の再発がある場合は,局所的な再発ではなく,全身的な再発の一部分であると考え,まずは抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などの全身療法を選択します。また,はじめに首の付け根(鎖骨上窩)や胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)に再発することもあります。この場合にも,まずは抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などの全身療法を行い,再発している部分が初回の手術後に放射線療法を受けていなければ,放射線療法を行うことも選択肢となります。