A.医師から特に指示がない限り,生活上の制限はありません。ご自身の体調に合わせて仕事をしたり旅行をするなど,無理のない範囲で今まで通りの日常生活を送ってください。

解説

生活や仕事,旅行

乳がん治療の目標は,がんの再発を防いだり,再発したがんを小さくするだけではありません。治療中や治療後の患者さんに,できるだけ治療前に近い生活を送っていただくことにもあります。医師からの特別な指導のない限り,日常生活で特に制限することはありません。また,自分の体調に合わせて仕事に復帰したり,旅行に出かけることは差し支えありません。

抗がん薬治療やホルモン療法,放射線療法を受けながら仕事を続けるためには,治療のスケジュールと予測される体調の変化について,医師・看護師・薬剤師に尋ねて,仕事の日程や勤務時間の調整が必要かどうかを相談するとよいでしょう。病気や治療のことを職場の上司や同僚に伝えるのを躊躇(ちゅうちょ)する患者さんは少なくありません。しかし,がん治療と仕事の両立に関してはさまざまな方面からの支援が進んできています。職場に病気のことや仕事に対するご自分の希望を伝え,職場とよく相談することも大切なことです( → Q16参照)。

手術でわきのリンパ節の郭清(かくせい)を受けた方では,腕のリンパ浮腫を発症する危険性があります( → Q25参照)。手術を受けた側の腕に過度の負担がかからないように注意しましょう。

予防接種

抗がん薬の治療を受けている方は,白血球が減っている時期は人混みを避けるなどの予防対策をしてください。インフルエンザ流行期(1~2月など)に抗がん薬治療を受けることがわかっている場合には,あらかじめインフルエンザのワクチン接種を受けておくことをお勧めします。また,65歳以上の患者さんの場合,肺炎球菌ワクチンの接種もお勧めします。

治療後の性生活

性は私たちの生活の中で大切な一部分です。病気にかかっても自分らしい生活を送るということは,とても大切なことです。ですから,乳がんになったからといって性生活をあきらめる必要はありません。性生活によって病気の進行に悪影響を与えることはありません。また,治療後に特に性生活を禁止する期間はありません。

ただし,治療によって性生活にさまざまな変化が起こることがあり,その変化の大きさには個人差があります。手術を受けた部位やリンパ節を切除したわきの下の感覚が変化し,愛撫によって違和感や不快感が生じることがあります。

抗がん薬治療やホルモン療法,放射線療法を受けていて全身倦怠感(けんたいかん)が強く,体調が思わしくないときには無理をする必要はありません。また,抗がん薬治療で白血球や血小板などが減少する時期には感染や出血が起こりやすくなるため,一時的に性生活を控えたほうがよいでしょう。なお,抗がん薬治療やホルモン療法により女性ホルモンの働きが抑えられると,腟(ちつ)の乾燥や粘膜の萎縮を生じ,その結果として性交痛を伴うことがあります。そのようなときは,腟潤滑(じゅんかつ)ゼリーを使用したりすることも効果的です。

妊娠を望まない場合,あるいは担当医に妊娠を避けるようにいわれている場合には,生理が止まっている時期であってもコンドームによる物理的避妊が必要です。経口避妊薬(ピル)は乳がんを悪化させる可能性があるため使えません。

乳がん治療後の性生活には,ご本人の心身の回復度,パートナーの受け止め方,カップルとしての性の考え方などが大きく影響します。お互いの状況や気持ちをできるだけ相手に伝え,あせらずゆっくりお互いに満足のできる方法を探しましょう。