A.副作用は抗がん薬や分子標的治療薬の種類によりさまざまですが,有効な予防法や対処法があるものとないものがあります。副作用の出方や程度には個人差がありますので,医師・看護師・薬剤師とよく相談してください。

解説

抗がん薬の主な副作用としては,吐き気・嘔吐(おうと)や脱毛,白血球減少などがあります (図1,巻末付表) 。これは,抗がん薬が増殖の盛んな細胞を攻撃するため,正常細胞の中でも増殖の盛んな細胞,例えば消化管や髪の毛の細胞,白血球をつくっている骨髄を攻撃した結果,起きたものです。ただし,副作用ががんに対する効果のバロメーターになるわけではなく,「副作用が出なかったから,がんに対する効果もない」「副作用が強かったから効果もある」というわけではありません。

抗がん薬治療(化学療法)は外来通院で点滴で行われることが多いですが,薬剤によっては吐き気が強く出たり,パクリタキセルのように(ドセタキセルも種類により)アルコールが薬剤に含まれていることがありますので,車での通院が可能かどうかはあらかじめ医療スタッフに確認しておきましょう。

図1  化学療法による副作用発現時期の目安
(インフォームドコンセントのための図説シリーズ 抗悪性腫瘍薬 肺がん 改訂版,p11,医薬ジャーナル社,2011より一部改変)

吐き気・嘔吐

吐き気(むかむか)・嘔吐(吐くこと)は,消化管粘膜や嘔吐に関係する脳の一部が刺激されるために起こります。抗がん薬を使用した直後から24時間以内に現れる急性嘔吐のほか,24時間から1週間ほどの間に起こる遅発性嘔吐,薬を用いることを予期して吐き気や嘔吐が起きる予期性嘔吐があります。

吐き気や嘔吐は,すべての抗がん薬で起こるわけではなく,程度も抗がん薬により異なります。対策としては,抗がん薬に応じて吐き気止めの薬を適切に用いることが大切です。ドキソルビシン,エピルビシン,シクロホスファミド(商品名 エンドキサン)など比較的吐き気の起こる割合が高い抗がん薬を使用する場合は,抗がん薬の点滴の前に予防的に吐き気止めの薬を使います。また,帰宅後の吐き気止めとして,NK1受容体拮抗薬〔アプレピタント(商品名 イメンド)〕, 5HT3受容体拮抗薬,オランザピン,副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイドホルモンが処方されることがあります。症状により他の薬を追加する場合がありますので,吐き気が治まらない場合は医療スタッフに相談してください。

好中球減少・貧血・出血

抗がん薬の影響により,骨髄(血液の細胞をつくっているところ)が影響を受け,血液の中の白血球,赤血球,血小板が低下します。

白血球の中の好中球には病原菌と闘う役割があります。好中球が減ると肺炎などの感染症を起こすことがありますが,発熱さえなければ,好中球が減ることを心配する必要はありません。発熱時にも,ほとんどの場合は抗菌薬で対処できます。「白血球が減って,免疫力が下がる」と聞いて,「免疫力を高くする代替療法をやらなくてはいけない」と思う人もいるようですが,その必要はありません。好中球は,一般に抗がん薬使用後7~10日で減少し始め,10~14日くらいで最低値となり,3週間ほどで回復します。この間の日常生活では,手洗いやうがいをする,人が集まる場所はなるべく避けるなど,少し気をつけてください。高熱を伴い好中球が減少した場合(発熱性好中球減少症)には,好中球を増やす薬(G-CSFなど)を使用することもあります。また,場合によっては予防的に初回から好中球を増やす薬を使用することもあります。発熱時の対処方法を医療スタッフに確認しておきましょう。

貧血になったり,血小板が減少して出血しやすくなることもあります。これらの症状が強い場合は輸血をすることもあります。

今までこのような副作用は,抗がん薬を使用したときに注意しなければならないことでしたが,最近使えるようになった分子標的治療薬で,ホルモン療法と併用するパルボシクリブ(商品名イブランス)という薬剤は,内服開始後徐々に好中球が低下します。通常2週後に血液検査を受けて,好中球がそれほど低下していないことを確認して投与が継続されます。投与は最長21日間で,次回の投与の前に1週間ほど休薬します。好中球が十分回復していなければ,休薬を延長したり薬を減量して対処します。

また,遺伝性乳がん卵巣がん症候群に使用するオラパリブ(商品名リムパーザ)は貧血をきたすことがあります。必要に応じて休薬や輸血などで対応します。

脱毛(☞Q49参照)

毛髪をつくる細胞は盛んに活動しているため,抗がん薬によっては脱毛が生じます。脱毛は治療を開始して2,3週間後くらいから始まります。眉毛,まつ毛や体毛が抜けることもあります。髪の毛が長い人は,短めにしておくと扱いやすいです。

脱毛を予防する有効な手段はありませんので,かつら(ウィッグ),つけ毛,バンダナ,帽子などの使用で対処します。手軽で便利なものもあります。髪は治療が終わると徐々に生えてきますが,生え始めるまでには治療終了後数カ月かかることが多いです。また,生え始めは髪質などが変わることがあり,以前の髪質に戻るには時間がかかります。乳がんの抗がん薬治療では頻度は高くはありませんが,ごくまれに再発毛がみられない方もいらっしゃいます。

心毒性

アンスラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン,エピルビシン)には心臓に対する副作用があり,心臓がドキドキしたり,息苦しくなったり,むくみが出ることがあります。薬の使用量が増えるほど症状が出現することが多くなります。トラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)も100人に2~4人程度の割合で心臓に悪い影響を与えます(☞Q50参照)。心臓がドキドキしたり,息苦しくなったりしたときは,医療スタッフに連絡しましょう。

神経への影響

タキサン系薬剤(パクリタキセル,ドセタキセル)には末梢神経に対する副作用があり,手や足のしびれ,ピリピリ感,刺すような痛み,感覚が鈍くなることがあります。薬の投与回数が増えるほど症状が出現したり,症状が強くなります。症状が強くなる場合は休薬することもあります。治療が困難な場合も多いですが,一部有効な薬剤がありますので,医療スタッフに相談してください。

しびれの症状は半年くらいで気にならなくなる場合も多いようですが,もっと長く続く場合もあります。お箸や包丁が持ちにくくなったり,歩くときに足が十分上がらず敷居につまずいたりすることがあれば,早めに医療スタッフに相談してください。

関節や筋肉の症状

タキサン系薬剤で関節の痛みや筋肉の痛みが現れることがあります。ほとんどは一時的で1週間以内に回復します。消炎鎮痛薬で対処します。

浮腫(むくみ)

ドセタキセルの投与を重ねていくと,手足や顔にむくみが生じることがあります。予防のために副腎皮質ステロイドホルモンが使われます。むくみには,利尿薬(りにょうやく)の投与が行われることがあります。急にむくみが出たときは医療スタッフに相談しましょう。

アレルギー(過敏症)

どの薬剤もアレルギー症状を起こす可能性がありますが,特にパクリタキセルでは注意する必要があります。アレルギー症状は点滴開始直後に現れることがあります。

手足症候群

フルオロウラシル系の薬剤〔フルオロウラシル(商品名5-FU),カペシタビン(商品名 ゼローダ),テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(商品名 ティーエスワン)など〕の副作用として,手のひらや足の裏の刺すような痛み,手足の感覚が鈍くなったり,腫(は)れ,発赤(ほっせき),発疹(ほっしん),皮膚の乾燥やかゆみ,変色などの症状が現れる手足症候群があります。症状が軽い場合は保湿クリームやステロイド外用薬を塗ることにより改善します。中等症以上では抗がん薬の量を減らしたり,中断することもあります。

口内炎

抗がん薬が口の中の粘膜にダメージを与え,口の中がヒリヒリする口内炎になることがあります。感染を予防するために,歯みがきやうがいで口の中を清潔に保つことが勧められています。抗がん薬治療前に歯科受診をして虫歯や歯周病の治療,歯石除去などをしてもらうと,口内炎予防に効果的と考えられています。

下 痢

抗がん薬が腸の粘膜にダメージを与え,下痢を起こすことがあります。分子標的治療薬のラパチニブ(商品名 タイケルブ)やホルモン療法と併用するアベマシクリブ(商品名ベージニオ)でも下痢を起こすことがあります。下痢が生じた場合は,自己判断で我慢せず,あらかじめ処方されていた下痢止めを指示どおり使用してください。服薬により軽快することが多いので,可能な範囲で水分補給をしてください。もし回復せず脱水で体調不良となれば,点滴や入院などが必要になることもあります。

倦怠感(だるさ)

抗がん薬投与後数日間,場合によっては1週間以上全身のだるさが出現することがあります。だるいときには無理をせず,しばらく横になるなどしてください。

血管炎

アンスラサイクリン系薬剤,ビノレルビン(商品名 ナベルビン)は血管の炎症を起こしやすく,血管痛(血管に沿った痛み)が起きることがあります。抗がん薬注射当日は温め,翌日は冷やすとよいといわれています。抗がん薬の注射や点滴中に注射部位の皮膚に抗がん薬が漏(も)れると,皮膚がただれたり,潰瘍(かいよう)になることがあります。点滴中に,注射をしている部位に痛みがあったり,針の周囲がふくらんできたときは,すぐに看護師に連絡しましょう。ステロイド注射などの処置が必要となります。

爪の異常

爪が黒くなったり,割れやすくなることがあります。普段より爪に負担をかけないようにしましょう。割れたり剥(は)がれたりして症状がひどい場合には医療スタッフに相談しましょう(☞Q49参照)。

味覚の障害

苦味を強く感じたり,金属味を感じたり,味に敏感になったり,鈍感になることがあります。亜鉛製剤が処方されることがあります。

肝機能の障害

血液中のAST,ALT,ALP,ビリルビン値が上昇することがあります。これらは,肝臓の細胞が障害を受けていることの指標になります。障害の程度が大きい場合は,抗がん薬の量を減らしたり,中止したりします。

インフュージョンリアクション(輸注反応)

トラスツズマブやペルツズマブなどの初回投与時に発熱・悪寒が生じることがありますが(☞Q50参照),非ステロイド系消炎鎮痛薬を投与することで改善します。インフュージョンリアクション(輸注反応)とは,トラスツズマブなどの抗体の投与中または投与終了後24時間以内に多く現れる有害反応の総称です。

不妊(卵巣機能の障害,閉経)

抗がん薬が卵巣に障害を与え,閉経状態になることがあります。閉経になる確率は治療開始時の年齢と抗がん薬の治療内容により変わります。治療開始時の年齢が40歳以上の場合は閉経になるリスクは高まります。また,いったん無月経になった場合,特に40歳以上の方の場合は,そのまま閉経となる可能性が高いようです(☞Q63参照)。妊娠・出産の希望がある場合には,医療スタッフに相談してください。

高血圧

ベバシズマブ(商品名 アバスチン)投与により高血圧になることがあります(☞Q50参照)。自覚症状があまり現れないので,ベバシズマブによる治療期間中は定期的に血圧を測定することが大切です。

粘膜からの出血

ベバシズマブ投与により鼻血や歯ぐきからの出血などがみられることがあります(☞Q50参照)。通常は軽く,自然にまたは圧迫で止まります。

皮 疹

ラパチニブ(商品名タイケルブ)内服などにより皮疹を発症することがあります。皮疹が悪化する場合,薬剤使用を継続するかどうかを担当医にご相談ください。

間質性肺炎

間質性肺炎は薬剤投与中に起こる薬剤性肺障害の一つで,種々の薬剤で起こり得ます。症状としては,息切れ,呼吸困難,咳などがあります。間質性肺炎が疑われた場合には通常,原因と考えられる薬剤を中止します。

抗がん薬以外の薬剤による副作用
制吐薬(せいとやく)(5HT3受容体拮抗薬など)による便秘

抗がん薬の点滴前に,制吐薬(吐き気止めの薬)を点滴することがありますが,これにより便秘が起こることがあります。緩下剤(かんげざい)で対処できますので,担当医にご相談ください。