A.現在のご自身のからだや心の状態がどうなのか,ご自身に合った治療は何なのかなどについて,医療スタッフ,特に担当医とその都度話し合うことが重要です。

解説

再発・転移がわかったときの心の反応

再発・転移がわかったときのショックや心理的負担の程度は,最初にがんと診断されたときよりも強く,心の反応もさまざまであるといわれています。それは,再発・転移が死をより現実的なものとして感じる出来事であることによると思われます。実際,乳がんの転移を告げられた患者さんの35%に適応障害(軽いうつ),7%にうつ病(重いうつ)という診断がつくなど,日常生活に支障をきたすほどの苦しい思いをされているという報告もあります。

また,こうした診断がつかないまでも,再発・転移を告げられた多くの患者さんは初期治療に対する怒りや悲哀,起こるかもしれない痛みへの不安や身の置き所のない気持ち,死への恐怖,これから人に頼らなければならなくなることに対する心理的苦痛など,さまざまな心の反応を経験されながら日常生活を送っています。より死を意識し,不安や恐怖に圧倒されそうになることで生きる意味が揺らぎ,孤立感が生じやすくなり,つらく悲しい気持ちになることもあるかもしれません。しかし,そのような思いを抱いている患者さんはあなた一人だけではありません。同じような経験をしている仲間がいることを,どうか忘れないでください。あなたは一人ではありません。

医療スタッフとともにできること

では,こうした状況の中で,まず医療スタッフとどのように向き合えばよいのでしょうか?何よりも大切なことは,現在の自分の状態がどうなのか,自分に合った治療は何なのかなどについて,医療スタッフ,特に担当医としっかりと話し合うことです。そのためには,医療スタッフとしっかりとしたコミュニケーションをとる必要があります。医療スタッフとの認識の行き違いが起こらないためにも,説明される内容がわかりにくい場合には躊躇(ちゅうちょ)せずにそれを伝え,納得がいくまで聞いてください。限られた時間の中で,自分が聞きたいことを整理し,1回に聞くことを数項目に絞って具体的に尋ねてみるのがよいでしょう。

気持ちの整理の仕方

再発・転移を告げられた後,身体症状が現れるたびに,あるいはさまざまな情報が耳に入ってくるにつけ,不安や恐怖といったさまざまな心の変化が生じてくると思われます。そのときの対処として,「正しい知識」「がんとの付き合い方」「ソーシャルサポート」「リラックス法」が重要といわれています。具体的には,以下の考え方を参考にしてください。

  1. 「がん=死」と思い込まないようにしましょう。がんの治療法は日進月歩です。
  2. 信頼できる方に気持ちを打ち明けてみましょう。患者会に参加してみるのも一つの方法です。積極的に周囲の方から心のサポートを受け,自分の気持ちをコントロールする力を高めましょう。
  3. リラクセーションや音楽といった,気持ちをリラックスさせるような方法を積極的に利用しましょう。
  4. こころの専門家に相談することをためらう必要はありません。それは精神的に弱いということではなく,がんとうまく取り組むための賢明な行動といえます。

「今後への不安・死の不安」という気持ちが現れないようにしたり,その気持ちを消し去ってしまうのは難しいと思います。不安をもちながらも,目の前のことを普段通り行っていくことが重要です。少し先の自分にできそうな具体的な目標を少しずつこなし積み重ねていくことで,先がみえ不安が軽くなることもあります。一人で頑張りすぎないこと,不安を一人で抱えこまないことが大切です。特に,治療の期間が長くなると予想されるので,仕事や家事,日常生活へ影響が及びます。周りの人に,現在の自分の状態を伝えて,理解と協力を得ておくとよいでしょう。各地のがん診療連携拠点病院にある相談支援センターで相談してみるのもよいでしょうし,不安が強い場合には,こころの専門家に相談してみてください(☞Q14参照)。