A.治癒を目指して行う「術前・術後の抗がん薬・分子標的治療」では,決められた組み合わせで,決められた量を使用することが推奨されます。しかし,生活の質の改善と延命を目的に行う「転移・再発時の抗がん薬・分子標的治療」では,からだの状態や副作用に合わせて投与量や投与間隔を変更することがあります。

解説

術前・術後に行う抗がん薬・分子標的治療の目的

術前・術後に行う抗がん薬・分子標的治療を「初期治療としての抗がん薬・分子標的治療」と呼びます。その目的は,画像でとらえることのできない微小な転移を死滅させることによって,「乳がんを完全に治す」ことです。個々の患者さんに対して推奨される抗がん薬・分子標的治療は,現在までの多くの臨床試験の結果から得られたデータ(エビデンス)をもとに,がんのタイプや進行度を考慮して決めることになります。薬剤ごとに規定された投与間隔と規定された投与量を守って,できるだけ減量はせずに治療を行っていくことが重要となります(巻末の薬剤表,付12をご参照ください)。薬剤治療の投与間隔を延ばしたり,薬剤の投与量を減らした場合には治療効果が落ちることが知られています。

転移・再発したときに行う抗がん薬・分子標的治療の目的

一方,遠隔臓器に転移・再発した乳がんに対する抗がん薬・分子標的治療の目的は,初期治療で目指した乳がんの克服ではなく,QOL(生活の質)の改善と延命です。QOLの改善が転移・再発乳がんに対する治療の主要な目標であるため,抗がん薬により副作用が強く出る場合には,抗がん薬の減量を考慮します。減量しても副作用がまだ強い場合には,さらに減量したり,休薬したりします。状況によっては薬剤の変更も検討します。転移・再発乳がんに対して抗がん薬・分子標的治療を行う場合には,このように効果と副作用のバランスを常に考慮しながら治療を行っていくところが,初期治療に対する抗がん薬・分子標的治療とは大きくスタンスが異なります。