A.乳がんがみつかったからには早く治療を受けたい,と希望されると思いますが,急いで治療を始める必要はありません。まずは,ご自身の乳がんの状態や性質を知り,それに合わせた治療を選ぶことが大切です。

解説

治療を考えるときに必要なこと

乳がんの治療は,手術,薬,放射線などを組み合わせて行い,何通りものやり方があります。どれがご自身にとって最善かは,ご本人と医師がじっくり話し合って決めなくてはなりません。ほとんどの患者さんにとって治療は初めての体験で,「それを受けたらどうなるか」を想像することさえ難しいと思われます。病院や治療法を決めるときは,あせらず時間をかけて,納得のいくまで検討してください。乳がんを経験した方の話を聞くのも参考になります。

(1)乳腺の専門医をみつける

病院の案内に「乳腺科」が標榜(ひょうぼう)されていなくても,中規模以上の病院の多くは,乳がん治療を専門にしている医師がいるので,尋ねてみてください。日本乳癌学会が認定している乳腺専門医のいる医療機関は,日本乳癌学会のホームページにも掲載されています(https://jbcs.xsrv.jp/member/aboutus/shisetsu/)。

通院に要する時間や交通手段,ご高齢の場合などには,同伴する家族の都合なども検討して,病院を決めるとよいでしょう。

(2)情報を集める

治療を始める際には,まず初めに,自分自身の病気の特徴や治療計画について知ることがとても大切です。そのためには,まず必要な情報を集めましょう。わかりやすくまとまっているのは「国立がん研究センターがん情報サービス」です(https://ganjoho.jp/public/index.html)。あなたの地域にある病院で何件ぐらい治療をしているのかなどの基本的な情報や,治療に関する小冊子も無料でみることができます。また,このガイドラインを発行している日本乳癌学会のホームページ(https://www.jbcs.gr.jp/)も参考にしてみてください。

不安の中には,「抗がん薬の副作用は強いのかな」「この先,どうなるんだろう」という「わからない」ところからきているものもあるため,治療の内容を知ったり,見通しが立ったりすることで,安心できることも多いと思います。また,治療方針を決めるときに,  表1 に示した情報が必要ですので,診断後や手術後に必ず聞いておきましょう。

本書は,患者さんが病気や検査の内容を理解したり,治療を選択したりするときに参考にしてもらうという目的で書かれています。日常生活上での問題や患者団体の情報などは,他の本やインターネット上の情報などを参考にしてください。ただし,それらの情報は玉石(ぎょくせき)混淆(こんこう)であり,不確かな情報や間違った情報,時代遅れの情報も非常に多く載っていますので,注意してください。特に,代替(だい たい)治療や標準的とはいえない治療について,しかるべき第三者のチェックを受けることなしに,「○○を飲んだらがんがみるみる小さくなった」とか「△△療法でがんが消えた」といった内容が載っていることがあります。また,「××大学の医師,□□がんセンターの医師」が載せていることもあります。病気に少しでもよいというものがあれば試してみたいという気持ちはどなたもお持ちだと思いますが,これらの情報に振り回されると,健康や時間,お金といった大事なものを失いかねませんので,気をつけてください。気になる情報があったら,担当医に確認してみるのもいいと思います。

表1  治療法決定に必要な情報

がんの進行度に関するもの:
治療の流れや手術方法を決めるのに必要
がんの性質に関するもの:
薬物療法を行うか,どの薬を使うか,を決めるのに必要
しこりの大きさ
がんの広がり(リンパ節への転移)
他臓器への転移の有無
病巣の数,位置
がんの悪性度
ホルモン受容体の有無
HER2の状況
増殖指標(Ki67など)
(3)標準治療とは何かを知る

「標準」という言葉から,「特上・上・並」とあるランクのうちの「並」ではないかとイメージする人もいるようですが,標準治療は「並ランクの治療」ではなくて,「多くの臨床試験の結果をもとに検討がなされ,専門家の間で合意が得られている最善の治療法」という意味です(☞Q11参照)。ご自身の状況を把握したうえで,標準的な治療が何かを知っておくことは治療法を決定するうえでとても大事なことです。本書には,それぞれの人にとっての「標準治療」が何かがわかるように解説していますので,これらを参考に担当医とよく相談してください。

担当医と話をして納得がいかないときや,他の医師の意見を聞きたいときは,セカンドオピニオン(☞Q10参照)を聞きに行くのもよいでしょう。