A.緩和ケアは,がんに伴うからだや心のさまざまな苦痛症状を和らげて,患者さんやそのご家族がその人らしく過ごせるように支えることを目的とし,おだやかな状態でがん治療に取り組めるようにするための方法です。
緩和ケアは,進行期や終末期の患者さんだけでなく,がんと診断された時点から療養の経過を通じて受けることができるケアです。

解説

緩和ケアとは

乳がんになったことで患者さんとそのご家族は,さまざまな苦痛や問題を抱えます。それは単に痛みといった身体的な症状だけでなく,不安や落ち込んだ気分,女性としての精神的なつらさ,日々の生活で生じる社会経済的な問題,そして,その人自身の人生の意味や生きる意味についての悩みなどです。

緩和ケアとは,こうした身体的な苦痛や気持ちのつらさなどを少しでも和らげるための対処を行い,患者さんあるいはそのご家族も含めて援助することです。QOL(生活の質)を保つことで自分らしく過ごしていただくことを目的としています。

(1)緩和ケアを受ける時期

かつて,「緩和ケア」は「終末期に提供されるケア」ととらえられていた時期があったため,治療ができなくなった人のための最後の医療・ケアと誤解されがちでした。緩和ケアは病気の状態や時期に関係なく,診断された時点から療養の経過を通じていつでも受けることができ,それにより全体的に安定した状態で治療を受けられるようにするものです。また,治癒を目指した手術や,抗がん薬などの治療が難しくなった時期でも,希望する生活を保てるように,さまざまな援助をします。

(2)緩和ケアで受けられる援助

乳がんの診断や再発・転移の診断を受けて,不安な気持ちや気分が落ち込んだときには,看護師による看護相談や,臨床心理士によるカウンセリングを受けることが可能です。また,心身の緊張を和らげて十分に睡眠をとれるように薬剤が処方されることもあります。

一般的に,痛みが強いと体力を消耗し,QOLが落ちたり,治療自体もつらくなりますが,骨転移などによる痛みは適切な治療法によって80~90%は改善できるといわれています。痛みの治療〔医療用麻薬(オピオイド)を含む〕によって命を縮めることはないことが証明されており,痛みを十分に和らげることは,患者さんの生活を支えるうえでとても重要なことの一つといえます(☞Q56参照)。

また,抗がん薬やホルモン療法薬,放射線治療の有害事象や,病気の進行によってだるさ,吐き気,食欲不振などが生じることがあります(☞Q36, 48, 53参照)。さらに,咳や呼吸のつらさ,便秘,腹部の張り感,上肢のリンパ浮腫,皮膚の発赤(ほっせき)・滲出(しんしゅつ)液(えき)など,病状によってさまざまな症状が現れることがあります。このような症状に対して,いろいろな治療と援助を組み合わせていくことができます。

(3)緩和ケアを受けられる場所

緩和ケアを行っているのは,緩和ケアを専門としている緩和ケア病棟・ホスピスだけではありません。基本的な対応は担当医によって行われますし,一般病院でも緩和ケアチームという多職種の医療スタッフ(身体症状・精神症状の緩和を専門とする医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカーら)がかかわることによって,より適した症状緩和が行われるようになってきました。緩和ケア外来を設置して,通院しながら緩和ケアを受けることができる医療機関もあります。もちろん,緩和ケアチームのない病院で緩和ケアを行っているところもあります。

(4)在宅緩和ケアとは

在宅緩和ケアとは,がんそのものに対する治療を行うのが難しくなった時期のがん患者さんなどを対象に,入院ではなくご自宅で大切な時間を過ごしていただくために行う緩和ケアのことです。最近では,訪問診療などの形で積極的に緩和ケアを取り入れている診療所や訪問看護ステーションなども増えています。

緩和ケアに関する情報の入手先

緩和ケアチームは各都道府県のがん診療連携拠点病院などに設置され,緩和ケアチームや緩和ケア病棟をもつ病院の情報は,国立がん研究センターがん対策情報センターのホームページに掲載されています。また,各都道府県のがん診療連携拠点病院には,各地域医療の情報や病院の活動に関する情報を扱っているがん相談支援センター,あるいは地域医療連携室が設置されていますので,直接問い合わせることもできます。お近くのがん診療連携拠点病院をインターネットで検索できない方は,居住地域の役所の保健対策課や保健所へお尋ねください。

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