A.治療中も仕事を続けることは可能です。一人で即断即決はせず,がん相談支援センターや職場(産業医や人事),患者会などにまずは相談してみましょう。

解説

一人で悩まず,まずは相談を

がんの診断を受けた直後,「仕事は無理だろう」「周囲に迷惑をかける」と離職してしまう人がいます。仕事を辞めてしまうと,治療費の支払いなど経済的な不安を抱えこんだり,再就職先が決まらずに苦労する人もいます。

がん治療は外来中心となり,治療をしながら仕事を続けることが可能になってきました。仕事を続けるか辞めるかの判断は即決せず,まずは落ち着いて,自分の治療計画,勤務先の休暇制度や働き方の選択肢,仕事に対するあなたの気持ちを整理してみましょう。

がん診療連携拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」では医療ソーシャルワーカーや社会保険労務士など就労に関する専門家が相談を受けています。患者会でも相談を受けています。一人で悩まず,職場を含めた周囲の人に相談をし,これからの新しい働き方を一緒に考えていくことが大切です。

■参考になるサイト

・国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/public/index.html

・がん相談支援センターを探す https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/xpCon-sultantSearchTop.xsp

・一般社団法人CSRプロジェクト https://workingsurvivors.org/index.html

使える制度を確認しておきましょう

休みを取得する制度として,年次有給休暇制度があります。何日間利用できるのか? 時間単位で使うことはできるのか? など,就業規則で確認をしましょう。わからない点は人事担当者などに聞いておくとよいでしょう。企業によっては,私傷病休職制度や積立休暇など独自の休暇を整備している場合もあります。どのような休み方や働き方ができるのか,情報を把握しておきましょう 表1

表1  知っておくと役立つ主な制度

休む仕組み お金を支える仕組み(☞Q17参照)
患 者 年次有給休暇
会社独自の休暇制度
雇用主の配慮
傷病手当金
高額療養費
医療費控除
医療費貸付制度
基本手当(失業手当)
障害年金
障害者手帳
生活保護制度
家 族 介護休業・介護休暇制度
会社独自の休暇制度
雇用主の配慮
遺族年金

 

休み方によっては,収入が減ってしまう場合もありますし,治療計画によっては長めの休みが必要な場合もあります。そんなときは傷病手当金を活用してください。傷病手当金は,病気の治療で長期的な休職が必要な際に活用できる健康保険の制度で,給付を受けてから最長で18カ月間,給与の約3分の2が現金で支給されます。所定の条件を満たしていれば利用できます(☞Q17参照)。

従業員数が10人以上の会社では,就業規則を作成することが法律で定められています。休むにしても,辞めるにしても,一度は就業規則に目を通しておきましょう。有期雇用(期間を定めて働いている方)の場合は,雇用契約書や労働契約書に,契約期間中の休暇制度や契約更新の有無,時期などの条件が書かれています。

活用できる制度がない場合でも,あきらめずに「配慮」を得ることが大切です。病気だけではなく,介護や育児などで,就業規則で定めた範囲を超えた配慮を得て働いている人が職場にいれば前例になります。前例がない場合でも,あなたをきっかけに社内制度を整えていくことができるかもしれません。あなたが働き続けたいと思うなら,あきらめずに交渉してみましょう。

職場への伝え方

企業には「従業員が安全・健康に働くことができるように配慮する義務(安全配慮義務)」が労働契約法で定められており,配慮が必要な事柄は事前に把握をしておかなければなりません。そのため,立ち仕事ができないなど働き方への配慮が必要ならば,企業はあらかじめ知っておく必要があります。必ずしも病名を伝える必要はありませんが,配慮してほしい事項があれば伝えておきましょう。

配慮事項を伝える際には,なるべく具体的に,そして,配慮が必要な期間(例:1カ月程度,半年程度など)を一緒に伝えると,人事は職場の環境調整がしやすくなります。できないことばかりを伝えるのではなく,できることも伝えてください。

病気に関する情報の開示範囲は,「直属の上司のみ」「人事まで」など,人それぞれです。メリット,デメリットを考えて,こまめなコミュニケーションを心がけましょう 表2

表2  病気を開示するメリット・デメリット(働いている場合)

メリット デメリット
・仕事への配慮が得られやすい
・休暇取得への理解が得られやすい
・隠していることへの精神的負担が軽減する
・開示しても職務上の配慮が得られない
・希望の部門に(治療完了まで)つけない可能性がある
・将来のキャリア構築へ影響を及ぼす可能性

 

両立支援という考え方

産業医がいる労働者数50人以上の企業に勤務している人で,「治療をしながら仕事を続けたい」と考えている場合は,「治療と職業生活の両立支援プラン」を活用すると良いでしょう。これは,あなたの企業の産業医(人事を含む)と医療機関との間で,働き方や治療計画などに関する情報を共有し,治療と仕事の両立を支援する仕組みです 図1

図1 両立支援の考え方

2018年4月1日からは,「主治医と産業医による情報共有のやりとり」に対して一定の条件下で診療報酬で評価されることになりました。企業を交えて,これからの働き方を考えたいと希望される方は,この仕組みを活用するとよいでしょう。詳しくは,近くのがん相談支援センターへお問い合わせください。

■参考になるサイト

・治療と仕事の両立支援ナビ(厚生労働省) https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/

新たに仕事を探すために

「治療が一段落したので仕事を始めたい」「あきらめていた仕事にチャレンジしたい」など新たに仕事を探す際は,最寄りのハローワークやがん相談支援センターへ相談してみましょう。現在,各都道府県に1カ所程度,病院内でハローワークの出張相談が開催されています(長期療養者就職支援事業:厚生労働省)。開催日や開催している病院は指定されているので,がん相談支援センターに確認してください。ほかにも,求人専門誌を活用する,派遣会社や求人サイトへ登録する,親戚や知人など,これまでの人間関係を頼ることも大切です。

「履歴書に病名は書くのでしょうか?」「面接のときに病名はいうべき?」という相談を受けることがあります。履歴書には既往歴を記載する欄があるものとないものがありますから,求人先からの指定がなければ既往歴欄のない市販のものを利用することも可能です。既往歴の記載が求められたときは,職務に影響がある事項があれば,その旨を記載しましょう。

既往歴を「いうか,いわないか」よりも大切なことは,なぜこの会社を選んだのかという志望動機や職務経歴,働くうえでの配慮事項です。書類作成や面接の際には,これらを整理して,あなたの言葉で伝えましょう。

求人状況は経済動向に大きく左右されます。企業によっては採用したい年代や,求めたいスキルや職業経験が定まっている場合もあります。採用までに時間がかかる場合もありますが,あきらめずに就職相談窓口へ問い合わせてみましょう。

■参考になるサイト

・長期療養者就職支援事業(がん患者等就職支援対策事業)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000065173.html