A.手術後のホルモン療法は,閉経前では抗エストロゲン薬(5年)に,場合によりLH-RHアゴニスト製剤(2~5年)を併用します。閉経後ではアロマターゼ阻害薬もしくは抗エストロゲン薬(5年)を用いてきました。
最近の臨床試験や臨床研究から,術後5年以上経過した方でも再発するリスクがあることがわかってきており,そのような再発を防ぐために計10年間のホルモン療法をお勧めすることがあります。長期にホルモン療法を行うかどうかは,副作用などの害と再発予防の利益とのバランスで決定します。進行・再発乳がんでは,原則として効果がある間はホルモン療法を続けます。

解説

タモキシフェンは,閉経前・後に関係なく用いますが,LH-RHアゴニスト製剤は閉経前の患者さんに,アロマターゼ阻害薬は閉経後の患者さんに使用します(☞Q51参照)。タモキシフェンと同じ作用機序の薬剤であるトレミフェンもほぼ同様に使用可能です (表1)

表1  閉経前と閉経後の主なホルモン療法薬

分類 一般名 薬の働き
閉経前 LH-RHアゴニスト製剤 酢酸リュープロレリン 卵巣でのエストロゲン合成を抑える。
酢酸ゴセレリン
閉経前

 

閉経後

抗エストロゲン薬 タモキシフェン エストロゲン受容体をふさいでエストロゲンが乳がん細胞に作用するのを妨げる。
トレミフェン
黄体ホルモン薬 酢酸メドロキシプロゲステロン 間接的に女性ホルモンの働きを抑制する。
閉経後 アロマターゼ阻害薬 アナストロゾール アンドロゲンをエストロゲンに変換するアロマターゼを阻害する。
レトロゾール
エキセメスタン
抗エストロゲン薬 フルベストラント エストロゲン受容体を分解して,エストロゲンが乳がん細胞に作用するのを妨ぐ。

閉経とは,年齢が60歳以上の場合か,45歳以上で過去1年以上月経がない場合,あるいは両側の卵巣を摘出している場合のことをいいます。それ以外で,閉経しているかどうかわからない場合は,血液中のエストロゲンと卵胞刺激ホルモンを測定して判断します。

非浸潤性乳管がん(DCIS)に対してもホルモン療法が行われることがありますが,浸潤がんの場合と異なり,乳房内再発や対側乳がん発生の抑制などが目的であり,生存期間の延長には寄与しないことから益と害のバランスを考慮して,使用するかどうかを決定する必要があります。

閉経前患者さんの手術後のホルモン療法

タモキシフェンを手術後に5年間服用すると,再発の危険性を最大で半分近くに減らすことができます。さらなる投与により再発を減らすことが期待される場合には,副作用との兼ね合いを考えてさらに5年間,計10年間の服用を検討します。

また,卵巣でエストロゲンがつくられるのを抑えるために,LH-RHアゴニスト製剤を1カ月に1回または3カ月に1回(場合によっては6カ月に1回),2~5年間皮下に注射することで,さらに再発を減らすことが期待できる場合があります。

アロマターゼ阻害薬を閉経前の患者さんに用いるためには,LH-RHアゴニストを使用し,患者さんの体内のホルモン環境を閉経後の状態にしなければなりません。タモキシフェンが使用できない場合や,アロマターゼ阻害薬を選択するほうが良いと考えられる場合は,保険適用の状況が許せば,アロマターゼ阻害薬とLH-RHアゴニストを併用します。

 

閉経後患者さんの手術後のホルモン療法

アンドロゲンからエストロゲンをつくるアロマターゼの働きを阻害するためにアロマターゼ阻害薬を使います。アロマターゼ阻害薬には,アナストロゾール(商品名 アリミデックス),レトロゾール(商品名 フェマーラ),エキセメスタン(商品名 アロマシン)の3種類(いずれも内服薬)があります。この3種類の薬の効果は,ほとんど同じとされています。

アロマターゼ阻害薬を手術後5年間服用すると,タモキシフェンを5年間服用するのと比べて,再発する可能性を5年間で数%改善させます。また,タモキシフェンを2~3年間服用している患者さんが,途中でアロマターゼ阻害薬に変更し合計5年間服用する方法や,タモキシフェンを5年間服用後にアロマターゼ阻害薬に変更して2~5年服用する方法も有効です。アロマターゼ阻害薬の副作用(☞Q53参照)が問題となる場合には,タモキシフェンを使います。

アロマターゼ阻害薬の使用期間として,5年間と10年間を比較した臨床試験の結果が報告されてきています。再発の減少には10年間の服用が優れているという結果が出てきましたが,副作用も投与期間の長さとともに増加することから,術後の病理検査で判明したがんの生物学的特性や進行度などを勘案し,益と害のバランスを考え,投与期間を決定する必要があります。

遠隔転移がある場合

遠隔転移のある患者さんには,閉経前では,LH-RHアゴニスト製剤とタモキシフェンの内服を同時に行います。効果が続いている限り,同じ治療を続けます。その治療が効かなくなった場合には,LH-RHアゴニストを使用したまま,フルベストラント(商品名 フェソロデックス)にCDK4/6阻害薬であるパルボシクリブ(商品名 イブランス)またはアベマシクリブ(商品名 ベージニオ)を使用します。LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬の併用については,保険適用の状況が許せば使用できます。

閉経後では,フルベストラントまたはアロマターゼ阻害薬を使います。がんの生物学的特性や進行度を検討し,必要に応じてCDK4/6阻害薬であるパルボシクリブまたはアベマシクリブをホルモン療法薬と併用して使用します。一方,アロマターゼ阻害薬やフルベストラントの効果がなくなってきたときのホルモン療法薬としては,タモキシフェンや酢酸メドロキシプロゲステロン(商品名 ヒスロンH)などを使用します。実際に使用できる病状は限られますが,エチニルエストラジオール(商品名 プロセキソール)という薬剤も使用されることがあります。