A.再発の治療は,局所再発と遠隔転移再発の2つで大きく異なります。
局所再発の場合は,再発巣を手術で切除した後,必要に応じて放射線療法や薬物療法を行い,さらなる再発を予防します。
一方,遠隔転移再発の場合は,がんの治癒(ちゆ)を目指すのではなく,がんの進行を抑えたり症状を和らげたりしてQOL(生活の質)を保ちながら,がんと共存するための治療を行います。
解説
局所再発の治療(☞Q43参照)
局所再発のみで遠隔転移のない場合は,治癒を目指して治療します。温存手術で残した乳房に再発した局所再発(温存乳房内再発)の場合は,通常,乳房全切除術を行います。乳房全切除術後に胸の皮膚やリンパ節に再発した場合は,切除できると判断されれば,がんの部分を切除し,以前に放射線治療を同じ場所に行っていなければ,追加で放射線療法を行うのが一般的です。手術後に薬物療法を行う場合もあります。切除が難しい場合には,薬物療法や放射線療法をまず行い,可能になった場合は切除も検討します。
遠隔転移の治療
(1)治療の考え方
遠隔転移は,乳房から離れた部分に乳がんが出てきたものですが,画像検査でみえている病巣以外のどこかにも目にみえないがん細胞が潜んでいると考えられます。現在の治療法では,これらの全身に潜んでいるすべてのがん細胞を根絶するのは難しいのが現状です。目にみえる遠隔転移の病巣を手術で切除しても,目にみえないがん細胞はからだのどこかに潜んでおり,それらが増殖してくると考えられます。さらに手術そのものは,からだに負担をかけるので,通常,遠隔転移に対して手術は行いません。ただし例外として,肺に転移と考えられる病巣が1つあるが,乳がんの転移か,肺に新しくできた肺がんかの区別がつかない場合など,診断のために肺の病巣を切除したり,肝臓の場合は病巣の生検を行うことがあります。また,薬がよく効いたときに,今後の症状の出現を防ぐことを目的に手術や放射線療法などを検討することがあります。
遠隔転移の治療は,からだ全体に効果があることが必要ですので,薬による治療が基本となります。乳がんに有効な薬にはさまざまなものがあり,効果をみながら治療を続けます。こうして,がんの進行を抑えたり症状を和らげたりすることができれば,QOLを保ちながら,がんと共存することができます。糖尿病や高血圧といった慢性疾患と同じように,再発・転移がんの治療は,病気を抑えながら長く付き合うという戦略で進めます。再発の診断を受けた人の中には,このようなやり方で治療を続けながら,長い間お元気で過ごされている方が大勢います。担当医とじっくり作戦を立ててください。
(2)再発の治療に使う薬と使い方
薬にはたくさんの種類があり,一つの治療法を行って効果があるうちはそれを続け,効果がなくなってきたら別の治療法に変更するというやり方で進めます。治療法は,①がん細胞の特性(ホルモン受容体の有無,HER2の状況),②患者さんのからだの状態(閉経の状況,臓器機能が保持されているかどうか),③患者さんのご希望などを考慮に入れ,治療効果とQOL,治療によって得られる利益と不利益のバランスをよく考えて決めます。QOLを維持し,よりよくすることは非常に大切です。
図1 は,治療法を決める大まかな流れを示したものです。まず,ホルモン受容体陽性の人は,ホルモン療法薬を使用します(☞Q52参照)。HER2陽性の人は,トラスツズマブなどの抗HER2薬を使用します(☞Q50参照)。それ以外の人や,ホルモン療法が効かなくなった場合は,抗がん薬による治療の適応になります(☞Q46参照)。BRCA1/2遺伝子検査を行い,PARP阻害薬のオラパリブ(商品名リムパーザ)が使用できるかを検討することもあります。どの薬を先に使用するかは,進行スピードなどによって順番が変わります。
図1 再発・転移治療の大まかな流れ
(3) 治療効果の判定
CT,MRI,単純X線写真などの画像検査で確認された転移病巣の大きさを測定し,定期的に同じ画像検査を繰り返します。前回の病巣の大きさと比較することで薬剤や放射線の効果が判定できます。腫瘍マーカーは画像検査の補足として用いられます。
治療開始からおおむね2~6カ月ごと(3~4カ月ごとが多い)に同じ検査を繰り返し,同じ病巣を比較します。病巣が小さくなっていたり,変化がなければ同じ治療を続け,明らかに大きくなっていたり,新たな転移巣が出現した場合は,その治療を中止したり新たな治療に変更することが一般的です。画像検査による判定が最優先で,腫瘍マーカーの推移による病状の判定はあくまで画像検査の補足となります。
一方で,骨転移や胸膜(きょうまく)転移,腹膜転移は,良くなっているか悪くなっているかの判断が難しい場合が多いです。この場合は,腫瘍マーカーの推移や患者さんの症状が改善しているか,などを参考とします。
最近普及してきたPETあるいはPET-CTは再発・転移病巣を写し出すには大変優れた検査機器ですが,治療効果の判定に有用かという点についてはまだはっきりしていません。治療効果の判定にPETを使用するかどうかは担当医とも相談してください。
(4)さまざまな専門家の力を借りる
療養中は乳がんや薬に関連したさまざまな症状が出ることがあります。これらの症状を和らげるためには,専門的なケアが必要とされ,「緩和ケア」や「支持療法」と呼ばれています。緩和ケアは,以前は「終末期に提供されるケア」とされた時期があったため,がんの治療ができなくなった人のための最後の医療・ケアと誤解されがちでしたが,現在は「がん治療の早期から並行して始めるケア」というように考え方が変わりました。一般病院でも緩和ケアチームという多職種の医療スタッフ(医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカーら)がかかわることによって,症状緩和を行うようになってきたので,これらの専門家の力を借りるのもよいことだと思います(☞Q13参照)。また,治療薬の副作用などによっても症状が出てくることがあります。これについても,多職種の医療スタッフの助けを借りながら対応していきます。