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薬の飲み方は,まずは医師の指示通りに服薬することが基本です。もし医師から処方された薬に関して何か不安があるときや,からだの症状によって指示通りに飲めないとき,副作用がつらいときなどは,担当医や薬剤師,看護師に相談しましょう。また,他の医療機関を受診したときは,現在飲んでいる薬の内容を医師に伝えてください。

解説
薬を飲む時間

薬を飲むタイミングについては,「食前」「食直前」「食後」「食間」「眠前」「○○時,頓服・頓用(とんよう)」などの指示が出ます。「食前」とは食事の30分くらい前,「食後」とは食事が終わって30分くらい後のことを,「食間」とは食後2時間くらい後のことを指します。「30分」は目安ですので,あまりこだわる必要はなく,多少時間がずれても飲み忘れないことのほうが大切です。食事が取れなくても服用してよい薬もありますので,食事が取れなかった場合の対応は事前に担当医や薬剤師に確認しておきましょう。

飲む時間が決められている薬は,決まった時間に飲むようにしてください。そうしないと,効果が十分に出なかったり,強く出すぎたりする場合があります。例えば,ラパチニブ(商品名 タイケルブ)は,食後に服用することで効果が強く出すぎる場合がありますので,空腹時に服用するように指定されています。テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(商品名 ティーエスワン)は,空腹時に服用すると効果が減弱する可能性があるため,食後に服用するように指定されています。

1週間に一度,あるいは1カ月に一度内服する骨粗(こつそ)鬆症(しょうしょう)の薬(ビスホスホネート製剤)は,ほかの薬や食べ物,水以外の飲み物と一緒に服用すると,からだに十分吸収されず効果が低下します。十分な薬の効果を得るためには,朝起きたときの空腹時に飲んで,その後30分以上経ってから食事をするようにしてください。また,薬が口の中や食道に付着しないようにコップ1杯の十分な量の水で飲んでください。そして,飲んだあと30分間はからだを起こした状態で過ごしてください。

頓服・頓用薬は症状があるときに使う薬です。使用する間隔や1日に使ってよい回数などは薬によって異なりますので,担当医や薬剤師に確認してください。次の診察の際に,使った量や回数,その後の症状の変化について担当医や薬剤師に伝えましょう。

内服の抗がん薬

抗がん薬や分子標的治療薬には注射薬だけでなく,内服薬(飲み薬)もあります。内服の抗がん薬であるテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤やカペシタビン(商品名 ゼローダ),分子標的治療薬であるパルボシクリブ(商品名 イブランス)は,薬を飲む期間(服用期間)と飲まない期間(休薬期間)があります。副作用の種類や程度によって,1回に服用する量を減らしたり服用期間を短くしたり,あるいは休薬期間を長くしたりする場合があります。薬の服用量は効果や副作用にも影響しますので,医師の指示通りに服用し,自分の判断で服用量や服用期間を変更しないでください。また,これらの薬と絶対に一緒に使用してはいけない薬があります。以前に処方された薬が自宅に残っていても,決して飲まないでください。

飲み忘れたときの対応

薬は医師の指示通りに飲むことが大切です。しかし,ときに飲み忘れてしまうことがあるかもしれません。飲み忘れに気がついたときにどうしたらよいかは,事前に担当医や薬剤師に確認しておきましょう。多くの場合は,飲み忘れに気がついたときが,本来飲むべき時間からあまり経っていなければ,気がついた時点で飲んで問題ありませんが,時間が経ってしまったときには,その分は飲まずに次の分から飲むことになります。その際に,前回飲み忘れたからといって,一度に倍量を飲むことはせずに,決められた1回分だけを飲んでください。

1日1回服用するホルモン療法薬は,いつ服用しても効果や副作用は変わりませんので,その日のうちであれば飲み忘れに気づいた時点で飲んでください。毎日,できるだけ同じ時間帯に飲むことをお勧めします。例えば,夜は食事の時間が決まっていないので朝の服用にする,あるいは,朝は忙しいので夜にするといった工夫です。

週1回あるいは月1回だけ飲むビスホスホネート製剤は,決められた曜日あるいは日にちに服用するとよいでしょう。

飲み忘れが多い場合は,気づいたときに服用できるように常に薬を持ち歩くようにしたり,1週間分の薬を1回分ずつに分けて入れておく「お薬ボックス」などを利用する,薬の包装の表面に日付を入れておくなどするとよいでしょう。また,ご家族など身近な人に確認してもらうのもよいでしょう。忙しい時間に服薬があるなど,どうしても生活リズムの中で薬を飲むタイミングを忘れやすい場合は,医師や薬剤師と服薬のタイミングについて相談してみましょう。

ほかの薬や飲食物との飲み合わせ

2種類以上の薬を飲んだときに,薬の効果が強くなったり弱くなったり,あるいは思いもよらない副作用が出たりすることがあります。これは,医師から処方される薬ばかりでなく,市販薬やサプリメントとの間でも起こる可能性があります。したがって,ほかの医療機関を受診する場合や薬局で市販薬を購入する場合,サプリメントを服用している場合は,現在飲んでいる薬の内容について医師や薬剤師に伝え,問題がないかどうかを確認してください。日頃から「お薬手帳」を利用し,それを提示するとよいでしょう。

薬は食べ物や飲み物との飲み合わせが問題になる場合もありますので,水かぬるま湯で飲むようにしてください。その他の飲み物(フルーツジュースやお茶,アルコールなど)で服用した場合,薬によっては効果が強くなったり弱くなったりする場合があります。また,グレープフルーツジュースなどは一部の薬剤で効果を増強してしまうことが知られており,一度の服用でも数日間は影響が残る場合があります。薬の服用方法や飲み合わせについて,詳しくは薬剤師にお尋ねください。

薬の保管

薬剤師の指示通りに保管しましょう。特別な指示のない薬は,直射日光の当たるところや,車など高温になるところ,湿気が多いところは避けて,できるだけ涼しい室温で保管してください。また,小さなお子さんがいる場合はお子さんの手の届かないところに保管してください。決してほかの人が間違えて飲んでしまうことがないようにしてください。医療機関で処方された薬は本人しか使用できません。同じ病気や症状の方がいても絶対に譲らないでください。

かかりつけ薬剤師,薬局制度について

薬物療法を受ける方はぜひ,病院および保険薬局の薬剤師を活用しましょう。病院の薬剤師は医師や看護師など多くの医療スタッフと連携したチーム医療の中で活動しており,抗がん薬に関する詳しい説明や,副作用についての相談に応じています。保険薬局の薬剤師も薬の飲み方や飲み合わせ等について相談できる身近な存在ですが,より密に患者さんを支える「かかりつけ薬剤師」という方がいます。「かかりつけ薬剤師」とは,薬による治療のこと,健康や介護に関することなどに豊富な知識と経験をもち,患者さんのニーズに沿った相談に応じることができる薬剤師のことをいいます。一人の薬剤師が一人の患者さんの服薬状況をまとめて,継続的に管理します。かかりつけ薬剤師は休日や夜間など薬局の開局時間外も,24時間対応(電話等)で薬の使い方や副作用等,お薬に関する相談に応じています。また,必要に応じて夜間や休日も,処方せんに基づいてお薬をお渡ししたり,医師への問い合わせや提案を行うなど,薬による治療がより効果的なものになるよう支援する役割を担います。

近年,保険薬局の中には市販薬や健康食品の相談,介護関連商品の相談などに応じられる「健康サポート薬局」もあります。さらに,2021年より,患者さん自身が自分に適した薬局を選択できるよう,特定の機能をもつ薬局に対して知事が認定を与える制度が開始されました。具体的には,入院・退院や在宅医療が必要になった際に,必要に応じて医療機関や地域の薬局と連携する「地域連携薬局」,がん医療などに専門的な知識をもち,関係機関と連携して対応できる「専門医療機関連携薬局」があります。顔なじみの薬剤師がいる「かかりつけ薬局」をもつことで,より安心して薬物療法を受けることができます。