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「局所領域再発」は,手術をした側の乳房や胸壁(きょうへき),その周囲の皮膚やリンパ節に起こるものをいいます。治療方法は,全身的な再発の一部分なのか,局所的な(乳房や胸壁とその周りだけの)再発なのかで異なります。遠隔転移がない局所領域再発の場合は,さらなる再発リスク低減を目的として,初回手術後に用いた治療なども参考に,全身薬物療法や手術,放射線療法などを適宜組み合わせて行うのが一般的です。遠隔転移を伴う場合は,全身薬物療法を優先します。

解説
温存乳房内再発

温存乳房内再発とは,乳房温存療法を受けた後,残された乳房に再び乳がんが発生することです。乳房温存療法では,乳房部分切除術後に,微量ながん細胞を根絶して再発を予防する目的で,残された乳房に放射線療法を行います(☞Q35参照)。しかし,その残された乳房に再び乳がんが発生することがあります。この温存乳房内再発には,最初のがんが残っていてそれが再発したものと,最初のがんとは別に新たながんが発生したものの2種類があります。これらの違いを区別することは難しく,併せて温存乳房内再発としています。

温存乳房内再発は,定期的な検査でみつかる場合や,自身でしこりを感じ,検査を受けて判明する場合などがあります。治療は,超音波,マンモグラフィ,MRI,CTなどの検査を行い,がんの広がりを判定し,遠隔転移がないことを確認したうえで手術を行います。同じ乳房に放射線療法を2度行うことは望ましくないので,乳房温存療法後の再度の乳房部分切除は基本的には適応となりません。乳房全切除術によって,残された乳房全体を切除するのが標準です。初回の乳房部分切除術後に放射線療法を行っていなければ,再度,乳房部分切除を行い,術後に放射線療法を行うことが可能です。そのほかにも,慎重に適応を吟味することによって,再度の乳房部分切除ができる可能性もあります。再度の乳房部分切除を強く希望される場合には,担当医と十分話し合いましょう。

一方,再発までの期間が短い,あるいは皮膚全体に赤みを帯びた再発をきたした場合は,がん細胞の悪性度が高く,進行も早いことが多いため,がん細胞が全身へ広がっている可能性があります。このため,抗がん薬治療(化学療法),ホルモン療法,分子標的治療などの全身薬物療法を先に行い,それらの治療効果が現れれば,手術,放射線療法などを考慮します。

乳房全切除術後の胸壁再発

乳房全切除術後に,その周囲の皮膚,胸壁に再発を起こすことがあります。これらは,しこりとして感じたり,湿疹(しっしん)や虫刺されのような症状でみつかる場合もあります。他の臓器に遠隔転移がなく,胸壁とその周りだけに再発した場合,病気の広がりが小さく,切除が可能であれば手術を行い,以前に放射線療法を受けたことがなければ,術後に放射線療法を併用します。切除が難しい場合でも,病気の広がりが小さく放射線療法の適応となる場合には放射線療法を行います。

手術や放射線療法を行った後,局所のコントロールと予後改善を目的として抗がん薬治療やホルモン療法などの全身療法を考慮します。ただし,ホルモン療法の投与期間や抗がん薬治療を行うべきかどうかは個々のケースにより違いがあるので,担当医とよく話し合い,決定する必要があります。

手術から再発までの期間が短い場合(一般的には2年以内)や,胸壁全体が赤みを帯び,広範囲に及ぶ炎症性乳がんのような再発では,がん細胞の悪性度が高く,進行も早いことが多いため,がん細胞が全身へ広がっている可能性があります。この場合は,病気の広がりに関して十分な検査を行ったうえで,抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などの全身薬物療法を先に行い,治療効果が現れれば,手術,放射線療法などを考慮します。

リンパ節再発

手術を受けた側の腋窩(えきか)(わきの下)のリンパ節にも,再発することがあります。多くの場合,初回手術でセンチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清が行われていますが,そのときに切除されていなかった転移リンパ節が大きくなり,発見されたと考えられます。このとき,肝臓や肺などの遠隔転移が同時になければ,再度,腋窩リンパ節に対して手術することをお勧めします。しかし,同時に遠隔転移がみられたり,手術した側の腋窩以外のリンパ節に再発がある場合は,局所的な再発ではなく,全身的な再発の一部分であると考え,まずは抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などの全身薬物療法を選択します。また,首の付け根(鎖骨上窩(さこつじょうか))や胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)に最初に再発することもあります。この場合にも,まずは抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などの全身療法を行い,再発している部分が初回の手術後に放射線療法を受けていなければ,放射線療法を行うことも選択肢となります。

全身的な再発(遠隔転移)を伴う局所領域再発の場合

肝臓や肺などの全身的な遠隔転移とともに局所領域再発が起こった場合は,局所領域再発よりも遠隔転移のほうが悪い影響を及ぼすので,全身療法としての抗がん薬治療,ホルモン療法,分子標的治療などを優先します。全身薬物療法を実施しても局所の病巣による症状がある場合は,体力や病状が許せば,症状を取り除く目的で手術や放射線療法などの局所療法を行うことがあります。