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乳房温存療法は,ステージ I,IIの浸潤性乳がんおよび非浸潤性乳管がん(主に腫瘍径3cm以下)に適応となります。また,腫瘍径が大きな場合でも,術前薬物療法により腫瘍が縮小すれば乳房温存療法は可能となることがあります。ただし,術後放射線療法ができない場合は,基本的にはお勧めできません。
解説
乳房温存療法の目的と考え方
乳房温存療法(乳房部分切除術+温存乳房への手術後の放射線療法)は,ステージが0,Ⅰ,Ⅱ期の乳がんに対する標準的な局所療法です(☞Q15, 17参照)。乳房温存療法の目的は,乳房内での再発率を高めることなく,整容性の面からも患者さんが満足できる乳房を残すことにあります。そのためには,乳がんの広がりを術前画像検査で正確に診断して,それをもとに適切な乳房部分切除術を行うこと,そして手術後に適切な放射線療法(原則的には必須)を行うことが重要です。
乳房温存療法に適した腫瘍の大きさ
腫瘍の大きさが何センチまでなら乳房温存療法の適応になるかについては,基準が設けられているわけではありません。日本では,局所再発(温存乳房内再発)をできるだけ少なくすることや,整容性の面で満足できる形を残せることを考え併せて,腫瘍の大きさ3cm以下を乳房温存療法の適応としてきました。しかし,最近では,がんを完全に取り切ることができて,整容性の面でも良好な手術が可能と判断された場合は,腫瘍の大きさが3cmより大きくても適応となることがあります。また,腫瘍が大きな場合でも術前薬物療法により腫瘍が縮小すれば,乳房温存療法は可能となることがあります。
非浸潤性乳管がんの乳房温存療法
ステージが0期の非浸潤性乳管がんでは,乳房温存療法と乳房全切除術では生存率に差はなく(手術例を集計した報告では,10年生存率は乳房温存療法で95~100%,乳房全切除術で98~100%),病変の範囲が限局している場合には,乳房温存療法が選択肢となります。がんが広範に及ぶ場合は,乳房温存療法では術後に温存乳房内再発の危険があるため,乳房全切除術が勧められます。
乳房温存療法の適応にならない場合
以下のいずれかに該当する場合は,原則として乳房温存療法が適応にならず,通常,乳房全切除術が行われます。
①2つ以上の腫瘍が,同じ側の乳房の離れた位置にある場合 ②腫瘍が広範囲にわたって広がっている場合(マンモグラフィで,乳房内の広範囲に微細石灰化が認められる場合など) ③以下の理由などで,温存乳房への放射線療法が行えない場合(☞Q33参照) a)温存乳房への放射線療法を行う姿勢がとれない b)妊娠中である* c)過去に手術した側の乳房や胸郭へ放射線療法を行ったことがある d)活動性の強皮症や全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を併発している ④腫瘍の大きさと乳房の大きさのバランスから,乳房部分切除術後の乳房が整容性の面でよくないことが予想される場合 ⑤患者さんが乳房温存療法を希望しない場合 *妊娠中でも出産後まで放射線療法を待つことができると判断される場合には乳房温存療法は可能です。 |
また,遺伝性乳がん(BRCA1/2遺伝子の病的バリアントをもつ方など)では,それ以外の乳がんと比べて乳房温存療法後の温存乳房内再発のリスクが高くなる可能性が心配されることから,乳房温存療法は積極的には勧められません。乳房温存療法を行うことのメリット,デメリットについて担当医と十分話し合って行うかどうかを決めましょう。
乳房部分切除術後の追加治療について
温存した乳房にまだ多くのがん細胞が残っている(断端陽性)と予想される場合は,追加切除や乳房全切除術が推奨されます。断端陽性であっても温存した乳房に残っているがん細胞が少ないと予想される場合は,全乳房照射後にさらに部分的に放射線療法を追加(ブースト照射)する方法も有効であると考えられており,追加切除の代わりに放射線療法で対応する場合もあります。また,若年(39歳以下)の患者さんでは,断端陰性でもブースト照射の追加による再発率の低下が報告されており,ブースト照射を行うことが勧められます。
温存乳房内再発について
乳房温存療法後に残した乳房にがんが出現することがあり,これを「温存乳房内再発」と呼びます。この原因には2つあり,1つは,乳房を部分切除した際に目にみえないがんが隠れていて残ってしまい,かつ手術後に放射線療法や薬物療法を行っても生き残り,あとで大きくなって再発としてわかったもの,もう1つは,まったく新しい乳がんが同じ乳房内にできたものです。この2つを厳密に区別することは困難で,温存乳房内再発に関する多くのデータがどちらも含めた結果になっています。治療は,原則として乳房全切除術が勧められます。再度の乳房部分切除術が可能な場合もあると考えられますが,局所の再々発のリスク因子が明らかにされておらずお勧めはできません。