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どのような治療を受けるかを決めるのに必要な情報(治療の目的,内容,効果,リスク,時間や費用など)について詳しい説明を受け,患者さんご自身の希望を伝え,医師の考えや勧めも聞いて,ともに話し合い,納得したうえで方針を決めてください。

解説
医療スタッフとの上手なコミュニケーションのとり方

治療をうまく進めていくには,患者さんと医療スタッフが十分コミュニケーションをとり,良好な信頼関係を築くことがとても大切です。また,どのような治療を受けるかを決めるときには,自分の病気の状況や治療の目的,治療内容,効果,リスク(治療を受けなかったときのリスクや治療に伴うリスク),時間や費用などを十分に理解することが必要です。限られた診察時間の中で,医師の説明内容を十分に理解するためには,患者さんも診察を受ける前に聞きたいことを簡潔にまとめ,あらかじめいくつかに絞って質問するといいでしょう。一度にすべてを理解することは難しいので,何回か,情報を小分けにして質問をしてみてもよいでしょう。

治療を考えるときに必要なこと

乳がんの治療は,乳がんの進行度や性質に合わせて,手術,薬物療法,放射線療法などを組み合わせて行います。ご自身にとって最善の治療がどのようなものかは,ご本人と医師がじっくり話し合って決めていきます。ほとんどの患者さんにとって治療は初めての体験です。乳がんと診断されて間もない状態で,これからの治療がどのようなものになるのかを想像することは難しいと思われます。治療方針を決める際には,あせらず時間をかけて,納得のいくまで検討してください。乳がんを経験した方の話を聞くのも参考になります。

インフォームド・コンセントとは

患者さんが検査や治療について医師から必要な説明を十分に受け,理解したうえで同意することを「インフォームド・コンセント」といいます。

医師には,患者さんの希望や価値観,家族の状況や社会背景などを十分考慮したうえで,患者さんにとって最善の方法を提案することが求められます。そのために,患者さん自身は,「自分にとって一番大切なことは何か,どういう生活をしたいのか」といった自分の希望や意思を伝えることが大切です。また,病気にかかわることだけでなく,生活状況(例:仕事は続けたい,趣味は続けられるのか,親や子どもにはどう接したらよいのかなど)や価値観(大切にしたいことや,嫌なこと),その他の事情なども,治療を決めるうえで大切なことですので,ためらわずに伝えてください。将来,子どもをもつことを希望している方は,治療前に医師に伝えましょう。「インフォームド・コンセント」の主体はあくまでも患者さん自身です。検査や治療について十分に理解し,納得して同意できるように,説明内容がわかりにくい場合には,遠慮せずに担当医に伝えてください。治療法選択に必要なさまざまな情報を担当医と患者さんやご家族が共有し,最善の治療は何か,ということをともに話し合って決めていく過程(shared decision making=協働意思決定や共有意思決定といわれます)が,納得して治療を受けるには大切です。

適切に情報を集める

治療方針について検討する際には,自分自身の病気の特徴や治療について知ることがとても役に立ちます。基本的な情報がわかりやすくまとまっているのは「国立がん研究センターがん情報サービス」です(https://ganjoho.jp/public/index.html)。あなたの地域にある病院で何件ぐらい治療をしているのかなどの基本的な情報や,治療に関する小冊子も無料でみることができます。また,このガイドラインを発行している日本乳癌学会のホームページ(https://www.jbcs.gr.jp/)も参考にしてみてください。

本書は,患者さんが病気や検査の内容を理解したり,治療を選択したりするときに参考にしてもらうという目的で書かれています。乳がんの診断や治療について,他の本やインターネット上にも多くの情報があります。ただし,それらの情報は玉石(ぎょくせき)混淆(こんこう)であり,不確かな情報や間違った情報,時代遅れの情報も非常に多く載っていますので,注意してください。特に,代替(だいたい)治療や標準的とはいえない治療について,「○○を飲んだらがんがみるみる小さくなった」とか「△△療法でがんが消えた」といった内容が,しかるべき第三者のチェックを受けることなしに載っていることがあります。また,「××大学の医師,□□がんセンターの医師」が載せていることもあります。病気に少しでもよいというものがあれば試してみたいという気持ちはどなたもおもちだと思いますが,これらの情報に振り回されると,健康や時間,お金といった大事なものを失いかねませんので,気をつけてください。気になる情報があったら,担当医に直接確認してみるのもいいと思います。特に,「広告」サイトには不正確な情報が含まれている場合がありますので,閲覧する際には注意をしましょう。

標準治療とは何かを知る

標準治療とは「多くの臨床試験の結果をもとに検討がなされ,専門家の間で合意が得られている最善の治療法」という意味です(☞Q7参照)。ご自身の状況を把握したうえで,標準治療が何かを知っておくことは治療法を決定するうえでとても大事なことです。本書では,それぞれの人にとっての「標準治療」が何かがわかるように解説していますので,これらを参考に担当医とよく相談してください。国民皆保険制度が整っている日本では,幸いなことに,多くの標準治療が保険診療で受けることができます。インターネットで情報を探したり,担当医以外の人から何らかの治療を提案されたときには,それが保険診療なのかどうかで判断するのも,標準治療を見分ける一つの手段ですが,やはり担当医とよく話し合うことが大切です。

担当医と話して納得がいかないときや,ほかの医師の意見を聞きたいときは,セカンドオピニオンを聞きに行くのもよいでしょう。

セカンドオピニオンについて

セカンドオピニオンを直訳すると「第二の意見」です。つまり,担当医の意見が第一の意見であるのに対し,他の医師の意見を「セカンドオピニオン」と呼びます。セカンドオピニオンを聞くことは,担当医から提示された診療内容を信じないとか,担当医を見限る,あるいは他の医療機関に移ることを意味するものではありません。セカンドオピニオンを聞くのは,①乳がんという診断を確認したい場合,②初期治療を受ける際,手術,放射線療法,術前化学療法,術後化学療法など,どのような選択肢があるかを知りたい場合,③転移・再発したときに,治療法や使用できる薬剤の種類などを知りたい場合,④臨床試験について知りたい場合,などがあります。まずは,なぜ,セカンドオピニオンを聞きに行きたいのか,自分の気持ちを整理しましょう。はっきりした理由もなく,セカンドオピニオンを聞きに行くこと自体が目的となってしまわないようにしましょう。

すべての患者さんがセカンドオピニオンを聞きに行ったほうがよいわけではありません。担当医の説明を聞き,自分で納得できればそれで十分である場合が多いでしょう。乳がん診療を専門とする医療機関の多くは,グループ診療を行っており,一人ひとりの患者さんの診療方針をよく話し合い,標準治療を提供しています。担当医の説明を聞いても理解しにくい場合には,その旨を担当医に伝え,もう少しわかりやすく説明してもらいましょう。それでもなお,説明が理解できない,納得できないというようなときや,他の医師の意見も聞いてみたいときには,セカンドオピニオンを聞きに行きたいと担当医に伝えましょう。

セカンドオピニオン外来の受診の仕方は医療機関によって異なりますので,受診を希望する医療機関に事前に確認することをお勧めします。セカンドオピニオン外来は,基本的に公的医療保険が適用されない自費診療で,病院によって費用が異なっています。また,最近では,オンラインでセカンドオピニオンを受けることができる場合がありますので,医療機関のホームページでご確認ください。

聞くべきこと,質問の仕方

患者さんの中には,「医師に質問したいことはたくさんあるのだけど,何をどう聞いていいかわからない」という人も多くいます。まずは医師の話をしっかり聞き,説明が十分でないと感じたり,理解しにくかった場合には,遠慮なく確認してみましょう。必要に応じて,下記のような質問をしてみるとわかりやすいかもしれません。

・私の病状(病気の広がりや手術ができるかどうかなど)はどのようなものですか
・治療の内容と目的(再発の予防,症状の緩和など)は何ですか
・その治療のリスク(副作用,手術後の後遺症など)にはどのようなものがありますか
・その治療を受けると,どんな良いこと(再発の可能性が低くなる,症状が軽くなるなど)がありますか
・日常生活は制限されますか(どのくらいの程度,どのくらいの期間,入院か外来か,仕事を休む必要はあるかなど)
・他の治療にはどのようなものがありますか。それぞれの利点・欠点や,費用を比べてみるとどうですか
・その治療を受けないと,どうなりますか
・私の希望(再発の可能性はできるだけ少なくしたい,胸の開いた洋服を着たいなど)に合った治療は何ですか