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手術後に,特別な理由もなく放射線療法の開始を遅らせることは望ましくありません。手術後の放射線療法は,手術の(きず)が治り次第なるべく早期に(特に手術後20週以内に)始めることが勧められます。放射線療法と抗がん薬治療(化学療法)の両方を受ける必要がある場合には,術後化学療法が終わってから放射線療法を開始するのが一般的です。

解説

乳がん手術を受けた患者さんは,年齢や病気の性質,進行度などによって,放射線療法だけを受ければよい場合と,放射線療法と抗がん薬治療(化学療法)の両方を受けたほうがよい場合があります。①放射線療法だけを受ける場合には,放射線療法はいつ頃までに始めたほうがよいか,②放射線療法と抗がん薬治療の両方を受ける場合には,(1)放射線療法と抗がん薬治療のどちらを先にしたらよいか,(2)抗がん薬治療を先に始めた場合,放射線療法はいつ頃までに開始しないといけないのかが気になると思います。こうした問いに対する明確な答えはないのですが,いくつか明らかになっていることもあります。

放射線療法だけを受ける場合,いつ頃までに始めたほうがよいでしょうか

抗がん薬治療を受けずに放射線療法だけを受ける場合は,手術の創がよくなった時点で治療を始めるのが普通です。しかし,ときには手術後の合併症(創の治りが悪い場合や炎症など)や年末・年始のお休み,個人的な理由などで治療の開始が遅れることがあります。これまでの研究によると,治療開始が遅れるほど残された乳房内の再発が増える可能性が示されています。特に手術から放射線療法の開始までが20週を超えると,生存率も下がる可能性があると報告されています。したがって,特別な理由がない限り,手術後の放射線療法は,手術の創が治り次第なるべく早期に(特に手術後20週以内に)始めることが勧められます。

放射線療法と抗がん薬治療の両方を受ける場合

(1)どちらを先にしたらよいでしょうか
放射線療法と抗がん薬治療(化学療法)の両方が必要な場合,両者の順序には,放射線療法を先に行う場合,抗がん薬治療を先に行う場合,放射線療法と抗がん薬治療を同時に行う場合の3通りが考えられます。どの方法が最も治療効果が高いかを調べた研究では,放射線療法と抗がん薬治療はどちらを先に行っても長期間の観察では,局所領域再発や遠隔転移,死亡率に差がないことが報告されています。しかし,術後化学療法が必要な患者さんは遠隔転移のリスクが高いと考えられる状況であり,いったん発生すると生死にかかわる遠隔転移を少しでも減らす目的で,放射線療法よりも抗がん薬治療を先に行うことが一般的になっています。治療効果の向上を目的として抗がん薬治療と放射線療法を同時に行う治療については,副作用に問題はなく安全に行えたとする報告もありますが,見過ごすことのできない急性の副作用がみられたとする報告があり,日常診療において,術後療法としての放射線療法と抗がん薬治療を同時に行うことは勧められません。

(2)抗がん薬治療を先に始める場合,放射線療法は遅くともいつ頃までに開始しないといけませんか
術後化学療法にもさまざまな種類と投与法があり,どのように組み合わせるかで放射線療法の開始時期も異なります。標準的な術後化学療法は3~6カ月かかり,その副作用からの回復期間を含めると放射線療法の開始は手術後おおよそ4~7カ月後になります。放射線療法は,予定していた標準的な抗がん薬治療が終わり,副作用がある程度落ち着いた時点で始めても差し支えありません。

手術前に抗がん薬治療(術前化学療法)を行った場合は,手術後から放射線療法までの期間は,特別な理由がない限り,創が治り次第なるべく早期に(特に手術後20週以内に)始めることが勧められます。