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手術後の再発予防としてのホルモン療法は,これまで5年間の治療が最も多く行われてきました。しかし,最近の臨床試験や臨床研究から,術後5年以上経過した方でも再発するリスクがあることがわかってきており,そのような再発を防ぐために5年以上(計7~10年間)のホルモン療法をお勧めすることがあります。術後ホルモン療法をどのくらいの期間行うかは,再発予防の利益と副作用などの害とのバランスで決定します。

進行・再発乳がんでは,原則として効果がある間は同じホルモン療法を続けます。

解説
手術後のホルモン療法

(1)閉経前患者さんの手術後のホルモン療法
タモキシフェン(商品名 ノルバデックス),またはトレミフェン(商品名 フェアストン)を手術後に5年間服用すると,再発の危険性を最大で半分近くに減らすことができます。さらに長く投与することによって再発を減らすことが期待できる場合には,副作用との兼ね合いを考えて,さらに5年間,計10年間の服用を検討します。

また, LH-RHアゴニスト製剤を併用することで,再発を減らす効果がより高くなることが期待できる場合があります。LH-RHアゴニスト製剤の投与期間は,最近の臨床試験では5年間の投与が多くなっていますが,年齢や再発のリスクなどを考慮して期間を決めましょう。

妊娠を希望する患者さんに対するホルモン療法を中断することの安全性についてはまだわかっていませんが,国際共同臨床試験が行われており,その結果が待たれるところです(☞Q55参照)。

(2)閉経後患者さんの手術後のホルモン療法
閉経とは,年齢が60歳以上の場合か,45歳以上で過去1年以上月経がない場合,あるいは両側の卵巣を摘出している場合のことをいいます。それ以外で,閉経しているかどうかわからない場合は,血液中のエストロゲンと卵胞刺激ホルモンを測定して判断します。

閉経後の患者さんにはアロマターゼ阻害薬,または抗エストロゲン薬であるタモキシフェンやトレミフェンを使います。アロマターゼ阻害薬には,アナストロゾール,レトロゾール(商品名 フェマーラ),エキセメスタンの3種類(いずれも内服薬)があります。この3種類の薬の効果は,ほとんど同じとされています。

タモキシフェンを手術後に5年間服用すると,再発の危険性を最大で半分近くに減らすことができます。アロマターゼ阻害薬を手術後5年間服用すると,タモキシフェンを5年間服用するのと比べて,再発する可能性をさらに数%低減させます。また,タモキシフェンを2~5年間服用している患者さんが,途中でアロマターゼ阻害薬に変更し,さらに2~5年間服用する方法が有効な場合があります。アロマターゼ阻害薬の副作用(☞Q47参照)が問題となる場合には,タモキシフェンを最長10年間使います。

アロマターゼ阻害薬の使用期間として,ホルモン療法5年間終了後にアロマターゼ阻害薬を2~5年追加投与した臨床試験の結果が報告されてきています。アロマターゼ阻害薬の追加により再発の減少をもたらすという結果は出てきましたが,副作用も投与期間の長さとともに増加することから,アロマターゼ阻害薬の追加期間はどのくらいが最適かわかっていません。術後の病理検査で判明したがんの性質や進行度などを勘案し,益と害のバランスを考え,投与期間を決定する必要があります。

(3)リンパ節転移陽性で再発リスクの高い患者さんに対するアベマシクリブ(商品名 ベージニオ)
通常の術後ホルモン療法に加え,アベマシクリブを最長2年間服用することで,再発のリスクが低下することが示されています。

(4)非浸潤性乳管(ひしんじゅんせいにゅうかん)がん(DCIS)に対する手術後のホルモン療法
浸潤がんの場合と異なり,乳房内再発や対側乳がん発生の抑制などが目的であり,生存期間の延長には寄与しないことから,益と害のバランスを考慮して,使用するかどうかを決定する必要があります。

転移・再発に対するホルモン療法

転移・再発のある患者さんには,効果があればホルモン療法は期間を限定せず,できるだけ長く使用します(☞Q41, 42参照)。