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男性乳がんに対する治療の考え方は,基本的には女性乳がんと同じです。また,男性乳がんの予後は女性乳がんと比べて大きな差はありません。

解説
男性乳がんの治療に関する基本的な考え方

乳がん患者さんの約150人に1人が男性と,男性乳がんは比較的まれです。男性乳がんの患者さんの約15~20%に乳がんの家族歴があります。男性乳がんは,女性乳がんと比較して遺伝にかかわる乳がん(遺伝性乳がん卵巣がん)である確率が高いことが知られています。したがって男性乳がんにもBRCA1/2遺伝子検査は保険適用となっています。また,予後は女性乳がんと大きな差はありません。

男性乳がんに対する治療の流れは,基本的には女性乳がんと同じです。病期や乳がんの性質(グレードやホルモン受容体,HER2(ハーツ―)状況,サブタイプなど)を考慮して決めます。

早期男性乳がん

(1)手術療法および放射線療法
男性乳がんはその発症部位が乳輪乳頭付近となることから,多くの場合は,乳房全切除術が選択されます。放射線療法も女性乳がんに準じて行います。

(2)術後薬物療法
術後薬物療法は,原則として女性の場合と同様,患者さんの病状に応じて化学療法(抗がん薬治療),ホルモン療法,抗HER2療法を行います。男性乳がんに対する術後ホルモン療法としては,アロマターゼ阻害薬の有効性についてはデータが乏しいので,副作用などの観点から,タモキシフェン(商品名 ノルバデックス)投与が困難な場合を除いて,タモキシフェンの投与が勧められます。

男性乳がんに対する術後化学療法では,十分なデータがありませんが,女性乳がんのデータを考慮して,必要に応じて使用することが妥当と考えられます。HER2陽性乳がんの場合は,女性乳がんの場合と同様にトラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)など抗HER2薬の使用が勧められます。

転移・再発男性乳がん

男性乳がんが転移・再発した場合の治療も基本的な考え方は,女性乳がんと同じです。乳がんが骨・肺・肝臓などの遠隔臓器に転移した場合は,がんの治癒を目指すのではなく,がんの進行を抑えたり,症状を和らげることでQOL(生活の質)を保ちながら,より長くがんと共存するための治療を行います。

ホルモン受容体陽性乳がんには,最初の治療としてタモキシフェンが勧められます。タモキシフェンが効かなくなった場合には,アロマターゼ阻害薬やフルベストラント(商品名 フェソロデックス)などの使用を考慮します。その場合,LH-RHアゴニストを併用することもあります。CDK4/6阻害薬についても同様に検討します。HER2陽性の場合は,トラスツズマブ,ペルツズマブ(商品名 パージェタ)などの抗HER2薬と抗がん薬(化学療法薬)の併用を検討します。トリプルネガティブ乳がんの場合やホルモン療法が効かなくなった患者さんには,抗がん薬治療を女性乳がんに準じて行います。

BRCA遺伝子に病的バリアントを認める遺伝性乳がん卵巣がんの場合は,オラパリブ(商品名 リムパーザ)が使用できます。