64-1 月経歴は乳がん発症リスクと関連がありますか。

A

初経年齢が早い人ほど乳がん発症リスクが高いことはほぼ確実です。閉経年齢が遅い人ほど乳がん発症リスクが高いこともほぼ確実です。

解説

乳がんの発生や増殖には,女性ホルモンであるエストロゲンの曝露が深くかかわっています。早い初経年齢や遅い閉経年齢と乳がん発症リスクの関連については,1970年代以降,非常に多数の研究が報告されています。

初経年齢が早い人ほど乳がん発症リスクが高く,初経年齢が遅い人ほど乳がん発症リスクが低いことはほぼ確実です。また,早い初経年齢と乳がん発症の関連はホルモン受容体陽性乳がんで特に強いとされています。閉経年齢と乳がん発症についても多くの研究がなされており,閉経年齢が遅いほど乳がん発症リスクが高いことはほぼ確実です。「初経年齢が早い」あるいは「閉経年齢が遅い」場合には,閉経前女性の月経周期に伴うエストロゲンへの曝露が長くなるためと考えられています。しかし,日本人を対象とした研究では一致した結果が得られていませんので注意が必要です。

ただし,初経が遅いから,もしくは閉経が早いからといって,乳がんにならないということではありません。また,初経が早いから,もしくは閉経が遅いからといって,必ず乳がんになるわけでもありません。

64-2 妊娠・出産歴は乳がん発症リスクと関連がありますか。

解説

A

出産経験のない人は,出産経験のある人と比較してホルモン受容体陽性の乳がん発症リスクが高いことは確実です。初産年齢が高い人では乳がん発症リスクが高く,初産年齢が若いほど乳がん発症リスクが低いこともほぼ確実です。

出産と乳がん発症の関連性については,1970年代から世界中で非常に多くの研究が行われています。海外の研究では,出産経験のない人とある人を比較した場合,出産経験のない人の乳がん発症リスクは経験のある人のおおよそ1.2~1.7倍となっています。日本の研究に限れば2.2倍です。また,出産回数が多いほど乳がん発症リスクは減少し,5回以上の出産経験のある人は,出産経験のない人と比較して乳がん発症リスクが約半分となります。また,初産年齢が若いほど乳がん発症リスクは減少する一方で,30歳以上で初産を迎えた人では,出産経験のない人と比較して乳がん発症リスクは高いとされています。この傾向は日本人でも同様です。

近年,乳がんのホルモン受容体別に検討した大規模な研究報告があり,出産回数が多いことや初産年齢が若いことによって発症リスクが低くなるのはホルモン受容体陽性の乳がんだけで,ホルモン受容体陰性の乳がんの発症については出産経験や初産年齢は関連がないことが報告されています。これは日本人を対象とした研究でも同様の結果です。これも妊娠,出産に伴う,エストロゲンの変化が関与しているためと考えられます。以上より,出産経験や初産年齢は,主にホルモン受容体陽性の乳がん発症リスクに関連していると考えられています。

ただし,出産経験がある人,初産年齢が若い人,たくさん出産経験がある人が乳がんにならないということではありません。また,出産経験がない人や初産年齢が高い人が必ず乳がんになるわけでもありません。

64-3 授乳歴は乳がん発症リスクと関連がありますか。

A

授乳経験のない人は,授乳経験がある人と比較して乳がん発症リスクが高いことは確実です。授乳の期間が長いほど乳がん発症リスクが低くなることも確実です。

解説

授乳と乳がん発症の関連を研究した報告も以前から多数あり,授乳経験があることや授乳期間が長いことにより,乳がん発症リスクが低くなることは確実です。これは閉経前,閉経後の女性どちらでも同じ傾向です。授乳中は月経が止まることが多く,そのために低エストロゲン状態になることや,出産や授乳をきっかけとして乳腺細胞の分化が進むことにより乳がんの発症リスクが減るのではないかと考えられています。

先進国では開発途上国と比較して乳がん発症率が高いとされていますが,これは出産数が少ないことや授乳期間が短いことが関連しているのではないかと考えられています。

ただし,授乳経験があるから,もしくは長期間授乳したからといって,乳がんにならないということではありません。また,授乳経験がない人や,短期間しか授乳しなかった人が必ず乳がんになるわけでもありません。