日本乳癌学会では『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』を作成してきました。このたび,2019年版を改訂し,2023年版を刊行いたしました。

乳がんの診療は,日々進歩しています。世界的にも診療ガイドラインは数カ月ごとにアップデートされます。この『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』では,乳がんという病気を知り,お一人おひとりの患者さんが的確で最新の,また個々に応じた診療を受けていただけるように,必要な事柄を,項目ごとに,Q & Aの形式で記述しています。

実地の診療に即する形で,診断の手順,手法や状況に応じた展開から,治療の考え方,治療の種類,治療の前の準備,心のケア,サポートなどについても,いろいろな状況を想定しながら,なるべくわかりやすく述べられています。

最近の数年間で,相次いで新しい治療法や検査法,診断法が臨床に導入されましたので,それらの診療法に関する情報も含まれています。若年性の乳がんの治療,遺伝性乳がん,経済的支援制度や仕事とがん治療の両立などにつきましても,大項目の中であるいは小項目としてまとめられています。後半に乳がんの原因,予防を取り上げ,20項目ほどに分けて,平易な解説が行われています。

執筆は,主に医師向けガイドラインの小委員会の委員が担当しましたが,心のケアや患者さんに直結する部分などは,患者,看護師,薬剤師,医師からなる患者向けガイドライン小委員会の委員全員が担当をしました。さまざまな実際的で率直な意見をもとに作成されています。同時に,患者向けガイドライン小委員会の委員は,医師向けガイドラインの作成にも参加しました。的確に情報共有をしながら本ガイドラインは構築されています。そして,ガイドライン評価委員会からの多くの意見も随所に反映されています。

患者さんと医療者が十分に話し合い,相談し,個々の患者さんにとって最善の診療が行われることを主な目標にして,ぜひ,このガイドラインを利用していただきたいと思います。

最後に,本書の改訂にあたりご尽力いただいた,徳永えり子委員長をはじめとする作成小委員会の方々と,山口倫委員長をはじめとする評価委員会の方々に深甚なる感謝を申し述べます。

2022年12月
日本乳癌学会 理事長          戸井 雅和