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医師から特に指示がない限り,治療中,治療後の生活上の制限はありません。ご自身の体調に合わせて,無理のない範囲で今まで通りの日常生活を送ってください。

解説
生活や仕事,趣味,旅行

乳がん治療の目標は,がんの再発を防いだり,再発したがんを小さくするだけではありません。治療中や治療後の患者さんに,できるだけ治療前に近い生活を送っていただくことも,治療の大切な目標です。医師からの特別な指示のない限り,日常生活で特に制限することはありません。また,自分の体調に合わせて仕事をしたり,趣味やスポーツを行ったり,旅行に出かけることは差し支えありません。

抗がん薬治療やホルモン療法,放射線療法を受けながら仕事を続けるためには,治療のスケジュールと予測される体調の変化について,医師・看護師・薬剤師に相談し,仕事の日程や勤務時間の調整が必要かどうかを考えていくとよいでしょう。病気や治療のことを職場の上司や同僚に伝えるのを躊躇(ちゅうちょ)する患者さんもいらっしゃるかもしれませんが,がん治療と仕事の両立に関してはさまざまな方面からの支援が進んできています。病気のことや仕事に対するご自身の希望を伝え,職場とよく相談することも大切なことです(☞Q11参照)。

治療による合併症や副作用への対策

手術で腋窩(えきか)リンパ節郭清(せつかくせい)を受けた方では,腕のリンパ浮腫を発症する危険性があります(☞Q23参照)。手術を受けた側の腕に過度の負担がかからないように注意しましょう。腕にむくみが出たり,赤みや熱感が出現した場合は早めに担当医に相談しましょう。

お薬による治療を行っているときは,使用している薬剤によってさまざまな副作用が起きることがあります。予想される副作用にはどのようなものがあるか,副作用が起きた場合にはお薬を継続するのか,減らすのか,いったんお休みするのか,副作用対策のお薬をどのように使用したらよいのか,どの程度の副作用が出たら病院に連絡をするとよいのかなども,確認をしておきましょう。ご自身のいつもの状態を知っておくこと,そしていつからどのような症状が出たのか,どのように症状が変化したのかなどを次回の診察で医療者に伝えることができるように,メモや日記などで記録をしておくことも有用です。

薬の副作用は,治療中だけではなく,治療終了後に出てくる場合もあります。からだに不調があり医療機関を受診する場合には,乳がんの治療をしたことや,どのような治療を行ったかを伝えるようにしましょう。

予防接種

抗がん薬治療を受けている方は,白血球が減っている時期は人混みを避けるなどの予防対策をしてください。インフルエンザ流行期(1~2月など)に抗がん薬治療を受けることがわかっている場合には,あらかじめインフルエンザのワクチン接種を受けておくことをお勧めします。また,65歳以上の患者さんの場合,肺炎球菌ワクチンの接種もお勧めします。抗がん薬治療中の場合でも時期を選んで接種可能ですので,担当医とご相談ください。

2021年以降,新型コロナウイルスワクチンの接種が行われるようになりました。乳がんの治療中の方も,経過観察中の方も接種は問題ありません。

ワクチンを腕に接種すると,注射した部位,その周囲,注射した側のわきの下のリンパ節が腫れることがあります。乳がんの患者さんは,治療前でも治療後でも乳がんと反対側の腕へのワクチン接種が勧められます。両側乳がんの場合には,大腿部にワクチン接種する場合もありますが,担当医と相談するとよいでしょう。また,腕へのワクチン接種後まもなくマンモグラフィや超音波などの検査を受けると,その反応が画像に写ることがあります。検査を行う場合にはワクチンを接種した日にちを医療者に伝えておきましょう。また,ワクチン接種後は発熱や倦怠感(けんたいかん)などの症状が出る場合があります。がんの治療中で,明らかな発熱がある場合や,体調がすぐれない場合には無理は控え,ワクチンを打つ必要があるかは担当医と相談をしましょう。

他のがんの検診

乳がんの治療中,治療後の通院では,体調や転移・再発の可能性を評価するための診察や必要に応じて検査などが行われます。また,経過観察中は採血で腫瘍マーカーの測定やCT検査などを行う場合もあるかもしれません(☞Q39参照)が,こうした検査は,乳がん以外のがんの早期発見を目的とはしていません。年齢に応じて,胃がん,大腸がん,肺がん,子宮がんなどは自治体で行っている検診や職域検診・ドックを活用したりするとよいでしょう。CT検査などはあまり頻回とならないように担当医やかかりつけ医とも相談をしましょう。

治療後の性生活

性は私たちの生活の中で大切な一部分です。病気にかかっても自分らしい生活を送るということは,とても大切なことです。ですから,乳がんになったからといって性生活をあきらめる必要はありません。性生活によって病気の進行に悪影響を与えることはありません。また,治療後に特に性生活を禁止する期間はありません。

ただし,治療によって性生活にさまざまな変化が起こることがあり,その変化の大きさには個人差があります。手術を受けた部位やリンパ節を切除したわきの下の感覚が変化し,愛撫によって違和感や不快感が生じることがあります。

抗がん薬治療やホルモン療法,放射線療法を受けていて全身倦怠感が強く,体調が思わしくないときには無理をする必要はありません。また,抗がん薬治療で白血球や血小板などが減少する時期には感染や出血が起こりやすくなるため,一時的に性生活を控えたほうがよいでしょう。なお,抗がん薬治療やホルモン療法により女性ホルモンの働きが抑えられると,(ちつ)の乾燥や粘膜の萎縮を生じ,その結果として性交痛を伴うことがあります。そのようなときは,腟潤滑(じゅんかつ)ゼリーを使用したりすることも効果的です。

妊娠を望まない場合,あるいは担当医に妊娠を避けるようにいわれている場合には,生理が止まっている時期であってもコンドームによる物理的避妊が必要です。経口避妊薬(ピル)は乳がんを悪化させる可能性があるため使えません。

乳がん治療後の性生活には,ご自身の心身の回復度,パートナーの受け止め方,カップルとしての性の考え方などが大きく影響します。お互いの状況や気持ちをできるだけ相手に伝え,あせらずゆっくりお互いに満足のできる方法を探しましょう。
性に関する悩みは医療者に相談しにくいこともあるかもしれません。患者会やピアサポートを通して,同じ悩みをもつ仲間と情報交換や気持ちを共有してみるのもいいでしょう。