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臨床試験は,新しい治療方法の有効性や安全性を,実際に患者さんに協力していただいて確かめるものです。検討される新しい治療方法が,現時点で標準治療に比較してより良いものであるかはわかっていませんが,臨床試験で得られたデータは医療の発展や将来の患者さんのために役立ちます。臨床試験に参加する患者さんが得られる利益(メリット)や起こり得るリスクは,それぞれの試験の内容によって大きく異なりますので,十分に説明を受けて,納得して参加しましょう。参加するかどうかは患者さんの自由であり,いったん参加されたあと,いつ参加を取りやめても不利益はありません。

解説
臨床試験とは何ですか,なぜ必要なのでしょうか

臨床試験の目的は,新しく開発された薬や新しく考案された治療法が実際に「人の病気にどれくらい効くか」,「副作用はどの程度なのか」を調べることです。本当に患者さんに有益な治療法かどうかは,きちんとした臨床試験を行って結果を評価しない限り判断できません。臨床試験をせずに薬や治療法が世に出てしまうと,思いもかけない副作用で大勢の人が被害を受けたり,効かない薬や治療法にたくさんのお金を使ったりすることになります。

現在,標準治療とされている治療法や,使われている薬は,過去に慎重に臨床試験を行ってきたことで確立してきたものです。例えば,乳がんに対する乳房温存療法(乳房部分切除術+放射線療法)は,それまでに行っていた乳房全切除術に比較して術後の生存期間には変わりがないことが,多くの患者さんの参加と長期間に及ぶ臨床試験で示され,標準治療となりました。また,手術後のホルモン療法薬の服用期間は2年よりも5年,5年よりも10年のほうが再発リスクを減らすことができるということが,世界中でたくさんの患者さんが臨床試験に参加してくれたおかげでわかってきました。より良い治療方法の開発には,多くの患者さんの協力と長い年月をかけた評価が重要であり,現在の標準治療は過去の患者さんからもらった恩恵といえます。将来の患者さんに医療の進歩を届けるために,臨床試験は不可欠です。

臨床試験はどのように実施しますか

臨床試験には,参加してくださる患者さんが不当に大きな被害を受けたりしないように,そして科学的に信頼できる結果が得られるように,さまざまなルール(法律としては「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」と「臨床研究法」,ガイドラインとしては「人を対象とする生命医学・医学系研究に関する倫理指針」など)が設けられています。試験はこれらを守りながら実施します。

臨床試験には,大きく分けて,①企業や研究者が,厚生労働省から新たに薬・医療機器としての承認を得ることを目的として行う「治験」と呼ばれる試験と,②医師・研究者が中心となって薬物療法,手術,放射線療法などを組み合わせて,より良い治療法を開発するための臨床試験があります。

臨床試験に参加することで良いことはありますか

臨床試験の内容によって,参加する患者さんが得られるかもしれないメリットや起こり得るリスクはさまざまです。例えば,薬剤の治験では,市販前の薬を使うので,その薬が良いものであった場合には早く使えるメリットや,場合によっては薬剤や検査の費用が無償で提供されるメリットがあります。しかし,第Ⅰ相試験と呼ばれる臨床試験のように,まだ人での使用経験がまったくない,あるいは,ほとんどない段階の臨床試験の場合では,期待される効果が得られないか,予期しない副作用が出る可能性もあります。

また,すでに市販されている何種類かの抗がん薬を組み合わせた治療法を検討する臨床試験もあります。それぞれの薬の効果や副作用についてはデータが(そろ)っていても,薬を組み合わせることによっては,より大きな効果が得られる可能性,あるいは副作用が多くなる可能性もあるため,臨床試験で慎重に評価する必要があります。このように臨床試験は,がん医療の発展に大変重要であり,患者さんが臨床試験へ参加するということは,より良い治療法の開発に協力いただくということになります。

臨床試験には誰でも参加できるのですか

臨床試験にはそれぞれ目的があり,その試験ごとに適格基準といって,参加するための条件が設けられています。適格基準には,例えば,年齢,がんの状態やタイプ,これまでに受けた治療,現在治療中の他の病気や飲んでいる薬,その他の健康状態などがあります。その条件に合わない場合には試験に参加することはできません。また,臨床試験ごとに実施する病院も決められています。かかっている病院がその臨床試験に参加していない場合もあります。臨床試験への参加を考えてみたい場合には,まずは担当医に相談をしてみましょう。

現在行われている臨床試験の情報を完全に網羅しているものはありませんが,どのような臨床試験が現在行われているかご自分で調べたい方は,以下のサイトが参考になるでしょう。

■参考になるサイト

・国立保健医療科学院の臨床研究情報ポータルサイト https://rctportal.niph.go.jp/

・国立がん研究センターがん情報サービス(がんの臨床試験を探す)
 https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/search2.html

臨床試験への参加を提案されたときに確認すること

担当医から臨床試験への参加を提案された場合は,どのような段階の試験か,目的や方法,利益(メリット)やリスクなどについて詳しく話を聞いてみましょう。臨床試験への参加は強制ではありません。患者さんの自由意思に基づくものです。断ったら担当医と気まずくなるとか,今後病院で診てもらえないということはありません。また,参加した場合でも,理由にかかわらず途中で参加を取り止めることができます。臨床試験について理解し納得して「参加してみよう」と思われたときに参加しましょう。臨床試験の説明を受ける際には,下記のような内容を含む詳しい説明文書がもらえます。臨床試験コーディネーターと呼ばれる専門の人がいる場合が多いので,わからないことがあれば,相談するとよいでしょう。

・臨床試験の目的
・どのようなところが研究的な部分なのか(市販前の薬か,すでに乳がんでの有効性が確かめられているかなど)
・具体的な内容(どのような薬をどのくらいの期間か,入院か外来かなど)
・メリットやデメリット・リスク(副作用など)
・コストや負担(費用や通院・検査のスケジュールなど)
・試験に参加しないときの治療