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乳がんの病期(ステージ)は,しこりの大きさや乳房内での広がり具合,リンパ節への転移状況,他の臓器への転移の有無により分類されます。それぞれのステージに応じた治療の基本的な考え方があります。

解説
正しい診断の重要性

最適な治療方針を決めるためには,正しい診断が不可欠です。乳がんかどうかという診断だけではなく,その性質や広がりを評価するために,非浸潤(ひしんじゅん)がんなのか浸潤(しんじゅん)がんなのか,ホルモン受容体やHER2(ハーツ―)の状況,がんの悪性度(グレード)は何か(☞Q27参照),腋窩(えきか)リンパ節転移はあるのか,進行度(病期,ステージ)はどうか,などを診断することが重要です。これらの情報は,治療を進めながらわかってくる場合もあります。また,糖尿病や心臓病などの併存症(乳がんの発症とは関係なくもっている病気)の有無,年齢などからみた全身状態,患者さん自身の治療に関する希望なども考慮して治療方針を決めます。

乳がんの病期(ステージ)

乳がんの病期(ステージ)はしこりの大きさや乳房内での広がり具合,リンパ節への転移状況,他の臓器への転移の有無により分類されます 表1

表1  乳がんの病期(ステージ)分類

 (臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版,金原出版,2018より作成)

治療の流れ

(1)非浸潤がん(ステージ0)  図1
非浸潤がんは,がん細胞が乳管・小葉の中にとどまる乳がんで,適切な治療を行えば,転移や再発をすることはほとんどないと考えられます(☞Q27参照)。腫瘍の範囲が小さいと考えられる場合には,乳房部分切除術あるいは乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検を行い,術後放射線療法を行います。また,非浸潤がんが広い範囲に及んでいる場合には,乳房全切除術が必要になります。非浸潤がんであれば,微小転移を伴う可能性はとても低いと考えられます。多くの場合,術後に薬物療法を行う必要はありませんが,ホルモン受容体陽性乳がんの場合には,温存乳房内再発や対側乳がんの予防目的で乳房温存療法後にホルモン療法を行うという選択肢もあります。

 図1  非浸潤がん(ステージ0)に対する治療の流れ
(日本乳癌学会編,乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版,p15,金原出版,2022より改変)

(2)浸潤がん
浸潤がんは,乳管・小葉の外にまで広がった乳がんを指します(☞Q27参照)。乳がんと診断される場合,約80%以上は浸潤がんです。

▶ステージⅠ~ⅢA  図2

 図2  ステージⅠ~ⅢAの早期乳がんに対する治療の流れ
(日本乳癌学会編,乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版,p17,金原出版,2022より改変)

①腫瘍が比較的小さい場合
腫瘍の大きさが比較的小さく,マンモグラフィで広い範囲に石灰化が広がっていないような場合には乳房部分切除術が可能です。腫瘍が乳頭に近くても乳房部分切除術ができることもあります。乳房部分切除術を選択した場合には,原則として術後放射線療法を行う必要があります。必要に応じて術後薬物療法を行います。

②腫瘍が比較的大きい場合
・手術→術後薬物療法
腫瘍が比較的大きく,乳房部分切除術が困難であると考えられる場合,乳房全切除術を行います。ステージIでも,マンモグラフィで広い範囲に石灰化が認められたり,CTやMRIで乳房内にがんが広く広がっていると考えられる場合には乳房全切除術を行います。

・術前薬物療法→手術
腫瘍が大きいため,そのままでは乳房部分切除術ができない場合でも,術前に薬物療法を行い,腫瘍が小さくなれば乳房部分切除術が可能になる場合があります。術前薬物療法でどの薬剤を選択するかは,基本的には術後薬物療法での考え方と同じです(☞Q30参照)。

▶局所進行乳がん(ステージⅢB,ⅢC)  図3
乳房表面の皮膚や胸壁(きょうへき)にがんが及んでいる,炎症性乳がん(☞Q28参照)となっている,鎖骨上リンパ節にまで転移が及んでいる,などの場合は,遠隔転移を有しない局所進行乳がんといわれます。まずは,手術を可能にするために薬物療法を先行します。薬剤の選択は,ステージⅠ~ⅢAに準じます。薬物療法を行った後に,乳房のしこりや腫れていたリンパ節が縮小し,手術が可能になった場合には,手術や放射線療法などの局所療法を追加することを検討します。

 図3  局所進行乳がん(ステージⅢB,ⅢC)に対する治療の流れ
(日本乳癌学会編,乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版,p41,金原出版,2022より改変)

▶遠隔転移を伴っている乳がん(ステージⅣ)
この場合は,転移乳がんとして全身治療を行います。治療の目的,流れについては,Q4142を参照してください。原発病巣に対しては,疼痛,出血,感染などがある場合には,手術,放射線,モーズ軟膏などの局所療法を行います。