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乳がんと診断された時点から治療が進む中で,患者さんとそのご家族はさまざまな不安を抱え,それが生活に影響を与えることもあります。

不安の多くは正常な心の反応です。誰かに聞いてもらえることで軽くなることもありますので,一人で抱え込まず,医療スタッフやご家族など周囲の人や,患者会などに話してみましょう。不安の程度が強い場合は,心の専門家に相談することをためらわないようにしましょう。

解説
乳がん患者さんの不安

患者さんの多くは,自分の乳房にしこりをみつけたとき,乳がんと診断されたとき,手術や抗がん薬の治療が始まるときなど,その時々でさまざまな不安を感じたり,戸惑ったり,誰かに助けを求めたくなったりすることと思います。不安になったり戸惑ったりするのは正常な心の反応です。

不安は,からだの状態がどうなるかわからないこと,今後の治療や見通しが不確かなこと,家族や仕事への影響など,さまざまなことに思いをめぐらせることで起こります。強い不安や落ち込んだ状態は,通常は一時的なもので,たいていの人は2~3週間くらいで前向きな気持ちになるとされます。しかし,不安が強かったり長く続くと,動悸(どうき)がしたり胸が重苦しくなったり手足が(ふる)えて汗をかいたりといった身体的な症状が現れることもあり,QOL(quality of life; 生活の質)や日常生活に影響を及ぼすこともあります。

乳がん患者さんの家族の不安

大切な人が病気にかかると,ご家族も精神的に大きな影響を受け,患者さんと同様に,不安になったり,気持ちが落ち込んだりすることがあります。患者さんとご家族が,このような気持ちを理解し合い,病気や治療について話し合いを重ねながら,一緒に歩んでいくとよいでしょう。ご家族は,患者さんを支えるためには弱音は吐けない,などと無理しすぎないことが大切です。

不安への対処法

不安に思うことの中には対処できるものもありますので,不安のもとになっている原因を整理することが重要です。不安の多くは,病気や治療,対処方法,今後の見通しなどについての情報や理解を得ることで和らぐことがあります。まずは,医師や看護師,薬剤師など,医療スタッフに遠慮せずに思っていることを話してみてください。治療によって,生活にどのような変化が生じる可能性があるか,それに対してどのような準備をしておけばよいかなどを,家族を含め,医療スタッフとともに話し合うことが大切です。

また,自分の気持ちを整理するのは一人ではなかなか難しいものです。ご家族や友人など周囲の人と話をすることで,気持ちが徐々に整理され,安定することもあるでしょう。ほかの人に助けを求めることは,自分の状態を改善するための良い方法ですので,ためらわずに周りの人に相談してみてください。

「がんの社会学」に関する研究グループの「がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査報告書(2003年)」によると,がん体験者の悩みや負担のうち最も多かったのは「不安などの心の問題」で48.6%でしたが,2013年の同報告書では34.5%でした。不安などが減少した理由として,医療スタッフとの話し合いや,相談支援センターの利用,カウンセリング,ピアサポート(ピアは「同じ経験をした仲間」という意味があります)の活用などが挙げられています。医療機関で相談できる場所が広がってきていますので,積極的に活用するとよいでしょう。

さまざまな相談方法

がん診療連携拠点病院には「がん相談支援センター」があり,治療法や,今後の療養や生活など,がんの治療にかかわるさまざまな相談に対応しています。その病院を受診していなくても,どなたでも無料で利用できます。

人によっては,自助グループ(患者会,ピアサポートや援助団体)が助けになることもあります。自らの経験からあなたの状況を理解してくれる人々と一緒にいることで,悩んでいるのが自分一人ではないことがわかり,心が安らぐとともに,いろいろなことに助言がもらえることもあります。また,経験豊かな同病者らが医療機関に出向いて相談に乗るサービスを提供しているグループもありますし,インターネットを利用した自助グループもあります。

しかし,不安が長く続いてよく眠れないなど精神的・身体的な症状が改善しない場合には,心の専門家による援助が必要なこともあります。がん患者さんとそのご家族の心の問題を扱う専門家(精神腫瘍医)や精神科医,心療内科医,臨床心理士などに相談するのもよいでしょう。適切な投薬を受けたり,自分の気持ちを率直に語れる場があることにより症状が改善することもあります。ときには,抗がん薬治療(化学療法)やホルモン療法などの薬物療法,放射線療法が精神的にも負担となり影響を与えている可能性もあります。まずは担当医に相談し,必要な場合には専門医の診察を受けることをお勧めします。心の専門家に相談するのは,がんとうまく取り組むための賢明な行動といえます。

心の相談に関する情報はどのように入手したらよいでしょうか

心の専門家に相談したい場合は,担当医や看護師など身近な医療スタッフにまずはその意向を伝えてみましょう。精神腫瘍医や精神科医,心療内科医,臨床心理士らが,治療を受けている病院にいない場合は,紹介してもらうか,各都道府県のがん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」にお問い合わせください。十分に話を聞き,整理し,どこに相談に行けばよいか,より適切なところを一緒に探します。情報源として,インターネットによる以下のホームページを参考にしたり,図書館や書店で必要な情報を調べてみてください。患者会については,現在治療を受けている病院にあるかもしれませんので,担当医に尋ねてみてもよいですし,がん相談支援センターで調べてもらうこともできます。

〈医療機関や学会,患者団体などが運営しているホームページ〉
・国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス
 https://ganjoho.jp/public/index.html
・日本サイコオンコロジー学会 https://jpos-society.org/
・日本がんサポーティブケア学会 http://jascc.jp/
・日本対がん協会 https://www.jcancer.jp/
・がんサポート https://gansupport.jp/
・がん情報サイト https://cancerinfo.tri-kobe.org/
・全国がん患者団体連合会(全がん連) http://zenganren.jp/
・Breast Cancer Network Japan あけぼの会 http://www.akebono-net.org/
ネット情報との付き合い方

不安な気持ちのときに,「こんな気持ちになっているのは,自分だけなのか」「ほかの人は,どうしているのか」「不安を解消してくれる情報があるのではないか」と,インターネット上にあるブログや体験談を検索する人も多いようです。インターネット上の情報には,乳がん患者さんやご家族の貴重な体験もありますが,乳がんの病状や患者さんの考え方は一人ひとり異なります。また,実際に行われた治療の内容が正確に記載されているかどうかわかりません。入手したネット情報について,ご自分の状況の参考になるかどうか,担当医や看護師・薬剤師,相談支援センターのスタッフに確認するとよいでしょう。