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手術した胸壁(手術した胸の範囲)全体と鎖骨上窩(首の付け根で鎖骨の上の部分)に,総線量で46~50グレイ程度を約5週間かけて照射するのが一般的です(☞Q18の図1参照)。
解説
どのような場合に放射線療法が必要ですか
乳房全切除術を受けた患者さんでも,しこりの大きい(5cm以上)患者さんや, 腋窩リンパ節に転移があった患者さんでは,胸壁(手術した胸の範囲)や周囲のリンパ節に再発する危険性が高いことがわかっています。胸壁やリンパ節の再発を減らすことで病気が治る可能性が高まりますので,再発の危険性の高い患者さんには放射線療法をお勧めします。
特に,腋窩リンパ節に4個以上転移があった患者さんには放射線療法を強くお勧めします。腋窩リンパ節の転移が1~3個の場合も,基本的には放射線療法をお勧めしますが,リンパ節転移の個数以外の要素も含めて判断しますので,担当医と相談してください。
乳房再建を行う場合,上述のようにしこりが大きい,または腋窩リンパ節に転移があり,放射線療法を行った方では再建乳房の合併症の割合が増えます(☞Q22参照)。人工乳房を挿入した状態(一次再建)での放射線療法については,人工乳房への影響を考慮しつつ慎重に進めなければなりません。手術後の病理検査結果によっては放射線療法を受ける可能性があることを念頭に置きつつ,人工乳房挿入後や自家組織再建後に放射線療法をするとどのような影響があるか,手術前に担当医と十分相談することをお勧めします。
乳房全切除術後の放射線療法では,どの範囲に照射するのが適切ですか
放射線療法の効果は,放射線を照射した部分にのみ現れます。十分な効果があり,副作用が少ない放射線療法を行うためには,必要かつ十分な照射範囲を決定することが大切です。現在の標準治療は,胸壁全体(手術した胸の範囲)と鎖骨上窩(首の付け根で鎖骨の上の部分)を照射する方法です。乳がんが手術で取りきれていない可能性がある場合には,胸壁全体と鎖骨上窩への照射後に,乳がんの病変のあった周囲に追加照射(ブースト照射)を行うことがあります。追加照射は,胸壁の再発を減少させることを目的とします。
また,胸骨のわきにある内胸リンパ節への転移はまれですが,腫瘍の位置などの病状によっては内胸リンパ節にも照射することがあります。
乳房全切除術後の放射線療法の線量や治療期間はどのくらいが適切ですか
手術した胸壁全体と鎖骨上窩に対して1回線量2.0グレイ,総線量46~50グレイ程度を約5週間かけて行います。一度にすべての量をあてるのではなく,少しずつ分割してあてるのは,正常組織への影響を小さくして,がん細胞を弱らせて根絶させるためです。1回の照射時間は1~3分程度で,放射線療法期間中も基本的には通常の生活が可能です。
放射線療法の効果は,どれだけの総線量を何回に分けて,どれだけの期間に照射したかで決まってきます。一般に,手術後に残っているかもしれない,目にみえない程度の微量のがん細胞に対しては,1回線量2.0グレイで総線量50グレイ程度を約5週間かけて治療する方法が有効とされています。毎日続けて照射することにより,がん細胞が次第に少なくなっていきます。途中に長期間の休みを入れてしまうと,同じ総線量を照射しても効果が薄れるのでよくありません。なお,副作用についてはQ37を参照してください。