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細胞や組織の検査(病理検査)は,乳房のしこりや分泌物などの原因がどのような病気によるものかを判断するために行われます。穿刺吸引細胞診や針生検(「コア針生検」や「吸引式乳房組織生検」)が含まれ,針生検で判断が難しい場合は外科的生検も検討されます。
解説
乳房のしこりや分泌物などの原因がどのような病気によるものかを判断するためには,多くの場合,症状の原因と思われるところの細胞や組織を取って詳しく調べる必要があります。組織とは,たくさんのさまざまな種類の細胞の集まりです。細胞を取って染色し顕微鏡で観察することを「細胞診」,組織を取って染色し顕微鏡で観察することを「組織診」と呼びます(☞Q27参照)。乳房の細胞診には,「穿刺吸引細胞診」「乳頭からの分泌物の細胞診」などがあります。また,症状の原因を調べるための組織診を「生検」と呼び,乳房の生検には,針を使って組織を採取する「針生検」と,小さな手術で組織を採取する「外科的生検」があります 図1 。
図1 乳房の症状の原因を調べる検査
穿刺吸引細胞診
穿刺吸引細胞診は細胞診の一種です。穿刺吸引細胞診では,病変部に直接細い針を刺して,注射器で吸い出した細胞を顕微鏡で観察します 図2 。多くの場合は局所麻酔なしで行われ,手で触れたり,超音波で病変を確認しながら針を刺します。検査時間は準備も含めて10分程度です。刺した部分に血腫(血の塊)ができることがありますが,重大な合併症はほとんど起こりません。患者さんのからだへの負担が少なく,簡便な検査法です。
図2 穿刺吸引細胞診
針生検(組織診)
針生検は症状の原因を調べるための組織診(生検)の一種です。針生検では,細胞診よりも太い針を病変部に刺し,その中に組織の一部を入れて,からだの外に取り出します。針が太いので局所麻酔が必要です。マンモグラフィや超音波で採取部位を確認しながら検査が行われます。
針生検は,組織を採取するときに用いられる機械の種類によって,「コア針生検」と「吸引式乳房組織生検」に分けられます 図1 。コア針生検は,ばねの力を利用して組織を切り取る方法で,一度に採取できる組織は通常1本です 図3 。吸引式乳房組織生検は,吸引力も利用して組織を切り取る方法で,機種によりますが,一度に複数の組織を採取することができます。マンモグラフィや超音波検査など画像診断と併用して行います。このような特徴があるので,マンモグラフィで石灰化という所見だけが指摘され,触ってもしこりがわからず,超音波検査でも病変の部位がはっきりしない場合には,マンモグラフィを用いた吸引式乳房組織生検が診断に有効です(☞Q1, Q2参照)。
図3 針生検
針生検は,局所麻酔を用いて痛みを抑えて検査します。また,針を刺した部分に血腫(血の塊)ができることがありますが,血腫は自然に消えていきます。患者さんのからだへの負担は穿刺吸引細胞診に比較するとやや大きいですが,通常,入院の必要はありません。
なお,アスピリン(商品名 バイアスピリン,バファリン)やワルファリンカリウム(商品名 ワーファリン),クロピドグレル(商品名 プラビックス),エドキサバン(商品名 リクシアナ)などの抗血栓薬を飲んでいる場合では,検査数日前から内服を中止することがあります。
外科的生検(切除生検)
針生検で診断がつかない場合,外科的生検(切除生検)といって,病変の一部または全部を切除することにより,針生検よりも多くの組織を採取し,病理診断を行います。局所麻酔下で行う場合もあれば,全身麻酔下で行う場合もあります。針生検に比べると患者さんのからだへの負担は大きいですが,より正確な診断が可能となります。
穿刺吸引細胞診,針生検,外科的生検の比較
穿刺吸引細胞診や針生検により,多くの場合,異常がある部分の診断がつきます。しかし,まれに診断がつかない場合があります。例として 図4 に線維腺腫(☞Q4参照)の顕微鏡写真を示します。外科的生検(切除生検)では病変全体の組織像を観察できます 図4a 。針生検でも組織像は観察できますが,病変の一部しか観察できません 図4b 。一部から病変全体を推測して診断する必要があります。穿刺吸引細胞診では生検でみられる組織像とはまったく違う細胞像を観察して診断します 図4c 。穿刺吸引細胞診は,細胞像から病変全体の組織像を思い浮かべて診断します。
患者さんのからだへの負担の大きさは外科的生検>針生検>穿刺吸引細胞診の順ですが,診断の正確さも外科的生検>針生検>穿刺吸引細胞診の順です。穿刺吸引細胞診や針生検で診断が確定できなかった場合には,その検査を再び行う,あるいは外科的生検などの他の方法を試みることになります。
図4 線維腺腫の顕微鏡写真 a:外科的生検 b:針生検 c:穿刺吸引細胞診