Q46    転移・再発していることがわかりました。どのように気持ちを整理したらよいですか

解説

転移・再発がわかったときのショックや心理的負担は，最初にがんと診断されたときよりも強く感じられることでしょう。再発や転移が判明した多くの患者さんは，これまでの治療に対する無益感や悲哀，怒り，これから起こるかもしれない痛みや症状への不安，身の置き所のない気持ち，死への恐怖，これからの生活の変化に関する不安，人に頼らなければならなくなることに対する心理的苦痛など，さまざまな心の反応を経験されています。再発や転移の事実を受け止めることは誰にとっても困難なことです。乳がんの再発を告げられた患者さんの35％に適応障害（軽いうつ），7％にうつ病（重いうつ）という診断がつくなど，日常生活に支障をきたすほどの苦しい思いをされているという報告もあります。

不安や恐怖に圧倒されそうになったり，生きる意味が揺らいだり，孤立感が生じやすくなったり，つらく悲しい気持ちになることもあるかもしれません。しかし，そのような思いを抱いている患者さんはあなた一人だけではありません。同じ経験をしている仲間がいることを，どうか忘れないでください。あなたは一人ではありません。

では，こうした状況にどのように向き合えばよいのでしょう。まず，何よりも大切なことは，現在の自分の状態や自分に合った治療は何なのかなどについて，医療スタッフ，特に担当医にしっかりと確認し，ともに話し合うことです。そのためには，医療スタッフとの十分なコミュニケーションが必要です。医療スタッフとの認識の行き違いが起こらないためにも，説明される内容がわかりにくい場合には躊躇(ちゅうちょ)せずにそれを伝え，納得がいくまで聞いてください。限られた時間の中で，自分が聞きたいことを整理し，1回に聞くことを数項目に絞って具体的に尋ねてみるのがよいでしょう。

転移・再発を告げられた後，体調の不良や痛み・咳など何らかのからだの症状が現れるとき，あるいは家族，友人，メディアやインターネットからさまざまな情報が入ってきたときなど，不安や恐怖をはじめとするいろいろな心の変化が生じてくると思われます。そのときの対処として，「正しい知識」「がんとの付き合い方」「ソーシャルサポート」「リラックス法」が重要といわれています。具体的には，以下の考え方を参考にしてください。

①「転移・再発＝死」と思い込まないようにしましょう。がんの治療法は日進月歩です。 ② 信頼できる方に気持ちを打ち明けてみましょう。患者会やピアサポートに参加してみるのも一つの方法です。積極的に周囲の方から心のサポートを受け，自分の気持ちをコントロールする力を高めましょう。 ③リラクセーションや音楽といった，気持ちをリラックスさせるような方法を積極的に利用しましょう。 ④心の専門家に相談することをためらう必要はありません。それは精神的に弱いということではなく，がんとうまく取り組むための賢明な行動といえます。

「今後への不安・死の不安」という気持ちを抑え込んだり，その気持ちを消し去ってしまうのは難しいと思います。不安をもちながらも，目の前のことを普段通り行っていくことが重要です。少し先の自分にできそうな具体的な目標を少しずつこなし積み重ねていくことで，先がみえ，不安が軽くなることもあります。一人で頑張りすぎないこと，不安を一人で抱え込まないことが大切です。特に，治療の期間が長くなると予想されるので，仕事や家事，日常生活へ影響が及びます。周りの人に，現在の自分の状態を伝えて，理解と協力を得ておくとよいでしょう。各地のがん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センターで相談してみるのもよいでしょうし，不安が強い場合には，心の専門家に相談してみることも解決法の一つです（☞Q9参照）。ステージⅣや転移のある患者さんだけを対象にしたサポートグループもありますので，担当医などに問い合わせてみてください。