Q12    緩和ケアについて教えてください

解説

乳がんになったことで患者さんとそのご家族は，さまざまな苦痛や問題を抱えます。それは単に痛みといった身体的な症状だけでなく，不安や落ち込んだ気分，日々の生活で生じる社会経済的な問題，そして，その人自身の人生の意味や生きる価値についての悩みなどです。
緩和ケアとは，こうした身体的な苦痛や気持ちのつらさなどを少しでも和らげるための対処を行い，患者さんあるいはそのご家族も含めて支援することです。QOL（生活の質）を保つことで自分らしく過ごしていただくことを目的としています。

（1）緩和ケアを受ける時期
かつて，「緩和ケア」は「終末期に提供されるケア」ととらえられていた時期があったため，治療ができなくなった人のための最後の医療・ケアと誤解されがちでした。緩和ケアは病気の状態や時期に関係なく，診断された時点から療養の経過を通じていつでも受けることができ，それにより全体的に安定した状態で治療を受けられるようにするものです。また，治癒を目指した手術や，抗がん薬などの治療が難しくなった時期でも，希望する生活を保てるように，さまざまな支援をします。

（2）緩和ケアで受けられる支援
乳がんの診断や転移・再発の診断を受けて，不安な気持ちになったときや気分が落ち込んだときには，看護師による看護相談や，臨床心理士によるカウンセリングを受けることが可能です。また，心身の緊張を和らげて十分に睡眠をとれるように薬剤が処方されることもあります。

一般的に，痛みが強いと体力を消耗し，QOLが低下し，治療自体もつらくなります。痛みを十分に和らげることは，患者さんの生活を支えるうえでとても重要なことの一つといえます（☞Q59参照）。痛みの治療〔医療用麻薬（オピオイド）を含む〕によって命を縮めることはないことが証明されています。がんに伴う多くの痛みは，適切な治療によって80～90％は改善できるといわれています。

また，抗がん薬治療（化学療法）やホルモン療法などの薬物療法，放射線療法の副作用や，病気の進行によって，だるさ，吐き気，食欲不振などを生じることがあります（☞Q37, 47, 48参照）。また，咳や呼吸のつらさ，便秘，腹部の張り感，上肢のリンパ浮腫，皮膚の発赤(ほっせき)・滲出液(しんしゅつえき)など，病状によってさまざまな症状が現れることがあります。このような症状に対して，いろいろな治療と支援を組み合わせて症状緩和を行っていくことができます。

（3）緩和ケアを受けられる場所
緩和ケアを行っているのは，緩和ケアを専門としている緩和ケア病棟・ホスピスだけではありません。基本的な対応は担当医によって行われますし，一般病院でも緩和ケアチームという多職種の医療スタッフ（身体症状・精神症状の緩和を専門とする医師，看護師，薬剤師，ソーシャルワーカーなど）がかかわることによって，より適した症状緩和が行われるようになってきました。緩和ケア外来を設置して，通院しながら緩和ケアを受けることができる医療機関もあります。もちろん，緩和ケアチームのない病院でも緩和ケアを行っているところはあります。

（4）緩和ケアを在宅医療として受けたいとき
在宅医療とは，加齢や病気などにより，通院が困難になった患者さんの自宅等を医師や看護師，薬剤師などが訪れ，診察や治療，生活指導などの医療行為を行うことをいいます。ケアマネージャーやホームヘルパーなどが療養上の支援を行います。近年では，入院ではなく，自宅で療養できるよう，訪問診療などの形で在宅医療として積極的に緩和ケアを取り入れている診療所や訪問看護ステーション，訪問リハビリテーションなども増えています。病院と同じようにさまざまな症状を緩和する治療やリハビリを受けることができます。40歳以上の方なら介護保険制度（☞Q13参照）を利用して，家族の介護負担を軽減するサポートの導入やベッドなどの福祉用具の購入・貸与が可能です（40歳未満の方でも，自治体によっては条例で支援を受けることができますので，居住している自治体にお問い合わせください）。

緩和ケアチームは各都道府県のがん診療連携拠点病院などに設置されています。緩和ケア病棟をもつ病院の情報は，日本ホスピス緩和ケア協会のホームページ（https://www.hpcj.org/what/pcu_list.pdf）に掲載されています。また，緩和ケアに関する一般的な知識については，緩和ケア.netや国立がん研究センターがん対策情報センターのホームページ（https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/relaxation/index.html）に掲載されています。また，各都道府県のがん診療連携拠点病院には，各地域医療の情報や病院の活動に関する情報を扱っているがん相談支援センター，あるいは地域医療連携室が設置されていますので，直接問い合わせるか，居住地域の役所の保健対策課や保健所にお問い合わせください。

〈緩和ケアに関して医療機関や学会などが運営しているホームページ〉 ・国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス　 http://ganjoho.jp/public/index.html ・日本緩和医療学会　https://www.jspm.ne.jp/ ・日本サイコオンコロジー学会　https://jpos-society.org/ ・日本対がん協会　https://www.jcancer.jp/ ・がん情報サイト　https://cancerinfo.tri-kobe.org/ ・日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団　https://www.hospat.org/ ・緩和ケア.net　http://www.kanwacare.net/ ・日本ホスピス緩和ケア協会　https://www.hpcj.org/ ・日本在宅ホスピス協会　https://n-hha.com/