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解説
腋窩リンパ節郭清とは
「腋窩リンパ節」は乳がんが転移する頻度が最も高いリンパ節です。腋窩リンパ節は腋窩の脂肪の中に埋め込まれるように存在しており,リンパ節の取り残しがないよう周りの脂肪も含めて一塊に切除することを「腋窩リンパ節郭清」と呼びます。切除した後で,脂肪の中からリンパ節を取り出して転移の有無を病理検査(顕微鏡検査)で調べます。リンパ節に転移がある場合は,転移がない場合と比べて,手術後に他の臓器に転移が出現する危険性が高いことがわかっています。
腋窩リンパ節郭清は,乳がんに対する標準治療として,1900年代におよそ1世紀にわたり行われてきました。腋窩領域への再発を防ぐ最も確実な治療ですが,術後の合併症や後遺症(上腕挙上障害,知覚障害,浮腫など)に悩まされてきました。しかし,2000年代前半から,よりからだへの負担が少ないセンチネルリンパ節生検が普及し始め,現在では,手術前に腋窩リンパ節への明らかな転移はないと診断された早期乳がんでは,まずセンチネルリンパ節生検を行うようになりました。センチネルリンパ節への転移の有無を調べ,転移がない場合や転移があっても一定の条件を満たせば腋窩リンパ節郭清を省略できます。大きな転移が多数あった場合は腋窩リンパ節郭清を行います。一方,手術前の検査(画像検査および細胞診,針生検など)で腋窩リンパ節転移があると診断された場合には,最初から腋窩リンパ節郭清を行います。センチネルリンパ節生検については,Q20を参照してください。
なぜ腋窩リンパ節郭清を行うのか
腋窩リンパ節郭清を行う目的は2つあります。1つは,腋窩リンパ節への転移の有無やその転移個数を調べるという「診断」の目的と,もう1つは再発を防ぐという「治療」の目的です。
腋窩リンパ節への転移の有無(存在診断)は,リンパ節郭清を行わなくとも,センチネルリンパ節生検によって判断が可能となりました。しかし,センチネルリンパ節に転移がある場合は,センチネルリンパ節生検だけでは全体のリンパ節転移個数までわからないので,追加で腋窩リンパ節郭清を行うことで転移個数を確認します。転移個数が多いほど再発の危険性が高くなることが知られており,術後の治療方針を決めるために転移個数を知ることは重要であるといえます。
次に,再発を防ぐという「治療」の目的については,腋窩リンパ節郭清が適切に行われた後の腋窩リンパ節再発はまれであり,達成されるといえます。一方で,腋窩リンパ節郭清をすること自体が,骨,肺,肝臓などの遠隔転移再発を予防する効果があるかどうかについてはさまざまな議論があります。過去に行われた多くの臨床試験を検討すると,腋窩リンパ節郭清を行わないと術後の再発の危険性が少し高くなることも示されています。
したがって,術前に腋窩リンパ節に転移がある場合には,腋窩リンパ節郭清を行うべきであると考えられています。センチネルリンパ節生検で転移がみつかった場合に,腋窩リンパ節郭清を省略するかどうかについてはQ20も参照してください。
リンパ節郭清の範囲
腋窩リンパ節郭清の範囲は,わきの下から鎖骨に向かって,レベルⅠからⅢに分けられます 図1 。リンパ節転移は一般にレベルⅠからレベルⅡ,Ⅲへと順に進んでいくと考えられています。したがって,腋窩リンパ節郭清は一番転移しやすいレベルⅠから順に行います。リンパ節郭清はレベルⅠからⅡまで郭清すると,通常十数個のリンパ節が切除されます。リンパ節の個数は患者さんによって異なるため,郭清個数よりも,郭清範囲が正確に取り切れているということが重要です。
以前は,レベルⅠからⅢまで郭清することが一般的で,ときに胸骨の裏側にある内胸リンパ節や鎖骨の上にある鎖骨上リンパ節も郭清することがありました。しかし,このように広く郭清しても再発の危険性が減少するとは限らず,むしろ腕のむくみなどの合併症が出ることが多いため,現在ではレベルⅠまたはⅡまでの郭清にとどめ,転移を疑うリンパ節がレベルIIIにある場合のみ郭清を追加することが多いのです。
図1 乳腺領域のリンパ節