総説3 BRCA遺伝学的検査とサーベイランスについて
現在研究が進み変化し続けている領域であるため,本診療ガイドライン出版時のBRCA遺伝学的検査とサーベイランス状況について簡単に解説する。
1)保険適用
2020年4月より,以下のいずれかの条件を満たす乳癌患者に対しては,BRCA遺伝学的検査が保険適用となっている。
◦45歳以下発症乳癌
◦60歳以下発症乳癌で,かつサブタイプがトリプルネガティブ
◦両側または片側に2個以上の原発乳癌を有する
◦男性乳癌
◦乳癌診断時に,卵巣癌・卵管癌・腹膜癌のいずれかを合併している
◦血縁者(第3度近親者内)に乳癌・卵巣癌・膵癌患者の家族歴を有する
(注)血縁者がBRCA病的バリアント保持者であった場合,保持している可能性は高いと考えられるが,現時点では保険適用ではない。
2)検査概容
検査自体は血液を採取し,検査機関に提出するだけであるので容易であるが,結果は検査を受けた個人に対する遺伝子情報や乳癌を含めた他疾患についても発症リスクが記載されたものであり,厳密な個人情報となるため,慎重な取り扱いを要する。
BRCA病的バリアント陽性時には本人だけではなく,血縁者へも多大な影響が及ぶことから,可能であれば検査前に遺伝カウンセリングを受けることが望ましい。
また,BRCA病的バリアントを有する場合,選択する術式や術後サーベイランス,他のハイリスク病変に対する予防的ケアなど多くの影響が生じるので,可能であれば治療開始前に調べておくことも考慮すべきである。
さらにBRCA病的バリアントの結果を受けることによる患者側の精神面に十分に配慮するため,結果報告時にもBRCA病的バリアントの検査の詳しい説明と,今後の予防治療やサーベイランスについての説明が必要であり,関連領域(婦人科,消化器科,遺伝医療部門等)との連携が重要となる。
3)原発巣手術およびリスク低減手術
乳癌患者でBRCA病的バリアントありと判定された場合,以下のリスク低減手術が推奨されている〔日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構編「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2021年版」1)診療アルゴリズム2および6を参照のこと〕。
- 同側の乳頭温存乳房全切除術(NSM)または皮膚温存乳房全切除術(SSM)等の乳房全切除術,および乳房再建手術:乳房部分切除術が全否定されているわけではない(☞乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版,放射線BQ10も参照)
- 対側乳房の対側リスク低減乳房切除術(CRRM)
- リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)
等を考慮する必要がある。
今後,PARP阻害薬の周術期治療が開始されれば,どのように推奨が変化していくかわからないため,患者と十分に情報共有し,勧めていく必要がある(☞乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版,薬物FRQ5参照)。
4)サーベイランス
リスク低減手術を患者が希望しない,あるいは何らかの事情により受けられない場合には,乳房部分切除時の同側乳房,CRRMを受けない対側乳房,RRSOを受けない場合の卵巣癌検査等の適切なサーベイランスを勧めることが肝要である(☞検診・画像診断CQ2参照)。
「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2021年版」1)の診療アルゴリズム2および6も参照のこと。
参考文献
1)日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構編.診療アルゴリズム.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2021年版.東京,金原出版,2021,p14,18.