総説4    各乳腺画像診断モダリティ

 乳癌診療において,マンモグラフィと乳房超音波検査は基本であるが,それ以外の画像診断モダリティ,具体的には,MRI,CT,PET/CTも乳癌の術前広がり診断や転移検索等に用いられる。これらのモダリティについて,適応,標準的撮像法および注意点についてまとめる。また,最後にCOVID-19ワクチン接種に伴うリンパ節腫大とその対応についても触れる。BQ,CQ,FRQで扱った各モダリティや各適応については下記に示す当該箇所の解説文を参照いただきたい。

 トモシンセシス(☞検診・画像診断CQ3参照)
 造影超音波検査(☞検診・画像診断CQ5参照)
 超音波エラストグラフィ(☞検診・画像診断CQ4参照)
 術前薬物療法の効果予測(☞検診・画像診断FRQ5参照)
 乳房専用PET(☞検診・画像診断FRQ6参照)
 造影マンモグラフィ(☞検診・画像診断FRQ7参照)
 画像診断による術後フォローアップ(☞検診・画像診断FRQ89参照)

1)MRI
 1.5テスラ(T)や3Tといった,強い磁場の中で体内の水素原子の動きとその磁場による変化から組織の性状についての情報を得る装置である。乳房内病変に対して用いる場合は,腹臥位で乳房を下垂させ,ガドリニウム系造影剤を静脈注射し血流の多い悪性腫瘍を描出する。

 適応は,以下にまとめられる。

  1. 術前広がり診断
  2. 同側多発病変・対側乳房病変の検出
  3. マンモグラフィ,超音波検査での診断困難例
  4. 術前化学療法(NAC)の治療効果予測
  5. 乳がん発症ハイリスクのスクリーニング・サーベイランス

(1)標準的撮像法
 MRI装置は1.5Tまたは3Tが望ましい。

 乳房専用コイルを使用し,両側乳房を同時に撮像,左右比較による読影が可能となる。

 ① 脂肪抑制T2強調像 
 ② T1強調像 
 ③ 拡散強調像 
 ④ ダイナミック造影T1強調MRI(脂肪抑制造影前・造影早期相・後期相)

 このうち,④ のダイナミック造影MRIが乳房病変の評価において重要である。乳癌は血流が豊富であり造影の比較的早い時期(造影剤投与後2分以内)に強く造影され,投与後5~7分での後期相では減弱に転じるwashout patternを示すものが多い。他方,良性病変は緩徐な造影を受けることが多い。術前広がり診断や微小な病変の際は形態も含めた詳細な情報も求められるため,ピクセルサイズ1×1 mm,スライス厚2.5~3 mm以下の空間分解能での撮像が望ましい1)。Gradient echo(GRE)法等短時間で撮影可能な方法が用いられる。早期相と後期相の撮像の間等にさらに,異なる断面や高い空間分解能の造影T1強調像を追加することもある2)

 浸潤癌はmass,非浸潤癌はnon-mass enhancementとして描出されることが多い。造影領域の形状や辺縁の性状,分布,時間経過(造影前・造影後早期相・後期相)における病変造影効果の変化を示したtime intensity curveから,血流豊富な病変(fast/washoutまたはplateau,悪性で多い)比較的血流の少なく緩徐に造影される病変(medium/persistent,良性で多い)を評価可能である。これら血流情報と,形態情報を併せた所見の記載は米国放射線専門医会のBreast Imaging Reporting and Data System(BI-RADS)MRI3)で規定され,これらに基づく診断法が乳房MRIでは広く用いられている。

 T2強調像では囊胞,液体貯留,粘液成分が高信号を示す。線維腺腫等の良性病変やリンパ節も高信号を示す。ただし粘液癌でも高信号を示すため注意が必要である。非脂肪抑制T1強調像では,過誤腫や脂肪壊死等脂肪の存在が有用な病変の診断に役立つ。血性成分等は造影前の脂肪抑制T1強調像でわかりやすい。拡散強調像では,一般に浸潤癌は高信号を示し,apparent diffusion coefficient(ADC)値(見かけの拡散定数)は低値を示す。一部の線維化の強い浸潤癌や非浸潤性乳管癌(DCIS)は偽陰性となることがある。良性病変も拡散強調像では高信号を示すことがあるがT2強調像での信号強度にも影響を受けるため,定量値であるADC値を参照する。ただ,ADC値は装置や撮像プロトコールによっても変化するため単純な比較はできないことに注意する4)

(2)注意事項
 撮像は月経開始後7~14,15日目が望ましいとされる1)4)。月経周期後半では乳腺組織の増強効果が強くなることが日本人を対象とした例でも示されている5)ため,乳癌と紛らわしい造影所見が出現(偽陽性)し,逆に小さく造影効果の相対的に弱い乳癌がマスクされて検出困難となる(偽陰性)が増える。悪性腫瘍の疑いが強い場合や術前精査おいては周期を合わせるために乳房MRIの時期を遅らせるべきではないが,読影に際して月経周期の情報は必要であり記録する。

 MRI装置の周囲には,仮に撮影を行っていなくても強大な磁場が常に存在し,磁性体である金属は持ち込み禁止である。具体的には,電気的,時期的もしくは機械的に作動する体内埋込物でペースメーカー・除細動器・シャントチューブ・人工内耳等がある。一部MRI対応可能なものもあるが,型番等を含めた事前の確認・当日の調整等,準備が必要である。また,重度の閉所恐怖症の人は検査が困難なことがある。

 ガドリニウム造影剤投与に伴うリスクとしては,アレルギーがある。CTで用いるヨード造影剤よりは副作用の可能性は低いが,1%未満で嘔気,嘔吐,蕁麻疹,掻痒,発疹等が報告されている。重篤なアナフィラキシー様反応は1.9万例に1人程度の割合である。また,稀ではあるが腎機能障害患者での投与で腎性全身性線維症の報告があるため,長期透析を受ける終末期腎障害,eGFR 30 mL/min/1.73 m2未満の慢性腎障害,急性腎障害の患者では使用は原則禁忌である。ガドリニウムの反復投与により脳・骨髄に蓄積するとの報告がある6)。この体内組織への残存による副作用は報告されていないが,残存しにくい環状型のガドリニウム製剤の使用が推奨される。

2)PET,PET/CT
 PETは,陽電子放出核種(ポジトロン)を用いた核医学検査である。乳癌の診断においては18F-FDGを用いる。現在では吸収補正CTとセットになったPET/CTとして検査が行われる。18F-FDGの半減期は約110分である。糖代謝の亢進した細胞に集積するため,増殖の盛んな悪性腫瘍に集積するが,一部の良性病変や炎症細胞にも集積するため,非特異的な点に注意が必要である。遠隔転移疑われる患者において,意義が高いと思われる7)

 保険適用は,乳癌を含めた悪性腫瘍において「他の検査又は画像診断により病期診断又は転移若しくは再発の診断が確定できない患者に使用する」となっている。乳癌においては局所の評価は超音波検査,MRIの診断能が優れるが,同側腋窩・鎖骨下・内胸・鎖骨上等の所属リンパ節への転移や,頸部,対側のリンパ節への遠隔転移については代謝の情報も併せたPET/CTが優れる。

(1)標準的撮像法
 絶食(4~5時間以上)の後,18F-FDGを経静脈注射する。60分間の安静の後に全身を撮影する(より遅いタイミングでの遅延像を撮影することもある)。1回の投与による被曝は3~5 mSv程度,CTによる被曝が2~12 mSvとされている7)

 集積の判定には,視覚的な評価に加えてstandardized uptake value(SUV)を計測する。SUVは関心領域における放射能濃度を体重と投与量で補正した値であり,糖代謝の指標となる。悪性腫瘍や強い炎症では高値を示す。ある領域内の最大値SUVmaxを代表値として用いることが多い。

(2)主病巣の評価
 通常でも乳腺,乳頭部には軽度の生理的集積があるが,通常左右対称性であることから診断可能である。授乳期には強い集積を認める。サイズの小さい腫瘍,非浸潤癌,小葉癌,粘液癌では集積が乏しい傾向がある。乳房に近接した検出器を用いて空間分解能の低さを改善した乳房専用PETを用いた検討が進んでいる(☞検診・画像診断FRQ6参照)。

(3)リンパ節転移
 腋窩リンパ節転移の感度は56%程度,特異度は96%との報告がある8)。小さなリンパ節転移に関しては偽陰性の可能性が高い。感度は低く,特異度が高いため,もし陽性であった場合には病期診断や治療方針への影響が大きい。腋窩のリンパ節については関節炎等による反応性腫大もあるが,内胸リンパ節については炎症性反応性の集積は腋窩に比較して低いため,集積のある場合の意義は高い。

(4)遠隔転移
 遠隔転移の診断においては,FDG-PET/CTは感度96~100%,特異度91~100%と,ともに高い診断能が報告されている9)。初発患者において遠隔転移を示唆する臨床症状・所見のある場合やStage Ⅲ以上,その他,原発巣の組織や年齢等の背景因子から転移のリスクが高い患者においては,治療方針に大きく影響することから,FDG-PET/CTによる検索が推奨される。骨転移についても骨シンチグラフィを上回る感度が報告されている10)

3)COVID-19ワクチン接種に伴うリンパ節腫大
 COVID-19ワクチン接種により,接種側の腋窩リンパ節,さらには鎖骨上窩・頸部リンパ節の腫大が報告されており,画像上転移と紛らわしいことがある。最長で10週間続くと報告されており,マンモグラフィ,超音波検査,乳房MRIに加えてPET/CT検査の際にも病的腫大,病的集積との鑑別が困難なことがある。2021年7月に発表された日本乳癌検診学会の手引きでは,検診としてのマンモグラフィや超音波検査はワクチン接種前に行うか,もしくは2回目ワクチン接種後6~10週間間隔を置くこと,乳癌術前術後の必要な画像検査は延期せず積極的に施行すべきだが,病変の対側の三角筋もしくは大腿部への接種を勧めている11)。画像検査時には接種歴と部位の情報を得ておくことが望ましい。

参考文献

1)Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, Boetes C. Breast MRI:guidelines from the European Society of Breast Imaging. Eur Radiol. 2008;18(7):1307-18. [PMID:18389253]

2)日本医学放射線学会編.乳房.画像診断ガイドライン2021年版.第3版,東京,金原出版,pp422-451.

3)Morris EA, Comstock CE, Lee CH. ACR BI-RADS® Magnetic Resonance Imaging. ACR BI-RADS® Atlas 5th Edition. Reston, American College of Radiology, 2013.

4)日本乳癌検診学会編.乳房MRI検査マニュアル.東京,金原出版,2020.

5)Kamitani T, Yabuuchi H, Kanemaki Y, Tozaki M, Sonomura T, Mizukoshi W, et al. Effects of menstrual cycle on background parenchymal enhancement and detectability of breast cancer on dynamic contrast-enhanced breast MRI:a multicenter study of an Asian population. Eur J Radiol. 2019;110:130-5. [PMID:30599849]

6)Kanda T, Matsuda M, Oba H, Toyoda K, Furui S. Gadolinium deposition after contrast-enhanced MR Imaging. Radiology. 2015;277(3):924-5. [PMID:26599932]

7)日本乳癌学会編.乳腺腫瘍学.第3版,東京,金原出版,2020.

8)Cooper KL, Harnan S, Meng Y, Ward SE, Fitzgerald P, Papaioannou D, et al. Positron emission tomography(PET)for assessment of axillary lymph node status in early breast cancer:A systematic review and meta-analysis. Eur J Surg Oncol. 2011;37(3):187-98. [PMID:21269795]

9)Brennan ME, Houssami N. Evaluation of the evidence on staging imaging for detection of asymptomatic distant metastases in newly diagnosed breast cancer. Breast. 2012;21(2):112-23. [PMID:22094116]

10)Rong J, Wang S, Ding Q, Yun M, Zheng Z, Ye S. Comparison of 18 FDG PET-CT and bone scintigraphy for detection of bone metastases in breast cancer patients. A meta-analysis. Surg Oncol. 2013;22(2):86-91. [PMID:23726506]

11)日本乳癌検診学会.日本乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応の手引き.2021年6月.http://www.jabcs.jp/images/covid-guide202107.pdf(アクセス日:2022/4/24)