CQ2   BRCA病的バリアント保持者に対する乳癌サーベイランスには造影乳房MRIが推奨されるか?

推奨

●造影乳房MRIを用いたサーベイランスを強く推奨する。

推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:中,合意率:80%(39/49)


推奨におけるポイント
■十分な知識を有する専門医のもと,MRIガイド下生検可能施設との連携を有する施設での施行が望ましい。
■乳癌・卵巣癌既発症のHBOC患者に対しては保険適用でのMRI検査が可能である。未発症のBRCA病的バリアント保持者においては現時点では自費診療となるため,遺伝カウンセリングや検診後のフォローアップ体制が整っている医療機関で実施することが望ましい。

背 景・目 的

 乳癌発症率の高いハイリスク群に対して乳癌を早期発見することにより,死亡率を低減することが期待される。すでに先進諸国では既発症・未発症のBRCA病的バリアント保持者を含めた乳癌ハイリスク群に対して造影乳房MRI検診を強く推奨し,実行されている。わが国では乳癌・卵巣癌既発症の遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)患者に対しては造影乳房MRIによるサーベイランスが保険適用であり,MRIでのみ検出可能な病変に対してはMRIガイド下生検が保険適用となっているが,乳癌・卵巣癌未発症のBRCA病的バリアント保持者に対するサーベイランスは現時点で保険適用はない。日本人女性に対するMRIを用いたサーベイランスを勧められるかをCQとして取り上げ,上記内容に関しシステマティック・レビューを行った。

解 説

 BRCA病的バリアント保持者に対して,MRIを含むサーベイランスを行った群と,MRIを含まないサーベイランスの間で,全生存率,感度,偽陽性率,副作用,費用,患者の意向のアウトカムについての定性的システマティック・レビューを行った。

1)全生存率
 3編の観察研究による定性的システマティック・レビューを行った。10年生存率を示した研究2編において,MRIとマンモグラフィでのサーベイランスは,マンモグラフィのみのサーベイランスに比べて高い生存率が示され(95.3% vs 87.7%,100% vs 85.5%),3年生存率を示した研究1編においてもMRIを含んだサーベイランスはMRIを含まないサーベイランスよりも生存率が高かった(100% vs 92%)。報告数も含まれる症例数も少なく,観察期間も短いため検討は不十分であり,今後さらなる検討が必要である。また,BRCA1BRCA2では発生する乳癌のサブタイプが大きく異なることが知られており,全生存率に差が生じる可能性もあるが,研究数が少なく,対象も各研究において異なるため,比較検討することはできなかった。研究数が少なく,観察期間も十分でないため,エビデンスの確実性は中とした。

2)感 度
 12編の観察研究による定性的システマティック・レビューを行った。MRIを含むサーベイランスの検出感度は66.7~100%と高く,マンモグラフィのみの15~61.5%,超音波検査のみの22.7~81%と比較しても高い有用性が認められた(図1)1)~15)。しかし,研究の多くが欧米からの報告であり,日本人女性における各モダリティの検出感度についての報告は少ないため,今後さらなる検討が必要である。また,研究の多くはBRCA1/2双方の病的バリアント保持者を含むものであり,BRCA1BRCA2との差異を比較検討することはできなかった。すべてが観察研究であるが,研究の直接性は担保されており,研究数も多いことから,エビデンスの確実性は強とした。

3)偽陽性率(1-特異度)
 10編の観察研究による定性的システマティック・レビューを行った。MRIを含むサーベイランスの偽陽性率は20~22%と報告する文献が認められるが,その端の研究においては0~12%と低い偽陽性率が示されていた。それぞれの研究において対象や条件が異なるため,さまざまな条件において算出されたものであり異質性が認められるが,マンモグラフィのみのサーベイランスの偽陽性率は0.2~17.7%と示されている(図2)1)~5)7)~10)13)~15)等,MRIを含まないサーベイランスの偽陽性率にも顕著な差はないと考えられた。研究の多くが欧米からの報告であり,日本人女性における各モダリティの偽陽性率についての検討は困難であり,今後さらなる検討が必要である。また,研究の多くはBRCA1/2双方の病的バリアント保持者を含むものであり,BRCA1BRCA2との差異を比較検討することはできなかった。すべてが観察研究であるが,研究の直接性は担保されており,研究数も多いことから,エビデンスの確実性は強とした。

4)副作用
 3編の観察研究および1編のレビュー文献による定性的システマティック・レビューを行った。造影乳房MRI検査で使用するガドリニウム造影剤の副作用についてはBRCA1/2病的バリアント保持者に限らず検討がなされ,ヨード系造影剤と比較して少ないことが報告されている。腎性全身性線維症(NSF)は腎機能評価や使用する造影剤の選択にてマネジメント可能であると考えられ,ガドリニウム造影剤の脳への沈着については長期フォローデータにより臨床症状との関連する証拠は認められなかった。その他の自己申告症状と関連するエビデンスも明らかではなかった。マンモグラフィの被曝による乳癌発症リスクに関してはBRCA1/2病的バリアント保持者で検討され,マンモグラフィを受けた回数や初回マンモグラフィ時の年齢と乳癌発症リスクに関連を認めなかった。しかしながら30歳以前のマンモグラフィについては,乳癌リスクの増加と関連する報告もあり毎年受けることによる影響は定かではないと結論付けられていた。研究数が少ないことおよび,副作用や被曝に関する情報がカルテ記載やアンケート調査からのデータ収集のため診断バイアスや想起バイアスによる影響が否定できないことから,エビデンスの確実性は中とした。

5)費 用
 1編の観察研究および1編のシステマティック・レビュー文献による定性的システマティック・レビューを行った。シミュレーションモデルを用いて,費用対効果について検討され〔生存年数の延長(LYG),質調整生存年(QALYs),癌発生率,増分費用対効果(ICER)等が算出された〕,MRIとマンモグラフィの併用による平均余命(life expectancy)の延長およびQALYsの増加が示された。しかしながら,年齢やBRCA1BRCA2の差異等によって費用対効果が異なる可能性が示唆されている。欧米と日本とでは医療に関する費用が異なり,欧米のデータを日本に適応することはできないため,エビデンスの確実性は中とした。

6)患者の意向
 4編のアンケート調査研究による定性的システマティック・レビューを行った。MRI検査およびMRIサーベイランスで偽陽性の結果を得ることについて,不安や苦痛等の負の心理的影響やQOLの低下は明らかではなかった。BRCA1/2病的バリアント保持者のみでなく乳癌高リスク者を対象とする報告や,乳癌既発症者・未発症者の双方を含む報告があり,エビデンスの確実性は中とした。

 以上より,造影乳房MRIによるサーベイランスによる感度,生存率が良好であることが示されており,負のアウトカムである偽陽性も少なく,副作用や患者の意向も許容範囲であると考えられた。

 乳房MRIの実行可能性については,わが国では多くのMRI装置が設置されており,術前の乳房MRIが多く施行されているが,サーベイランスとしての導入はまだ進んでいない点が懸念される。すでに「乳房MRI検査マニュアル」が発刊されており,体制整備に向けた取り組みが行われ,撮像方法や診断基準の均一化を進めている状況にある(二次資料②)。MRI検出病変に対しては,超音波検査(MRI-Target-US)を行って病変を同定して生検を行うことが標準的ではあるが,MRIのみでしか見えない病変に対してはMRIガイド下生検が必要となる。したがって,MRIガイド下生検が可能な施設と連携した施設でのみ造影乳房MRIによるサーベイランスを行うべきと考えられるが,現時点ではMRIガイド下生検の整備ができていない施設も多く,今後の課題となると考えられる。

 以上より,造影乳房MRIに十分な知識を有する専門医が在籍し,MRIガイド下生検可能施設との連携が整備された施設において,造影乳房MRIを用いたサーベイランスを行うことを推奨する。既発症のBRCA病的バリアントを有する患者においては,造影乳房MRIによるフォローアップを保険診療において行うことが可能である。未発症のBRCA病的バリアント保持者においては,造影乳房MRIは現時点では自費診療で行うことになるため,遺伝カウンセリングや検診後のフォローアップ体制が整っている医療機関で実施することが望ましい。

 造影乳房MRIにマンモグラフィおよび超音波検査を併用することによる診断能向上のエビデンスは示されなかったが,マンモグラフィおよび超音波検査は一般リスクにおける検診でも考慮され,通常は併用で行うことが想定される。また,造影剤副作用や体内金属,閉所恐怖症等によって造影乳房MRIが施行できない場合は,マンモグラフィおよび超音波検査を行うことが推奨される。

 検診の時期および間隔については,定まった見解はないが,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは家族の乳癌発症時の10年前から(ただし25歳以上になってから)あるいは40歳から,1年ごとの造影乳房MRIを推奨している(二次資料③)。ただし,よりリスクが高いと考えられるBRCA1保持者ではさらに検診間隔を狭めることについても検討する必要があると考えられる。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“Mammography”,“Magnetic Resonance Imaging”,“genetic”,“familial”,“hereditary”,“ethnology”のキーワードと,“high risk”,“dense breast”“sensitivity”,“specificity”,“early diagnosis”,“diagnostic imaging”,“surveillance”,“screening”の同義語で検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索範囲は2016年1月から2021年3月までとした。

 また,「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン」乳癌CQ3.「BRCA病的バリアントを有する乳癌患者に対し,乳房温存療法は推奨されるか?」および乳癌CQ4.「BRCA病的バリアントを有する乳癌患者の温存乳房・対側乳房には造影乳房MRIを用いたサーベイランスが推奨されるか?」を参考にした。

参考にした二次資料
  1. 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構編.乳癌CQ4,5.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2021年版,東京,金原出版,2021,pp122-130.
  2. National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer Screening and Diagnosis Version 1.2021. https://www.nccn.org/(アクセス日:2021/11/27)
  3. 日本乳癌検診学会編.乳房MRI検査マニュアル.東京,金原出版,2020.
参考文献

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