FRQ3   マンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変にマンモグラフィガイド下生検は必須か?

ステートメント

●マンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変に対して,マンモグラフィガイド下生検を必須とする根拠はないが,生検を行うメリットとデメリットに加え,生検を行わない場合の経過観察方法が確立されていないことも情報提供したうえで,多様な患者の価値観に沿った選択をすることが望ましい。

背 景

 マンモグラフィ検診で検出される石灰化のうち「淡い集簇石灰化」は,日本の「マンモグラフィガイドライン第4版」では,検診マンモグラフィ・カテゴリー3(良性,しかし悪性を否定できず)に分類され,要精検の対象である(二次資料①)。しかしながら,淡い集簇石灰化には良性病変や悪性度の低い乳癌の割合が多く,偽陽性率が高いことや,マンモグラフィ検診における過剰診断(進行速度が遅いため生命を脅かすことがない乳癌が発見され治療されること)の一因となっている可能性が問題点として指摘されている。なお,淡い集簇石灰化では,精査の超音波においても異常を指摘できない症例があり,検体を採取する際にマンモグラフィガイド下生検を必要とする場合があるが,超音波ガイド下生検よりも手技が煩雑で利便性が低く侵襲も高いため,その適応はメリットとデメリットのバランスを考慮し決定されなければならない。

 今回,マンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変すべてに対して,マンモグラフィガイド下生検を推奨すべきか定性的システマティック・レビューを行った。

解 説

1)淡い集簇石灰化の陽性適中度(PPV)・カテゴリー分類
 米国のBI-RADSアトラス第5版では,amorphous calcificationsの陽性適中度(PPV)は約20%と記載されているが,石灰化の分布を考慮したPPVの記載はない(二次資料②)。今回,淡い集簇石灰化についてレビューした論文は14編であるが,対象の背景がそれぞれ異なるためにメタアナリシスは行わなかった。レビューした14論文全体では,淡い集簇石灰化のPPVは0~24.1%と報告されている1)~14)。また,BI-RADSアトラス第5版(2013年発刊)より後に出された2014年以降の比較的新しい論文5編では,0~16.4%とやや低い傾向にあった(日本から3編3)11)13),韓国から2編4)14))。以上より年代により若干差異はあるものの,淡い集簇石灰化のPPVは概ねBI-RADSカテゴリー4A(悪性の可能性は2%より大きく10%以下)からB(10%より大きく50%以下)に相当するものと考えられる。

 なお,日本の「マンモグラフィガイドライン第4版」では,淡い集簇石灰化は数や密度が少ない場合は『診断』マンモグラフィ・カテゴリー3-1に相当し,この場合は超音波で異常が検出されない場合は経過観察で対応することが可能,数や密度が高い場合は3-2で場合により組織診断までが必要と記載されている。これは日本のマンモグラフィガイドラインのカテゴリーが悪性の確信度を考慮しているのに対し,BI-RADSカテゴリーは癌の可能性に基づく推奨マネジメントを決定することを目的にしているためで,日本のマンモグラフィガイドラインのカテゴリー3はBI-RADSカテゴリー3(悪性の可能性は0%より大きいが2%を超えない)よりも悪性病変の可能性が高くなる。

2)淡い集簇石灰化で診断される乳癌の傾向
 今回レビューした論文で,淡い集簇石灰化で診断された乳癌の組織学的内訳を示している論文は4論文(すべて日本から)あった3)8)9)12)。4論文全体で対象とした淡い集簇石灰化は298病変,うち乳癌の診断は23病変(PPV 7.7%)で,23病変中19病変(82.6%)が非浸潤癌であった。診断された乳癌の組織学的悪性度の内訳を示しているのは1論文のみで,乳癌6例(うち非浸潤癌4例)すべて核異型度1,ホルモン受容体強陽性であったと報告している3)

3)マンモグラフィガイド下生検のメリット・デメリット
(1)メリット
①診断確定が早期に行われることで適切な対応が可能になる。
 ◦良性の場合は通院不要であり,患者の安心感も得られ満足度も上がる。
 ◦悪性の場合は早期に治療が開始できる。
②腫瘍のバイオロジーを確認することにより正確な疾患リスクが判定可能になり,個別化治療につながる。

(2)デメリット
①超音波ガイド下生検に比較し,手技が煩雑で検査時間も長く,患者に対する侵襲も大きい。
②鑑別困難の診断の場合は患者不安が継続する。

4)造影MRIの微細石灰化病変の良悪性鑑別能
 近年,微細石灰化病変の良悪性鑑別能について,造影MRIが有用であるとの研究報告が増加している。これまでに報告された20の研究のメタアナリシスでは15),微細石灰化部位にMRIで造影効果が認められた場合の感度は87%,特異度81%と高い良悪性鑑別能を示すことが報告されている。このメタアナリシスでは,特にBI-RADSカテゴリー4の微細石灰化(日本のマンモグラフィ・カテゴリー3:淡い集簇石灰化を含む)に造影MRIを加えることによる診断能向上が示されている。また,微細石灰化に対する造影MRIの偽陰性率は約10%であったが,そのほとんどが非浸潤癌であり,浸潤癌や微小浸潤癌を対象とした場合の造影MRIの陰性適中率は99%と高いことが示されている。

 以上のような結果を踏まえて,日本医学放射線学会の「画像診断ガイドライン2021年版」の乳房領域FRQ17では,「超音波検査で異常所見がない微細石灰化(淡い集簇石灰化を含む)に対して,造影MRIは生検の代わりとはならないが,マンモグラフィガイド下生検の適応決定の一助として,不要な,もしくは過剰診断につながる生検を回避できる可能性があり,行うことを考慮してもよい」としている(二次資料③)。ただし造影MRI検査には禁忌事項(閉所恐怖や腎不全等),造影剤による副作用の可能性や費用といった不利益もあり,実施にあたってはメリットとデメリットのバランスを考慮する必要がある。

5)まとめと対策
 淡い集簇石灰化のPPVは最大で20%程度であり,PPVが低いことから淡い集簇石灰化に対してマンモグラフィ生検を必須とする根拠には乏しい。

 一方,診断される乳癌の傾向は非浸潤癌が多いが,low risk DCISとの関連は確立されているとはいえない。非浸潤癌の過剰診断および治療については,現在low risk DCISに対する手術の必要性を検討する目的で,「手術」vs 「active surveillance+/-内分泌療法」の前向き試験が各国で進行中であり(LORIS試験16):英,LORD試験17):EU,COMET試験18):米,JCOG 1505試験19)20)/LORETTA試験:日本),それらのデータを踏まえて針生検の役割を再検討する必要がある。なお,これらの試験では,40~46歳未満は対象外で若年者を含んでおらず,淡い集簇石灰化に対してマンモグラフィガイド下生検を行うか否かの判断には,少なくとも発見時の年齢は考慮されるべきと考えられる。さらに,生検の適応判断においては,淡い集簇石灰化には非浸潤癌より頻度は低いが浸潤癌の症例が含まれること,生検を行わない場合は腫瘍のバイオロジーが不明であり正確な疾患リスクの判断ができないこと,経過観察における検査のモダリティーや間隔等が確立されていないこと,経過観察中の患者や家族の不安,画像による経過観察で発生する医療コストなども念頭に置くべきである。

 以上より,現時点ではマンモグラフィ検診の淡い集簇石灰化病変に対して,マンモグラフィガイド下生検を必須とする根拠はないが,医療者は患者に対し淡い集簇石灰化病変の中には悪性病変が最大で20%程度の割合で含まれるということ,その中には非浸潤癌の割合が多く過剰診断につながる可能性もある一方で,頻度はより低いものの浸潤癌の症例も含まれるという情報を提供することが必要である。そのうえで,患者の年齢,家族歴等の個人の乳癌発症リスク,造影MRI等の追加検査の適応を考慮し,マンモグラフィガイド下生検を行うか否かを患者と医療者がよく話し合い,患者自身の価値観で判断することが重要である。また,生検を施行しない場合は綿密な画像による経過観察が必須であるが,現時点では最適な検査方法や間隔,追跡期間は定まっておらず,生検の適応決定と同様,患者の理解のもとで慎重に経過観察を行う必要がある。

検索キーワード

 PubMedで“calcinosis”,“calcification”,“breast neoplasms”,“diagnosis”,“mammography”,“risk”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2021年3月までとし,443件がヒットした。二次スクリーニングで13編の論文が抽出された。この他ハンドサーチで1編追加した。

参考にした二次資料
  1. 日本医学放射線学会,日本放射線技術学会編.マンモグラフィガイドライン.第4版,東京,医学書院,2021.
  2. ACR BI-RADS® Atlas 5th Edition. Reston, American College of Radiology, 2013.
  3. 日本医学放射線学会編.画像診断ガイドライン2021年版.第3版,東京,金原出版,2021.
参考文献

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3)Iwase M, Tsunoda H, Nakayama K, Morishita E, Hayashi N, Suzuki K, et al. Overcalling low-risk findings:grouped amorphous calcifications found at screening mammography associated with minimal cancer risk. Breast Cancer. 2017;24(4):579-84. [PMID:27873170]

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