CQ1    Hand-Held(用手的)超音波検査は乳がん検診として推奨されるか?

推奨

●[マンモグラフィ併用の場合] マンモグラフィと超音波検査の併用検診は感度上昇,早期乳癌の発見に有用であり適切な精度管理が行われるならば,行うことを弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:94%(45/48)

●[超音波検査単独の場合] 超音波検査単独の乳がん検診は,マンモグラフィ検診との比較で優位性を証明するエビデンスが乏しいため,行わないことを弱く推奨する。

推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:87%(40/46)


推奨におけるポイント
■マンモグラフィと超音波検査との併用検診は早期乳癌の発見率上昇に寄与するが,死亡率の減少につながるかは検証の途上である。
■超音波検査単独の検診ではマンモグラフィ単独の検診との比較で優位性を示すエビデンスはない。
■40歳未満の受診者に対しては,マンモグラフィ検診,超音波検診,両者併用検診のいずれも判断の材料がないため,推奨を行っていない。

背 景・目 的

 マンモグラフィ検診では高濃度乳房において診断精度が低下し,偽陰性が増加するとの指摘がなされているが,非高濃度の乳房においても偽陰性は一定の割合で発生する。わが国でマンモグラフィと併用または代替するモダリティとして用いられることの多い超音波検診に関して,対象を乳房構成や罹患リスクで限定せずに推奨できるかを検討した。

解 説

 今回のレビューでは,益のアウトカムとして感度上昇,死亡率減少,再発率減少,受診者の意向(安心感)を設定し,また害のアウトカムとして偽陽性の増加(特異度の低下),検査時間の増加,費用の増加を設定した。

 キーワード検索でヒットした論文において超音波検査の施行された状況を精査すると,マンモグラフィ検診で高濃度乳房と認定されたものだけを対象に超音波検査を施行したもの,乳癌の高リスク群を対象として超音波検査を施行したもの,マンモグラフィ検診で陰性とされた症例だけを選んで超音波検査を追加したもの等,特定の条件下での超音波検査を評価した論文がほとんどであった。乳がん検診において乳房構成を根拠とした検診方法の変更等の介入を行った場合の有効性に関するエビデンスは存在しない。今回のレビューでは超音波検査の施行に際して条件を付けない,一般リスクの女性すべてにマンモグラフィと超音波検査の両方を施行した研究のみを評価対象として絞り込みを行った結果,ランダム化比較試験が1件,観察研究が2件を解析対象とした。なお,研究の質(ランダム化比較試験,観察研究),症例数(ランダム化比較試験72,599例,観察研究2,995例および3,440例)の格差が大きいためメタアナリシスは行わず,定性的にレビューを行った。

 今回のレビュー対象として残ったランダム化比較試験はOhuchiらによるいわゆるJ-STARTの報告で,一般リスクの女性に対して通常のマンモグラフィ検診を施行した群(コントロール群)とマンモグラフィと超音波検査を併用して施行した群(介入群)との比較試験の結果である1)。一方,他の観察研究2件は,同一の症例に行ったマンモグラフィと超音波検査の結果からそれぞれの感度や要精検数を抽出したもの2)3)なので,解釈には注意を要する。

 益のアウトカムに関連して,死亡率減少,再発率減少,受診者の意向(安心感)に関するデータは存在せず,これらの項目に対する検証はできなかった。

 感度に関して,マンモグラフィでは62~85%と報告されているのに対し,超音波検査単独での感度は54~73%と報告されており,マンモグラフィと同等または若干低い傾向が示されている。一方マンモグラフィと超音波検査とを併用する方法での感度は85~94%とされ,すべての論文で有意な感度上昇が示されている。

 さらに,唯一のランダム化比較試験では,StageⅠ乳癌の発見数が大きく伸びること(コントロール群48例,介入群93例),中間期癌が半減すること(コントロール群35例,介入群18例)が報告されており,超音波検査の併用は間接的には受診者の安心感に寄与できる可能性がある。

 害のアウトカムに関連して,検査時間の増加,費用の増加に関するデータは存在せず,これらの項目に対する検証はできなかった。

 偽陽性の増加に関しては,ランダム化比較試験・観察研究のいずれでも超音波検査単独ではマンモグラフィとの比較で偽陽性率の若干の低下がみられるが,マンモグラフィと超音波検査の併用では有意に偽陽性が増加している(いずれの論文もマンモグラフィと超音波検査は独立判定)。検診の不利益を最小化する目的においては,特にマンモグラフィと超音波検査の併用で検診を施行する場合は,偽陽性を抑制するような精度管理(精中機構の定める講習会での認定取得,総合判定の導入等)が行われることが重要である。

 以上より,Hand-held(用手的)超音波検査は,マンモグラフィとの併用で施行される際には感度の上昇が確実で,早期乳癌の発見や中間期癌の減少に寄与することが期待できるため,受診者の意向にかなう検診であると評価できる。不利益として偽陽性の増加の懸念はあるものの,適切な精度管理のもとではその不利益は許容範囲にコントロールできるものと思われるため,マンモグラフィと超音波検査の併用検診は適切な精度管理が行われることを条件として,行うことを弱く推奨するとした。

 一方,超音波検査単独の検診での感度はマンモグラフィを凌駕するものではなく,またマンモグラフィでは証明されている死亡率低減効果は,超音波検査においてはエビデンスとして証明されていない。したがって超音波検査単独の検診はマンモグラフィ検診に対して優位性に乏しいと言わざるを得ず,超音波検査単独での検診は行わないことを弱く推奨するとした。

検索キーワード

 PubMedで“Breast”,“Sensitivity”,“Survival”,“ultrasonography”,“ultrasound”,“handheld”,“hand held”のキーワードで検索した(721件の論文)。Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索し7件追加した。独立したレビュワー2人による一次スクリーニングを施行し54件の論文を候補とし二次スクリーニングを行った。フルテキスト検索の結果,ランダム化比較試験1件とレビュー論文からハンドサーチした論文2件が本CQのレビュー対象として的確と判断された。

参考文献

1)Ohuchi N, Suzuki A, Sobue T, Kawai M, Yamamoto S, Zheng YF, et al;J-START investigator groups. Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial(J-START):a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387(10016):341-8. [PMID:26547101]

2)Huang Y, Kang M, Li H, Li JY, Zhang JY, Liu LH, et al. Combined performance of physical examination, mammography, and ultrasonography for breast cancer screening among Chinese women:a follow-up study. Curr Oncol. 2012;19(Suppl 2):eS22-30. [PMID:22876165]

3)Honjo S, Ando J, Tsukioka T, Morikubo H, Ichimura M, Sunagawa M, et al. Relative and combined performance of mammography and ultrasonography for breast cancer screening in the general population:a pilot study in Tochigi Prefecture, Japan. Jpn J Clin Oncol. 2007;37(9):715-20. [PMID:17766996]