総説6    転移・再発乳癌のモニタリング

 転移・再発乳癌の薬物療法中には,適切なモニタリングを行うことが必要である。モニタリングの目的としては,① 治療が有効か無効かの判別を行うこと,② 治療による副作用がないかを判断すること,がある。無効となった治療を漫然と継続することは患者の害となり,適切な次の治療へ切り替えることで治療の機会を失わないようにすべきである。

 モニタリングには,症状の観察や,身体検査,定期的な画像検査,および必要に応じて血液検査が含まれる。これらの方法にエビデンスは存在しないが,治験や臨床試験で行われた方法が参考となる。臨床医は,選択された治療方法により起こり得る副作用や予測される経過を考えるとともに,患者の意向も合わせた共有の意思決定プロセスを通じて,モニタリングの方法を決定する必要がある。

1)モニタリングの方法と時期
 癌の治療効果を臨床的に評価するためには,症状を観察する他に,腫瘍量の変化を評価するための客観的な評価方法として主に画像診断や腫瘍マーカーの推移が用いられる。腫瘍量の評価を簡便化,最適化,標準化するためのガイドラインとしてResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)ガイドライン(version 1.1)が用いられており,癌の臨床試験および日常診療の双方の使用目的に適用できる1)2)。一方で,RECISTガイドラインに基づく完全奏効(CR),部分奏効(PR),安定(SD),進行(PD)といった効果判定のみを個々の患者における治療継続の是非についての意思決定に用いられることを意図されておらず,治療継続の是非の判断については臨床的・総合的な判断による原病の悪化の状況によって行うべきである。

 治療開始前には病変部位を含めたベースラインの画像診断を行う必要があり,主にCTやMRIが用いられる。RECISTでは治療開始前4週以内に撮像しておくこととしている。治療開始前の画像がないことや,画像の撮影から治療までの期間が長いと,治療開始までの増悪か治療後の増悪かの判定が困難となることがあり得る。

 モニタリングのための検査の最適な頻度は不明であるが,治験や臨床試験で用いられたモニタリング方法を参考にすることができる。モニタリングの頻度は,進行性疾患を検出する必要性と,効果のない治療による不必要な毒性を避ける必要性とのバランスを取る必要がある。National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインではCTを,化学療法施行中は2~4サイクルごと,内分泌療法中は2~6カ月ごとに撮像することを提案しており,その他の検査方法も含めた表を下に提示する(表1)3)。European Society for Medical Oncology(ESMO)ガイドライン4)では病勢,部位,転移の程度,治療法の種類に応じて,一般的に2~4カ月ごとに行うこととしている。使用される薬剤によるイベント発生がどのタイミングで多いかや,患者の状態も併せて個別に検討する必要がある。

2)画像診断における注意点
 定期的な画像による観察を行うことにより,客観的な治療効果判定を行うことが可能となる。一方で,治療の間には腫瘍に関連しない軽微な事象,存在していた腹水や胸水のわずかな変動,非特異的な炎症,腫瘍のサイズのわずかな増減等,臨床的に重要ではない多少のばらつきや軽微な変化が存在することがある。これらを簡便かつ客観的に判定をするのにも,RECISTガイドラインを参考にすることが有用と考えられる。また,定期的な観察のみではなく,症状や疾患の増悪を疑う症状や所見が現れた際には,追加の画像診断を速やかに行う必要がある。

 治療開始後早期には,治療による反応の影響が画像上でみられることがある。初回の効果判定に骨シンチグラフィやFDG-PET検査が行われた際には,それらが病変の増悪なのか,フレア現象と呼ばれる一過性の反応が画像にみられているのか判別が難しい場合には,経過をみて判断を行う必要がある5)6)。CT等においても,溶骨性病変や見えていなかった骨梁間の病変や骨髄転移が治療の反応によって骨硬化を呈することや,線維化や囊胞変性をきたした病変とviableな病変の区別が難しいことがあり,その他の臨床所見や腫瘍マーカー,その後の経過も併せた事後の判定が必要となる場合がある。また,奏効例において一時的な腫瘍増大がみられるpseud-progressionという現象を認めることもあり,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入によってしばしばみられるようになっている6)7)。一方で,免疫チェックポイント阻害薬では導入初期に急激に腫瘍増大(hyper-progression)をきたすこともあり,画像での判別が難しい場合がある7)

 治療に伴う副作用および合併症への注意も必要である。間質性肺炎(IP)あるいは間質性肺疾患(ILD)は化学療法薬によっても起こり得るため,乾性咳嗽等,間質性肺炎が疑われる症状が現れた場合には,画像検査(胸部CT,胸部X線検査)を行う等,観察を十分に行う必要がある6)。分子標的治療薬の中には導入によって比較的多くみられることが知られている8)。症状の観察や胸部X線写真ではわずかな初期変化の捕捉は困難であり,使用する薬剤によってはILD早期発見のため,定期的に胸部CT検査を実施する必要がある。免疫チェックポイント阻害薬の使用時には,頻度は少ないものの過剰な自己免疫反応による副作用と考えられる有害事象〔免疫関連有害事象(irAE)〕が生じることがあり,皮膚,消化器,呼吸器,甲状腺,下垂体等,さまざまな臓器に及ぶ症状を呈し,時に致命的となることがある9)。irAEは治療開始後2カ月以内の発現が多いが,その後に発生することもあり,継続したモニタリングが必要となる。

参考文献

1)Eisenhauer EA, Therasse P, Bogaerts J, Schwartz LH, Sargent D, Ford R, et al. New response evaluation criteria in solid tumours:revised RECIST guideline(version 1.1). Eur J Cancer. 2009;45(2):228-47. [PMID:19097774]

2)固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)―改訂版version 1.1―日本語訳JCOG版.http://www.jcog.jp/doctor/tool/recistv11.html(アクセス日:2021/10/17)

3)National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer. Version 3.2022-May 7, 2022. https://www.nccn.org/(アクセス日:2022/5/20)

4)Gennari A, André F, Barrios CH, Cortés J, de Azambuja E, DeMichele A, et al;ESMO Guidelines Committee. Electronic address:clinicalguidelines@esmo.org. ESMO Clinical Practice Guideline for the diagnosis, staging and treatment of patients with metastatic breast cancer. Ann Oncol. 2021;32(12):1475-95. [PMID:34678411]

5)Hamaoka T, Madewell JE, Podoloff DA, Hortobagyi GN, Ueno NT. Bone imaging in metastatic breast cancer. J Clin Oncol. 2004;22(14):2942-53. [PMID:15254062]

6)Michaels AY, Keraliya AR, Tirumani SH, Shinagare AB, Ramaiya NH. Systemic treatment in breast cancer:a primer for radiologists. Insights Imaging. 2016;7(1):131-44. [PMID:26567115]

7)Billan S, Kaidar-Person O, Gil Z. Treatment after progression in the era of immunotherapy. Lancet Oncol. 2020;21(10):e463-76. [PMID:33002442]

8)Chen Y, Noma S, Taguchi Y, Takahashi M, Tsurutani J, Mori S, et al. Characteristics of interstitial lung disease in patients from post-marketing data on metastatic breast cancer patients who received abemaciclib in Japan. Breast Cancer. 2021;28(3):710-9. [PMID:33453015]

9)Kalisz KR, Ramaiya NH, Laukamp KR, Gupta A. Immune checkpoint inhibitor therapy-related pneumonitis:patterns and management. radiographics. 2019;39(7):1923-37. [PMID:31584861]