CQ4   乳房腫瘤の精密検査として乳房超音波エラストグラフィは推奨されるか?

推奨

●乳房腫瘤の超音波検査による精密検査として,Bモードに追加してエラストグラフィを行うことを推奨する。

推奨の強さ:1~2(合意に至らず),エビデンスの強さ:中,合意率:行うことを強く推奨33%(16/48),行うことを弱く推奨56%(27/48),行わないことを弱く推奨10%(5/48)


推奨におけるポイント
■Bモード単独による鑑別診断では生検対象となる腫瘤において,エラストグラフィを追加することにより特異度が向上し,生検が回避される病変があることが判明した。不要な生検を減らすために,エラストグラフィを追加することを強く推奨したいが,感度がわずかに低下するため,実際の生検回避の判断には,Bモードによる鑑別診断を踏まえてエラストグラフィ結果を考慮した総合的診断が必要である。
■推奨決定会議では「行うことを強く推奨」と「行うことを弱く推奨」に意見が割れたため,推奨度決定に至らなかった。

背 景・目 的

 一般的に,正常組織に比べて癌をはじめとした増殖傾向を示す組織は硬化する。病変が硬い場合,加圧することによる周囲との変形しにくさの差から「硬い」と認識することができ,触知によってこれを判断する手法が古くから用いられている触診である。この「硬さ」を客観視するために画像化したものがエラストグラフィであり,超音波を用いるものを超音波エラストグラフィ(MRIによるエラストグラフィも開発されている),その中で乳房病変の診断に用いるものを乳房超音波エラストグラフィと呼ぶ。乳房超音波エラストグラフィには大きく2つの手法があり,用手的あるいは筋肉の微細振動等から加圧エネルギーを得て,超音波画像上の各ピクセル移動速度から硬さを算出し画像化するstrain elastography(SE)と,超音波剪断波により加圧エネルギーを加え,発生する横波のドプラシフトから硬さを算出し画像化するshear wave elastography(SWE)である。

 基本的な超音波検査であるBモード検査は,マンモグラフィに比べて浸潤癌の検出感度が高いが良性病変も多く描出されるため,感度を保ちつつ偽陽性をいかに抑えるかが重要な課題である。超音波検査での偽陽性は本来不要な生検,すなわち本来不要な心理的・身体的・経済的な負担を被検者に強いることになる。Bモードの超音波検査にエラストグラフィを追加することにより,診断精度,とりわけ特異度が向上することが期待され,多くの臨床研究結果が報告されている。また,エラストグラフィは精密検査で使用される最近の乳房用超音波診断装置のほとんどに搭載可能であり,導入ハードルは低いと考えられる。

 本CQではエラストグラフィをBモード超音波検査に追加して行うことでBモード単独に比べて診断精度が向上するのか,本来不要な生検が回避できるのかについて,システマティック・レビューを行った。

解 説

 今回のシステマティック・レビューを行ううえで,益のアウトカムとして乳房腫瘤の良悪性鑑別における特異度の向上(重要度8点),不要な生検率の低下(重要度8点),感度向上(重要度6点),不要な生検の回避による医療費減少(重要度6点),害のアウトカムとして検査時間の増加(重要度4点)を設定した。

 乳房腫瘤の良悪性鑑別において,Bモード単独の超音波検査とエラストグラフィを追加した超音波検査とを比較している研究に関して検索を行った。設定したアウトカムの中で医療費減少と検査時間の増加に関する該当論文はなかった。超音波診断装置,アプリケーションの進歩に伴ってエラストグラフィの精度は年々向上しており,また,最近の実臨床においてエラストグラフィ実用化初期の機器は使われていないため,文献検索期間は2011年以降とした。エラストグラフィを手法から大きくSEとSWEに分類し,SEは定性的または半定量的評価,SWEは定量的な評価を行った場合についてそれぞれメタアナリシスを行った。SWEの定性的評価については該当論文が少ないためメタアナリシスを行えなかった。また,SWEの定量的評価に関しては個々の研究で異なるパラメータが使用されているため,パラメータを一括した場合と,Emax,Emeanについてそれぞれメタアナリシスを行った。

 対照にしたBモード超音波検査による7論文のメタアナリシス(表1,図1)では,乳癌診断の統合感度は97.3%,統合特異度は53.5%であった。前提としてこれらの論文で対象となっている病変は,超音波検査で認識可能な病変であり(当然超音波検査で見えない乳癌等は含まれない),かつ精査・生検を目的に精密検査とされた腫瘤である。「このようなBモード検査の感度が非常に高い群においてエラストグラフィを追加することで生検を回避できるか」がこれらの研究の主なアウトカムになっている。SEの定性的評価を用いた場合,8論文のメタアナリシス(表2,図2)による乳癌診断の統合感度は82.6%,統合特異度は80.9%であった。SEの半定量的評価を用いた場合,4論文のメタアナリシス(表3,図3)で統合感度84.5%,統合特異度69.4%であった。SWEの定量的評価については,採用した12論文で用いられていた計5種類の定量的評価法を一括したメタアナリシス(表4,図4)では,統合感度84.9%,統合特異度88.5%であった。定量的評価法のうち,Emaxを用いた場合の7論文のメタアナリシス(表5,図5)では,統合感度91.3%,統合特異度88.6%,Emeanを用いた6論文のメタアナリシス(表6,図6)では,統合感度85.3%,統合特異度92.9%であった。解析結果より,Bモード検査にエラストグラフィを追加した場合には,SE(定性および半定量),SWE(定量)のいずれの手法を用いても,Bモード単独に比べて顕著な特異度の向上が得られた(表2~6,図2~6)。

 特異度の向上は不要な生検の減少につながることから,SWEの定量的評価の報告1)では,Emaxのカットオフ値を80 kPaに設定すると,Breast Imaging Reporting and Data System(BI-RADS)カテゴリー4A病変の95.5%がカテゴリー3にダウングレードされ,生検不要となった。BI-RADSカテゴリー4A病変は基本的に針生検が推奨されているものの,悪性の可能性は2%から10%と低く良性病変が多く含まれるため,エラストグラフィは不要な生検の回避に有用であることが示されている。また,今回設定した文献検索期間よりも新しい論文のためメタアナリシスには加えていないが,日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)により12施設で行われた多施設前向き観察研究2)では,エラストグラフィ(SE)の画像が解析された乳房腫瘤857病変について,Bモードにカラードプラ検査を加えることで乳癌診断の特異度が64.6%から72.8%に向上し,さらにエラストグラフィを加えることで79.0%に改善(p<0.0001)しており,国内で行われた多施設研究の結果という点でも注目される。ただし,検査を追加することによる特異度の向上は,今回のメタアナリシスにもみられるようにトレードオフとして感度の低下(偽陰性の増加)を生じ得る。SEとSWEを両方用いた報告3)では,SE,VTI(SWEの定性的評価),VTIQ(SWIの定量的評価)の単独評価でBI-RADSカテゴリー4A病変のそれぞれ63%,73%,86%を生検不要へとダウングレードできたとしているが,同時に25%,8%,50%の不適切なダウングレード,すなわち偽陰性が生じている。しかし,これら3つの手法を組み合わせることによって,偽陰性を1例も生じることなく51%の病変をダウングレードできており,エラストグラフィの複数の手法を組み合わせることで偽陰性のリスクを減少できることを示している。

 また,これも検索期間より新しい研究であるが,国際的な多施設前向き研究(NCT02638935)4)では,Bモード検査によるBI-RADSカテゴリー3-4病変に対してSEとSWEの両方のエラストグラフィを追加して再分類し,不要な生検を減らせるかを検討している。この中でカテゴリー4A病変については,SWEのカットオフを>3.70 m/s,SEのカットオフを>1.0とした場合,不要な生検を495例から320例に35%減少させることができている。しかもエラストグラフィによって再分類した後のカテゴリー3病変については,偽陰性を1.96%(12/612例)に抑えることができている。これはカテゴリー3で想定される悪性の確率2%以下の定義を満たす良好な結果であり,SEとSWEそれぞれ単独では偽陰性になってしまうリスクを補えることが示されている。

 今回のメタアナリシスを行ったエラストグラフィの測定法すべてにおいて,Bモード単独の超音波検査に比べて特異度が顕著に上昇し,生検対象病変から不要な生検が回避されることから,その有用性は明らかである。ただし,懸念される感度低下への対応として,基本であるBモード検査所見との組み合わせによる細かい場合分けや,複数のエラストグラフィ手法を組み合わせた評価法等について,今後も検討が必要と思われる。害のアウトカムに設定した検査時間の増加について評価した論文は存在せず,特に最近の機種ではエラストグラフィの手技は非常に簡便になり,適切な画像が数秒で得られるため,わずかな検査時間増加をアウトカムとする研究はおそらく今後も行いにくいと考えられる。また,超音波エラストグラフィは皮膚にプローブを触れる,またはわずかに加圧するだけであるため,被検者にはほぼ侵襲のない検査である。

 以上より,乳房腫瘤の良悪性鑑別において,Bモードの超音波検査にエラストグラフィを併用することを推奨する。ただし,推奨することについては合意が得られたものの,推奨決定会議では「強い推奨」と「弱い推奨」に意見が割れたため推奨の強さは最終決定できなかった。

検索キーワード

 PubMed,医中誌,Cochrane Libraryで“Ultrasonography”,“Breast neoplasms”,“Elastography”,“Elasticity”のキーワードと同義語で検索した。検索期間は2011年1月から2021年6月までとし,1,344編の論文が抽出された。一次・二次スクリーニング,メタアナリシスは,ガイドライン委員とは独立したSRメンバーが行った。一次スクリーニングで191編,二次スクリーニングで34編が抽出され,最終的に18編1)3)5)~20)をメタアナリシスに用いた。また,ハンドサーチで2編の検索期間より新しい論文2)4)を追加して参考にした。

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