総説2    検診・診断カテゴリーとPPV3

はじめに

 日本乳癌学会では,検診で行われる乳房画像検査のカテゴリーを「検診カテゴリー」,精査施設で行う乳房画像検査に対して「診断カテゴリー」と称する,画像診断後のマネジメントを明確とした「検診カテゴリーと診断カテゴリーに基づく乳がん検診精検報告書作成マニュアル」を2019年7月に発刊した。本マニュアルはエビデンスに基づいた乳房画像診断の質を評価する基準とその指標の設定ならびに乳腺診療の効率化とそのマネジメントの均てん化を目的としている1)。精密検査として実施された各々の乳房画像検査(診断マンモグラフィや診断超音波検査等)を総合判定した診断カテゴリーに基づいた推奨マネジメントを適切に行い,陽性適中度(PPV)3=乳癌数/(診断カテゴリー4,5の症例で組織生検または細胞診が施行された症例数)を算出することで,PPV3が各精検施設の乳房画像診断の質を評価できる臨床評価指標(QI)となり,専門家集団の責任で自発的に乳腺診療の画像診断の質を評価と改善を行い,自助努力を可能とするベンチマークとなる。さらにPPV3を算出することで,これまで不可能であった米国をはじめとする諸外国と日本の乳房画像診断精度の国際比較が可能となる。

1)検診カテゴリー
 「検診カテゴリー」は乳がん検診カテゴリーを意味しており,乳がん検診後のマネジメントが要精密検査(以下,要精検)か精査不要かを決定するカテゴリーである。検診カテゴリー3以上が要精検となる。わが国のマンモグラフィガイドライン2)のカテゴリーは,これまで通りに使用するが,「診断カテゴリー」と区別が明確となるように,新たに「検診マンモグラフィカテゴリー」と呼ぶようになった。検診マンモグラフィのみを実施する一般的な対策型乳がん検診では,検診マンモグラフィカテゴリーが検診カテゴリーとなる。乳房超音波検査を併用する任意型乳がん検診等では,検診マンモグラフィカテゴリーと検診超音波検査カテゴリーを総合判定して検診カテゴリーが決定される。その際の検診超音波検査カテゴリー基準は日本乳腺甲状腺超音波医学会の定める「乳房超音波診断ガイドライン」3)に準じており,総合判定は「マンモグラフィと超音波検査の総合判定マニュアル」4)に準ずる。

 検診カテゴリー3,4,5は要精検となり推奨マネジメントはすべて同じであるが,検診カテゴリー3,4,5を区別して判定することで,悪性確信度を精密検査施設の医師に伝えることができる。わが国のように検診施設と精精密検査施設が異なる乳がん検診システムの場合は有用である。

 腫瘤や異常乳頭分泌等の臨床症状がある場合は,本来は検診の対象者ではないため検診カテゴリー9とコードして要精検とする。なぜなら,有症状の乳がん検診受診者に対して,検診カテゴリー9という特別なカテゴリーを付けることで本来の乳がん検診の有効性(無症状の受診者から早期に乳癌を発見する)を正確に検証することが可能となるからである1)

2)診断カテゴリー
 「診断カテゴリー」は精査施設で行う乳房画像検査の総合判定カテゴリーを意味し,乳腺診療のマネジメントに直結するカテゴリーである。各々の診断カテゴリーに対して,対応する推奨マネジメントを定めており,乳腺診療の均てん化が可能となる(表1)。

 乳がん検診で実施されるマンモグラフィを「検診マンモグラフィ」,乳腺専門施設等の精検施設において実施されるマンモグラフィを「診断マンモグラフィ」と称し,マンモグラフィ検査を「検診」と「診断」に区別する意味は,「検診マンモグラフィ」が2方向もしくは1方向撮影のマンモグラフィを実施し,無症状者から乳癌が疑われる所見を発見して要精検か否かのマネジメントを決定することが目的であるのに対し,「診断マンモグラフィ」は,有症状の患者や乳がん検診で要精検となった受診者に対して,2方向撮影はもちろん,圧迫拡大スポットなどの特殊撮影も実施したうえで,また近年は乳房トモシンセシスを施行して,生検実施の必要性の有無や経過観察といった診療マネジメントを決定することを目的とするからである(☞検診・画像診断CQ3参照)。同様に乳房超音波検査についても,検診における「検診超音波検査」と精査機関における「診断超音波検査」は目的(病変の拾い上げが主となるか,質的診断が主となるか)や方法が異なる〔検診超音波検査ではBモードが主体であるが,診断超音波検査ではエラストグラフィ(☞検診・画像診断CQ4参照)や血流評価(☞検診・画像診断CQ5FRQ4参照)等も実施される〕ため,「検診超音波検査カテゴリー」と「診断超音波検査カテゴリー」を区別する意味は重要である。診断カテゴリーを決定する各診断モダリティのカテゴリー(診断マンモグラフィカテゴリーや診断超音波検査カテゴリー)は,基本的には従来のマンモグラフィや乳房超音波のカテゴリーの考え方(良悪性の悪性確信度)に従って判定(カテゴリー1~5)を行うが,各診断モダリティのカテゴリーの中で最も悪性確信度が高いカテゴリーを採用する独立判定ではなく,「総合判定」の考え方で診断カテゴリーを判定することが基本である。また,診断カテゴリーの判定はその患者の利益と不利益に直結するマネジメントになるので,責任の重い診療行為であることを自覚して診断カテゴリーを判定することが重要である。特に,診断カテゴリー3(短期間の画像による経過観察)の判定は,その判定に自信かつ責任をもって決定することが肝要である。

 診断カテゴリーは,基本的に診断マンモグラフィカテゴリーと診断超音波検査カテゴリーの2つのモダリティで総合判定して決定することが推奨される。その理由は,乳房MRIやその他のモダリティを使用しても,特異度が有意に改善されるというエビデンスが存在せず,医療費および迅速なマネジメントの決定という観点からは,診断マンモグラフィと診断超音波検査で診療マネジメントを決定することが最適な方針と考えられるからである(☞検診・画像診断CQ3参照)。

 診断カテゴリー4,5では組織(細胞)診断を必ず施行する。診断カテゴリー4,5と判定した場合は,画像誘導下生検を施行することが基本であるが,患者の希望や価値観,全身状態等を考慮して生検が行われないことは当然ながら許容される。そのような場合は,診断カテゴリー4N,5N(N:No biopsy)とコードして区別し,診断カテゴリー4,5判定であるが生検を施行しなかった理由も記録する。

 診断カテゴリー1,2,3では,基本的に画像誘導下生検は行わないが,画像所見に異常がなくても腫瘤触知等の臨床所見が確認された場合や,患者の強い希望や紹介元からの要望があれば,例外的に画像誘導下生検が行われることは許容される。その場合は,診断カテゴリー1D,2D,3D(D:Do biopsy)とコードして区別する。これらの診断カテゴリー4N,5Nや診断カテゴリー1D,2D,3Dのコードは,乳房画像診断の質の評価に必要な精度管理と精度保障を行うためのデータベース作成と経過観察システムの構築には必須となる。

3)PPV3
 PPV3は乳房画像診断精度のQIとして世界的に認知されている1)。米国ではMammography Quality Standards Act and Program(MQSA)という連邦法で,乳房画像診断精度の評価指標としてマンモグラフィ診断のPPV3を採用して,3年毎の施設のPPV3をFood and Drug Administration(FDA)に提出することを義務付けている。Breast Imaging Reporting and Data System(BI-RADS)のPPV3は診断マンモグラフィで生検を推奨されたBI-RADSカテゴリー4,5判定の症例で,実際に生検が行われたBI-RADSカテゴリー4,5のマンモグラフィ診断症例数に基づいた陽性適中度である。つまり,BI-RADSでもカテゴリー4,5のマネジメントとして生検が基本的に必須であるが,患者の拒否等で,必ずしもカテゴリー4,5のケースが100%生検されるわけでもないため,実際に生検が行われたBI-RADSカテゴリー4,5のマンモグラフィ診断症例数に基づいた陽性適中度であるPPV3を重要としている。米国ではすでにPPV3が,乳腺専門施設や精検施設で行われる乳房画像検査の質を評価するための重要な指標になっている。BI-RADSにおいても,カテゴリー4,5は検診マンモグラムの読影のみでは判定されない。精密検査のスポット圧迫撮影等のマンモグラフィ撮影の追加や乳房トモシンセシス,超音波検査等の診断を総合判定し,今回,日本乳癌学会で推奨する診断カテゴリーと全く同様にして決定される。

 診断カテゴリーのPPV3の算出方法は,PPV3=乳癌数/(診断カテゴリー4,5の症例で組織生検または細胞診が施行された症例数)である。

4)乳房画像診断のQI
 医療の質評価は,構造と過程と結果の3つの視点で行われる。構造は,診療器機や治療設備,スタッフ等が含まれ,過程は標準治療の実施や治療の適応決定等であり,結果は生存率や合併症,在院日数等が含まれている。乳房画像診断の精度管理は,医療の質評価の過程の視点に含まれる。乳房画像診断の精度管理のベンチマークである診断カテゴリーのPPV3をQuality Indicator(QI)として測定,公開することで乳房画像診断の標準化が可能となり,各施設の乳房画像診断精度の精度保障と精度管理が可能となる。そして,全国の精査施設からPPV3を集計することで,乳房画像診断のQI基準を制定することが可能となり,そのQI基準を基に読影医および乳腺専門施設が自らの責任で自発的に自施設の乳房画像診断精度を評価し,必要があれば改善することが可能となる。つまり,PPV3を乳房画像診断のQIとすることで,乳房画像診断の質もplan-do-check-act(PDCA)サイクルを通して,その質を向上することが可能となり,その結果,乳癌診療全体における医療の質の向上につながるのである。PPV3を乳房画像診断のQIとする目的は,単なる病院間の比較・ランク付けではなく,個々の病院における医療の質の改善となる乳房画像診断のベンチマークを設定することである。乳癌治療の方針決定の指針となる乳房画像診断の精度評価となるQIは世界的には乳腺専門施設認定項目に必須となっている。精査施設で施行した乳房画像診断の総合判定による診断カテゴリーに基づく診療マネジメントを行うことが,日本の乳腺診療の効率化と均てん化につながる。そして,診断カテゴリーから導かれるPPV3をQIとして設定することで,乳房画像診断の精度管理と監査を行うことが可能となる。これは“科学的根拠に基づいた乳房画像診断と画像誘導下生検の施行”の土台となり,エビデンスに基づいた乳癌の診断と治療を提供するという日本乳癌学会の使命に帰着する。

参考文献

1)日本乳癌学会編.検診カテゴリーと診断カテゴリーに基づく乳がん検診精検報告書作成マニュアル.東京,金原出版,2019.

2)日本医学放射線学会,日本放射線技術学会編.マンモグラフィガイドライン.第4版,東京,医学書院,2021.

3)日本乳腺甲状腺超音波医学会.乳房超音波診断ガイドライン改訂第4版.東京,南江堂,2021.

4)日本乳癌検診学会総合判定委員会編.マンモグラフィと超音波検査の総合判定マニュアル.東京,篠原出版新社,2015.