FRQ4   乳房腫瘤の精密検査としてドプラ法を用いた非造影超音波検査による血流評価は有用か?

ステートメント

●乳房腫瘤の超音波精密検査として,Bモードに非造影の血流評価を追加することは臨床上有用と考えられるが,十分な研究報告が少なく,今後の検討が待たれる。

背 景

 超音波検査はマンモグラフィに比べて乳癌の検出感度が高いが,一方で偽陽性が高く良性病変も多く描出されるため,感度を高く保ちつつ,偽陽性をいかに抑えるかが重要な課題の一つである。超音波検査にフローイメージング(ドプラ法,造影超音波等の総称)による病変の血流情報を加味することによって診断精度が向上することが期待され,なかでも,ドプラ法はほとんどの乳房用超音波診断装置に標準搭載されており,普及率が高い。超音波検査において非造影の血流評価としてドプラ法を併用することが,診断精度の向上に寄与し得るのかを検討した。

解 説

 乳房腫瘤の良悪性鑑別において,通常のBモード超音波検査と比較して,ドプラ法を併用した超音波検査が有効かについて,システマティック・レビューを行った。益のアウトカムとして良悪性診断における感度の向上(重要度7点),特異度の向上(不要な生検率の低下,重要度8点),害のアウトカムとして検査時間の増加(重要度4点)を設定した。

 検索期間は2011年1月から2021年7月までとし,二次スクリーニングで11編の論文が抽出された1)~11)。アウトカムで設定した診断性能(感度,特異度)に関する論文のみであり,検査時間に関して該当する論文は認められなかった。今回のスクリーニングで抽出された論文においては,感度はドプラ法を加えても概ね変わらず,特異度が改善するという報告が多く認められた。ただし,対象が腫瘤性病変または非腫瘤性病変など論文によってさまざまであり,カラードプラ法またはパワードプラ法等,検査手法や評価基準方法も一定ではなく,定量的な評価を行うのは不適切と考えられた。多くは単施設,後ろ向きの研究であったが,多施設前向き観察研究で比較的多数例での検討として,Leeらの報告がある3)。高濃度乳房を有する女性を対象として,従来のBモード超音波検査に追加してカラードプラ,エラストグラフィを実施しており,1,021個の乳房腫瘤が評価され,このうち68個が悪性であった。Bモード検査にエラストグラフィとドプラ法を追加したところ,AUCが0.87(95%CI 0.82,0.91)から0.96(95%CI 0.95,0.98,p<0.001)に,特異度が27.0%(95%CI 24.2%,29.9%)から76.4%(95%CI 73.6%,79.1%,p<0.001)にそれぞれ上昇し,感度の低下はなかった(95%CI -1.5%,1.5%,p>0.999)。PPVは8.9%(95%CI 7.0%,11.2%)から23.2%(95%CI 18.5%,28.5%,p<0.001)となり,悪性ではない病変に対する不必要な生検を67.7%(696例中471例)回避することができた。同様に,多施設前向き観察研究で比較的多数例で検討されたバイアスの少ない研究として,JABTS BC-04研究がある7)。これは日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)で作成されたカラードプラ法診断基準の有用性を確認することを目的としたもので,国内16施設,1,408個の充実性腫瘤の超音波画像を評価している(悪性839個,良性569個)。多変量解析の結果,バスキュラリティ,血流形態(境界に沿う血流,貫入する血流),血流入射角は,良性病変と悪性病変を区別するための有意な所見であることが示された。しかし,Bモードのみでの感度と特異度は,カラードプラ法を加えても大きな改善はみられなかった。このような否定的な結果になった原因を検討したところ,血流を評価する際に年齢を考慮すべきだったことが判明し,シミュレーション実験の結果では年齢を考慮することで特異度が有意に向上することが示され(38.3%→46.0%,p<0.001),診断基準を改善することができている。

 今回,システマティック・レビューにおいて設定した文献検索期間後に報告されたために評価対象とならなかったが,このリサーチクエスチョンを直接解決する重要な臨床試験として,CD-CONFIRM研究がある12)。この研究の目的は,先述の研究であるJABTS BC-04研究で作成されたカラードプラ法診断基準の有用性を評価すること,そしてカラードプラ法とエラストグラフィの関係を評価することであった7)。国内13施設から,悪性639病変,良性712病変,計1,351病変の充実性腫瘤が登録され,その超音波画像を中央判定している。Bモードのみの感度が非常に高く,カラードプラ法を加えることによる感度の改善はみられなかったが,カラードプラ法を加えることで特異度が有意に改善した(61.5%→69.2%,p<0.0001)。さらに,Bモードとカラードプラ法を併用した特異度は,エラストグラフィの追加により有意に改善した(72.8%→79.0%,p<0.0001)。この研究によって,用いられたカラードプラ法診断基準が有用であること,また,カラードプラ法とエラストグラフィは診断能の改善に独立して寄与することが示されている。

 本FRQは,当初はCQとして定性的システマティック・レビューを行ったが,前述のように対象病変,検査手法,評価基準等が一定しておらず,定量的な評価を行うには十分なデータが得られなかった。ただし,CD-CONFIRM研究の結果や,今後の研究報告の蓄積をもとに十分な検討ができることが期待されるため,FRQとして上記のステートメントを行うこととした。また,乳房非腫瘤性病変の超音波診断におけるカラードプラ判定基準作成およびその有用性に関する多施設共同研究(JABTS BC-07研究)(UMIN000032299)も国内で現在進行中であり13),今後は乳房腫瘤および非腫瘤性病変に対してもカラードプラ法の有用性についてCQとして検討できることが期待される。

検索キーワード

 PubMedで“Ultrasonography”,“Breast neoplasms”,“Doppler”,“Flow imaging”,“Color Doppler”,“Power Doppler”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2011年1月から2021年7月までとし,332件がヒットした。SRメンバーによって,スクリーニングで11編の論文が抽出された。また,ハンドサーチで1編の論文を追加して参考にした。

参考文献

1)Zhang W, Xiao X, Xu X, Liang M, Wu H, Ruan J, et al. Non-mass breast lesions on ultrasound:feature exploration and multimode ultrasonic diagnosis. Ultrasound Med Biol. 2018;44(8):1703-11. [PMID:29861297]

2)Stanzani D, Chala LF, Barros Nd, Cerri GG, Chammas MC. Can Doppler or contrast-enhanced ultrasound analysis add diagnostically important information about the nature of breast lesions? Clinics(Sao Paulo). 2014;69(2):87-92. [PMID:24519198]

3)Lee SH, Chung J, Choi HY, Choi SH, Ryu EB, Ko KH, et al. Evaluation of screening US-detected breast masses by combined use of elastography and color Doppler US with B-mode US in women with dense breasts:a multicenter prospective study. Radiology. 2017;285(2):660-9. [PMID:28640693]

4)Ibrahim R, Rahmat K, Fadzli F, Rozalli FI, Westerhout CJ, Alli K, et al. Evaluation of solid breast lesions with power Doppler:value of penetrating vessels as a predictor of malignancy. Singapore Med J. 2016;57(11):634-40. [PMID:27872938]

5)Cho N, Jang M, Lyou CY, Park JS, Choi HY, Moon WK. Distinguishing benign from malignant masses at breast US:combined US elastography and color doppler US--influence on radiologist accuracy. Radiology. 2012;262(1):80-90. [PMID:22084209]

6)Kubota K, Iwasa H, Aoyama N, Hamada N, Nogami M, Tamura T, et al. Power Doppler and gray-scale sonography standardized by BI-RADS for the differentiation of benign postoperative lesion and local recurrence after breast-conserving therapy. Oncol Rep. 2011;26(6):1357-62. [PMID:21887473]

7)Watanabe T, Kaoku S, Yamaguchi T, Izumori A, Konno S, Okuno T, et al Multicenter prospective study of color Doppler ultrasound for breast masses:utility of our color doppler method. Ultrasound Med Biol. 2019;45(6):1367-79. [PMID:30905536]

8)Li L, Zhou X, Zhao X, Hao S, Yao J, Zhong W, et al. B-mode ultrasound combined with color Doppler and strain elastography in the diagnosis of non-mass breast lesions:a prospective study. Ultrasound Med Biol. 2017;43(11):2582-90. [PMID:28844465]

9)Tozaki M, Fukuma E. Does power Doppler ultrasonography improve the BI-RADS category assessment and diagnostic accuracy of solid breast lesions? Acta Radiol. 2011;52(7):706-10. [PMID:21596798]

10)Choi JS, Han BK, Ko EY, Ko ES, Shin JH, Kim GR. Additional diagnostic value of shear-wave elastography and color Doppler US for evaluation of breast non-mass lesions detected at B-mode US. Eur Radiol. 2016;26(10):3542-9. [PMID:26787603]

11)吉田泰子,角田博子,染谷朋子,沼倉恵美,田村史子,森下恵美子,他.乳癌超音波検診における血流情報の有用性.乳癌の臨.2018;33(1):55-62.

12)Watanabe T, Yamaguchi T, Okuno T, Konno S, Takaki R, Sato M, et al. Utility of B-mode, color Doppler and elastography in the diagnosis of breast cancer:results of the CD-CONFIRM multicenter study of 1351 breast solid masses. Ultrasound Med Biol. 2021;47(11):3111-21. [PMID:34456085]

13)乳房非腫瘤性病変の超音波診断におけるカラードプラ判定基準作成およびその有用性に関する多施設共同研究(JABTS BC-07).UMIN000032299.https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_his_list.cgi?recptno=R000036831(アクセス日:2021/12/25)