CQ5    乳房病変の良悪性鑑別目的に造影超音波検査は勧められるか?

推奨

●乳房腫瘤の精密検査として,造影超音波検査を行うことを弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:74%(35/47)


推奨におけるポイント
■Bモード超音波検査に造影超音波検査を追加することにより,乳房腫瘤の診断能は向上する。
■ただし,造影超音波検査で追加される情報の重要性や,他の検査で代替し得る可能性を検討したうえで,個々の症例に応じて適応を考慮すべきである。

背 景・目 的

 超音波検査はマンモグラフィに比べて浸潤癌の検出感度が高いが,良性病変も多く描出されるため,感度を高く保ちつつ,偽陽性をいかに抑えるかが重要な課題である。造影超音波検査は造影剤の投与によって得られる対象領域の血流情報を診断に利用するものであり,超音波検査の基本であるBモード検査の形態学的診断に追加して造影超音波検査を行うことにより,診断精度の向上が期待される。造影超音波検査に用いる造影剤として,わが国では2012年に第二世代超音波造影剤のペルフルブタンマイクロバブル(ソナゾイド®)が「乳房腫瘤性病変」に対して追加承認されている。しかし,乳房における造影超音波検査の適応や有効性について,いまだコンセンサスが得られているとは言い難い。本CQでは乳腺腫瘤の良悪性鑑別において,造影超音波検査を行うことでBモード超音波検査を単独で行う場合に比べて乳腺腫瘤の診断能が向上するのかについて,システマティック・レビューを行った。

解 説

 今回のシステマティック・レビューを行ううえで,益のアウトカムとして良悪性診断における特異度の向上(重要度8点),感度の向上(重要度7点),害のアウトカムとして造影剤注入の侵襲性(重要度4点),検査時間の増加(重要度4点),費用(重要度4点)を設定した。乳房病変の良悪性鑑別において,造影超音波検査と造影剤を使用しない超音波検査とを比較している研究について検索を行った。乳房病変に対して日本で承認されている超音波造影剤は第二世代造影剤のソナゾイドのみであること,第一世代と第二世代の造影剤では検査方法や画像の違いが大きいことから,第二世代造影剤を使用した研究についての検索とした。

 乳腺腫瘤の良悪性鑑別について,通常のBモード超音波検査と造影超音波検査を比較した10論文1)~10)を用いてメタアナリシスを行った。乳腺腫瘤の良悪性鑑別において,対照としたBモード超音波検査のメタアナリシスにおける統合感度は89.6%,統合特異度は60.9%であった(表1,図1)。一方,造影超音波検査の統合感度は95.1%,統合特異度は80.9%であった(表2,図2)。超音波検査で認識可能な乳腺腫瘤の良悪性鑑別という点において,Bモード単独でも感度がかなり高いが,造影超音波検査はさらに高い感度を示した。また,Bモードは感度が高い一方で特異度がやや低いが,造影超音波検査では顕著な特異度の向上を認めた。特異度の上昇は,乳房病変に対する不要な生検の減少につながると考えられる。乳房病変637例の検討3)において,Bモード検査でBI-RADSカテゴリー4A以上とされた481病変のうち107病変(22%)が造影超音波検査でカテゴリー1-3にダウングレードされ,そのうち悪性(偽陰性)は1例だけであり,造影超音波検査は不要な生検の回避に有用であると報告されている。また,マンモグラフィとBモード超音波検査でBI-RADSカテゴリー3と診断された37病変について,陰性的中度(NPV)はマンモグラフィ+Bモードで94.6%であったが,造影超音波検査では100%であり,マンモグラフィ+BモードでBI-RADSカテゴリー3(probably benign)とされた病変において,造影超音波検査はさらに安全に良性と診断することが可能であったと報告されている9)

 今回のメタアナリシスでは,乳腺腫瘤の良悪性鑑別において造影超音波検査を用いることによる診断精度の向上は明らかである。ただし,検者・被検者が検査のために要する日程調整や実際の検査時間,手技に習熟する必要性,検査費用等を考慮すると,乳腺腫瘤のすべてに造影超音波検査を行うことは現実的とはいえない。例えば,Bモードで超音波検査カテゴリー5のほぼ確実に乳癌と考えられる腫瘤に対して造影超音波を追加しても診断能向上という点で恩恵を得られる可能性は低いことが予想される。また,乳房病変の血流を評価する他のモダリティとして,日本では欧米に比べて造影MRIを行いやすい環境にあることも考慮する必要がある。造影超音波検査を行うべき病変として現時点で定まったものはないが,例えば次のような状況での適応が考えられる。

 ・針生検の適応決定に迷う症例や,患者の希望や抗凝固剤内服中等で可能であれば針生検を回避したい場合。
 ・MRIを利用することが難しい施設やMRIの禁忌事項を有する患者。
 ・乳癌手術前にMRIよりも手術体位に近い超音波検査によって副病変の質的診断を行いたい場合。
 ・Bモード検査ではカテゴリー3で良性の可能性が高いが,確信の度合いをさらに強めたい場合。

 造影超音波検査のその他の使用目的として,乳癌の広がり診断(広義には副病変の質的診断とも捉えられる)や薬物療法の効果判定等の報告もあるが,これらにおける有用性を検証するためには今後の報告の蓄積が待たれる。

 今回メタアナリシスを行った10編の論文のうち9編は第二世代超音波造影剤としてSonoVue®(未承認)を使用,1編4)はソナゾイドを使用していた。SonoVueの9編は主に使用されている中国,欧州からの報告であり,ソナゾイドの1編は日本における第Ⅲ相臨床試験である。本CQにおいては第二世代超音波造影剤としてSonoVueとソナゾイドを同等に扱ったが,乳腺病変において両者の診断能を直接比較した研究は検索したかぎり存在しない。肝臓領域においては,ソナゾイドはクッパー細胞に貪食されることを利用したクッパー相も評価できる点がSonoVueと異なることから両者を比較した研究が少数存在するが,肝腫瘤性病変の良悪性鑑別におけるソナゾイドの明らかな優位性は現時点では示されておらず,両者は同等と評価されている11)12)。また,乳癌手術中のセンチネルリンパ節同定を目的として超音波造影剤を使用した場合においてSonoVueとソナゾイドを比較した研究があるが,センチネルリンパ節の検出個数や転移の診断能において,両者に有意な違いを認めていない13)

 設定したアウトカムの中で検査時間の増加,費用に関する該当論文はなかった。超音波造影剤の侵襲性について評価した該当論文はなかったが,ソナゾイドの添付文書において,乳房腫瘤性病変に対する承認前の臨床試験206例中8例(3.9%)に副作用が報告され,主に下痢3件,注射部疼痛2件であった。また,先行承認されていた肝腫瘤性病変における使用成績調査3,422例中17例(0.5%)に副作用が報告されている。なお,ソナゾイドは鶏卵由来のホスファチジルセリンナトリウムの膜で被包したマイクロバブルを用いているため,卵または卵製品にアレルギーのある患者には使用できない。

 以上,乳房腫瘤の良悪性鑑別において造影超音波検査はBモード検査に比べて診断能が高く,特に特異度の向上は顕著であるが,その適応は個々の症例に応じて考慮すべきと考えられる。したがって,造影超音波検査の必要性を十分検討したうえで,乳腺腫瘤の精密検査として行うことを弱く推奨する。

検索キーワード

 PubMed,医中誌,Cochrane Libraryで“Ultrasonography”,“Breast neoplasms”,“Contrast enhanced”のキーワードと同義語で検索した。検索期間は2021年4月までとし,981編の論文が抽出された。独立したSRメンバーによって,一次スクリーニングで34編,二次スクリーニングで14編が抽出され,ハンドサーチで1編の論文10)を追加した。最終的に10編1)~10)をメタアナリシスに用いた。

参考文献

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2)Pan J, Tong W, Luo J, Liang J, Pan F, Zheng Y, et al. Does contrast-enhanced ultrasound(CEUS)play a better role in diagnosis of breast lesions with calcification? A comparison with MRI. Br J Radiol. 2020;93(1112):20200195. [PMID:32463295]

3)Shao SH, Li CX, Yao MH, Li G, Li X, Wu R. Incorporation of contrast-enhanced ultrasound in the differential diagnosis for breast lesions with inconsistent results on mammography and conventional ultrasound. Clin Hemorheol Microcirc. 2020;74(4):463-73. [PMID:31868661]

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