FRQ9   StageⅠ-Ⅱ乳癌術後の定期的な全身画像検査は勧められるか?

ステートメント

●無症候性で遠隔転移の兆候がないStageⅠ-Ⅱ乳癌術後の定期的な全身画像検査は行わないことが勧められるが,近年では乳癌サブタイプを踏まえた再発リスクが考慮されつつあり,わが国で行われている前向き試験の解析結果が待たれる。

背 景

 乳癌術後フォローアップを行ううえで,定期的な画像検査の必要性や検査法,検査間隔について,これまで多くの調査研究が行われている。以下にAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO),European School of Oncology(ESMO),NCCNガイドライン(二次資料①~③)の推奨・非推奨の検査をまとめた(表1)。

 乳癌術後のフォローアップの目的は,無症候性の遠隔転移を見つけることではなく,局所再発もしくは対側乳癌を早期発見し治癒を目指すためである。しかし,わが国の実臨床では乳癌術後のフォローアップに全身画像検査を行っている施設も多い。

 一方で,近年の乳癌診療においてはサブタイプを踏まえたリスク判定や個別化治療の重要性が高まっている。今回,StageⅠ-Ⅱ乳癌術後フォローアップに定期的な全身画像検査を推奨すべきかどうか,システマティック・レビューを行った。

解 説

 このクエスチョンに対するシステマティック・レビューを行うにあたって,益のアウトカムとして死亡率減少(重要度7点),再発の早期発見(重要度5点),治療に伴うQOL低下の防止(重要度5点),患者の満足度(重要度4点)を設定した。また,害のアウトカムとして検査に伴う不安(重要度4点),費用増加(重要度4点),被曝(重要度4点),偽陽性増加(重要度4点)を設定した。

 死亡率減少に対しては,過去にGIVIO試験とRosselli del Turcらによる試験の2つのランダム化比較試験が存在する1)2)。GIVIO試験では生存率においてStageⅠ-Ⅲの乳癌術後患者のうち,問診,視触診,マンモグラフィのみの通常フォローアップ群〔122/665例(18%)〕とこれらに加えて他のさまざまな画像検査や血液検査を行うインテンシブフォローアップ群〔132/655例(20%)〕に有意差はなかった1)。同様にRosselli del Turcoらによる試験においても生存率において通常フォローアップ群(19.5%)とインテンシブフォローアップ群(18.6%)に有意差はなかった2)。Josephらの観察研究でも同様に通常フォローアップ群とインテンシブフォローアップ群に有意差はなかった3)4)。また上述の2つのランダム化比較試験を含む5つの論文を用いて行われた比較的最近のメタアナリシスにおいても生存率に有意差はなかった5)

 再発の早期発見に関しては,遠隔転移再発においてGIVIO試験では通常フォローアップ群(127/665例)とインテンシブフォローアップ群(127/655例)に差はなかった1)。Rosselli del Turcoらによる試験において再発率は通常フォローアップ群で20.1%,インテンシブフォローアップ群で26.4%であった2)。一方,Ogawaらの全ステージを対象にした観察研究では通常フォローアップ群で17例,インテンシブフォローアップ群で44例,インテンシブフォローアップ群で有意に多く遠隔転移が発見された6)。Oltraらのランダム化比較試験では全再発率は通常フォローアップ群で17.5%,インテンシブフォローアップ群で22.4%であった7)。また,Josephらの観察研究では再発を発見するまでの平均期間は,CTが870日,骨シンチグラフィが,1380日,問診が846日,身体診察が909日で有意差はなかった3)4)

 治療に伴うQOL低下の防止については,GIVIO試験ではQOLに有意差はなかったとしている1)

 患者の満足度に関しては,乳癌術後患者84人の満足度調査の論文が存在するが,そこではX線検査や血液検査等のインテンシブフォローアップを好む傾向であった8)

 インテンシブフォローアップにおいては当然,費用増加を伴う。海外ではあるが,Oltraらの検討では患者一人あたりの経費は通常フォローにおいて390ユーロ,インテンシブフォローにおいて1,278ユーロであった7)。また,Ogawaらはすべての患者にインテンシブフォローを行うには費用が高いと結論している6)。インテンシブフォローアップにおいて胸腹部CTや骨シンチグラフィ,PET-CT等を施行する場合,被曝量も増加する。Meyerらの検討では,過去の報告をもとにした場合,実効線量はマンモグラフィ0.4 mSvに比べて,胸部CT 7.0 mSv,腹部CT 8.0 mSv,骨シンチグラフィ6.3 mSv,PET-CT 22.0 mSvであった。そしてマンモグラフィにいずれかの検査を組み合わせた場合,どの組み合わせでもマンモグラフィ単独のフォローアップと比べて放射線誘発癌発生のリスクは上昇するため,特に理由がない場合,早期乳癌術後においてこれらの検査を用いたフォローアップは避けるべきとしている9)。今回の検査では,アウトカムとして設定した検査に対する不安,偽陽性増加に該当する論文は抽出されなかった。

 以上をまとめると,患者はインテンシブフォローアップを好む傾向で,通常フォローアップに比べて多くの再発病変を検出する傾向もあるが,費用,被曝が増加し,生存率に有意差はなく,QOLも有意差はなかった。ただし,今回の検索では乳癌のサブタイプ別や再発リスク別にインテンシブフォローアップの有用性に関して検討したものは存在しなかった。

 一方で,近年ではoligometastasisに対する局所治療による病勢の制御の可能性が研究されており,無症候性の遠隔転移の発見の意義が再検討されている。

 一般的に乳癌の遠隔臓器転移は多発あるいは多臓器にわたることが多く,また単発であっても微小転移巣が全身に散在している可能性が高いため,基本的には薬物療法などの全身療法が基本となる。遠隔転移に対する外科的切除に関しては生存期間の延長に寄与するエビデンスはないため,限られたケースを除き勧められない。しかし,最近では孤立性あるいは少数の転移が単一臓器のみに認められるoligometastatic diseaseの場合は,多発転移に比べて手術等の局所治療が予後改善に有効あるとの報告もなされている10)。また,American Joint Committee on Cancer(AJCC)staging manual第8版では,従来のTNM分類をもとにした解剖学的病期分類(anatomic stage)に,腫瘍グレード,サブタイプ分類を融合させた予後病期分類(prognostic stage)が取り入れられた。解剖学的病期分類に比べてこの予後病期分類のほうが生存率に対するステージングの精度が高いことが報告されている11)12)。このためStageⅠ-Ⅱであっても,サブタイプを考慮したリスクを判断し,かつ患者の意向を踏まえたうえで無症候性のoligometastasisを検索するためのインテンシブフォローアップを行うことは許容されるかもしれない。

 最新の「画像診断ガイドライン2021年版」(日本医学放射線学会編)では,基本的にStageⅠ-Ⅱ乳癌術後の定期的な全身画像検査は行わないことが推奨されるが,乳癌サブタイプを踏まえた再発リスクを考慮したうえで,患者ごとに決定することが望ましいとされている(二次資料④)。

 現在,わが国でサブタイプを踏まえた再発高リスク群に対する試験(JCOG 1204試験:再発高リスク乳癌術後患者の標準的フォローアップとインテンシブフォローアップの比較第Ⅲ相試験)13)14)が登録終了し追跡中である。これはサブタイプと腋窩リンパ節転移を考慮し再発高リスク乳癌患者(術後5年以内の再発割合が30%以上であると想定される集団)が対象で,その中にはStageⅠ-Ⅱ乳癌の一部も含まれており,解析結果が待たれる。

 以上より,無症候性で遠隔転移の兆候がないStageⅠ-Ⅱ乳癌術後の定期的な全身画像検査は行わないことが勧められるが,術後フォローアップの意義やメリット・デメリットを丁寧に説明したうえで主治医がその必要性があると判断した場合,患者の意向により検査をすることは許容される。

 一方で,近年は乳癌サブタイプを踏まえた再発リスクの考慮や個別化治療が重要視されており,わが国で行われている再発高リスク乳癌術後患者の標準的フォローアップとインテンシブフォローアップ試験の解析結果が待たれる。

検索キーワード

 PubMedで“Breast Neoplasms”,“follow-up studies”,“surveillance”,“prognosis”,“diagnosis”,“Whole Body Imaging”,“intensive”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2021年3月までとし,825件がヒットした。二次スクリーニングで7編の論文が抽出され,この他ハンドサーチでの文献を5編追加した。

参考にした二次資料
  1. Khatcheressian JL, Hurley P, Bantug E, Esserman LJ, Grunfeld E, Halberg F, et al;American Society of Clinical Oncology. Breast cancer follow-up and management after primary treatment:American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline update. J Clin Oncol. 2013;31(7):961-5. [PMID:23129741]
  2. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer. ver1. 2022. https://www.nccn.org/(アクセス日:2021/11/24)
  3. Cardoso F, Kyriakides S, Ohno S, Penault-Llorca F, Poortmans P, Rubio IT, et al;ESMO Guidelines Committee. Electronic address:clinicalguidelines@esmo.org. Early breast cancer:ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2019;30(8):1194-220. [PMID:31161190]
  4. 日本医学放射線学会編.画像診断ガイドライン2021年版.第3版,東京,金原出版,2021.
参考文献

1)Impact of follow-up testing on survival and health-related quality of life in breast cancer patients. A multicenter randomized controlled trial. The GIVIO Investigators. JAMA. 1994;271(20):1587-92. [PMID:8182811]

2)Rosselli Del Turco M, Palli D, Cariddi A, Ciatto S, Pacini P, Distante V. Intensive diagnostic follow-up after treatment of primary breast cancer. A randomized trial. National Research Council Project on Breast Cancer follow-up. JAMA. 1994;271(20):1593-7. [PMID:7848404]

3)Joseph E, Hyacinthe M, Lyman GH, Busch C, Demps L, Reintgen DS, et al. Evaluation of an intensive strategy for follow-up and surveillance of primary breast cancer. Ann Surg Oncol. 1998;5(6):522-8. [PMID:9754761]

4)Imoto S, Jitsuiki Y. Detection of the first recurrence during intensive follow-up of breast cancer patients. Jpn J Clin Oncol. 1998;28(10):597-600. [PMID:9839498]

5)Moschetti I, Cinquini M, Lambertini M, Levaggi A, Liberati A. Follow-up strategies for women treated for early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2016;2016(5):CD001768. [PMID:27230946]

6)Ogawa Y, Ikeda K, Izumi T, Okuma S, Ichiki M, Ikeya T, et al. First indicators of relapse in breast cancer:evaluation of the follow-up program at our hospital. Int J Clin Oncol. 2013;18(3):447-53. [PMID:22415743]

7)Oltra A, Santaballa A, Munárriz B, Pastor M, Montalar J. Cost-benefit analysis of a follow-up program in patients with breast cancer:a randomized prospective study. Breast J. 2007;13(6):571-4. [PMID:17983398]

8)de Bock GH, Bonnema J, Zwaan RE, van de Velde CJ, Kievit J, Stiggelbout AM. Patient’s needs and preferences in routine follow-up after treatment for breast cancer. Br J Cancer. 2004;90(6):1144-50. [PMID:15026793]

9)Meyer C, Millán P, González V, Spera G, Machado A, Mackey JR, et al. Intensive Imaging Surveillance of Survivors of Breast Cancer May Increase Risk of Radiation-induced Malignancy. Clin Breast Cancer. 2019;19(3):e468-74. [PMID:30850181]

10)Pagani O, Senkus E, Wood W, Colleoni M, Cufer T, Kyriakides S, et al;ESO-MBC Task Force. International guidelines for management of metastatic breast cancer:can metastatic breast cancer be cured? J Natl Cancer Inst. 2010;102(7):456-63. [PMID:20220104]

11)Mittendorf EA, Chavez-MacGregor M, Vila J, Yi M, Lichtensztajn DY, Clarke CA, et al. Bioscore:a staging system for breast cancer patients that reflects the prognostic significance of underlying tumor biology. Ann Surg Oncol. 2017;24(12):3502-9. [PMID:28726077]

12)Weiss A, Chavez-MacGregor M, Lichtensztajn DY, Yi M, Tadros A, Hortobagyi GN, et al. Validation study of the American Joint Committee on Cancer eighth edition prognostic stage compared with the anatomic stage in breast cancer. JAMA Oncol. 2018;4(2):203-9. [PMID:29222540]

13)Hojo T, Masuda N, Mizutani T, Shibata T, Kinoshita T, Tamura K, et al. Intensive vs. standard post-operative surveillance in high-risk breast cancer patients(INSPIRE):Japan Clinical Oncology Group study JCOG1204. Jpn J Clin Oncol. 2015;45(10):983-6. [PMID:26246481]

14)岩田広治(研究代表).JCOG1204.再発高リスク乳癌術後患者の標準的フォローアップとインテンシブフォローアップの比較第Ⅲ相試験実施計画書ver. 2.0 http://www.jcog.jp/document/1204.pdf(アクセス日:2022/4/22)