CQ3   診断マンモグラフィにおいて乳房トモシンセシスを追加することは推奨されるか?

推奨

●乳がん検診要精検症例や症候例に対して行う診断マンモグラフィにおいて乳房トモシンセシスを追加することを弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:88%(42/48)


推奨におけるポイント
■「診断マンモグラフィ」は精密検査施設受診時に超音波検査の前に行われると想定される。この際,「検診マンモグラフィ」と同じ2Dのマンモグラフィよりも,内部構造,病変位置が正確に把握できる乳房トモシンセシスにより,超音波検査の前に多くの情報が得られ,超音波の診断精度も向上することが期待されるが,撮影時間増加,サーバー設置等,施設側の負担もある。

背 景

 乳がん検診で行われるマンモグラフィは「検診マンモグラフィ」,診療施設で行う精密検査としてのマンモグラフィは「診断マンモグラフィ」と呼ばれ,区別されている。診断マンモグラフィにおいては,必要に応じて拡大スポット撮影や特殊な方向の撮影等が追加される。マンモグラフィ検査は死亡率低減効果の証明された検診方法であるが,高濃度乳房においてその感度,特異度は低下する。乳房トモシンセシスは断層を意味するトモグラフィ(tomography)と合成を意味するシンセシス(synthesis)を合わせた造語で,X線管球を移動させながら低線量で複数の画像を撮影し,薄い断層画像を再構成する技術であり,3Dマンモグラフィとも呼ばれている。断層画像のため乳腺の重なりを減少させることで感度,特異度の低下を軽減させることが期待されている。欧米の大規模研究によってトモシンセシスの検診における有用性は確立しておりメタアナリシスも存在するが,診療における有用性の報告は検診に比べて少ない。しかし診療においてもより多くの乳癌の発見や偽陽性率の低下による検査効率の向上が期待される。そこで,精密検査においてトモシンセシスを併用しての乳癌診断が有効かどうかを検討した。

解 説

 診療における状況として,検診リコール例(検診要精密検査例)や症候性の女性を対象としてトモシンセシスを併用した乳癌診断が,トモシンセシスを用いないマンモグラフィのみの乳癌診断よりも有効かを検討した。ただしアウトカムによって検診リコール例や症候性の女性を対象とした論文が存在しなかった場合は他の状況を対象とした論文でアウトカムに合致した場合,その論文を参考に検討した。

 益のアウトカムとして感度向上(重要度9点),死亡率減少(重要度7点),再発率減少(重要度7点),特異度向上(重要度7点)を設定した。また害のアウトカムとして偽陽性率増加(重要度4点),読影時間増加(重要度4点),被曝増加(重要度4点),撮影時間増加(重要度4点)を設定した。

 益のアウトカムとした感度向上,特異度向上および偽陽性率増加に関してトモシンセシスとマンモグラフィを比較した論文が後ろ向きコホート1編1),症例対照研究9編存在した2)~10)。これらの論文を用いて定量的メタアナリシスを行った。そこではトモシンセシスを用いた場合の乳癌診断の統合感度は86.9%,統合特異度は88.4%(表1,図1),偽陽性率は0~67.6%であった。一方マンモグラフィのみを用いた場合の統合感度は77.0%,統合特異度は83.8%(表2,図2),偽陽性率は0~71%であった。マンモグラフィを用いた場合に比べてトモシンセシスを用いたほうが乳癌診断の感度,特異度ともに高く,また,偽陽性率は少ない傾向であった。

 検索した範囲内で,死亡率減少,再発率減少,撮影時間増加を報告したものは存在しなかった。

 読影時間増加に関しては,リコール例,症候性を対象にした論文で読影時間を記載したものはなかったが,微細石灰化症例を対象にした論文でトモシンセシスとマンモグラフィでの読影時間を比較したものが1編存在した11)。その論文では平均読影時間はマンモグラフィが25秒に対しトモシンセシスは44秒でトモシンセシスのほうが読影時間は長かった。

 被曝量増加に関してもリコール例,症候性を厳密に対象にした論文は存在しなかったが,症状の有無や検診,診療にかかわらずトモシンセシスとマンモグラフィの線量を比較した論文が3編存在した12)~14)。このうちトモシンセシス単独とマンモグラフィ単独を比較した2編の論文では平均線量(AGD)はトモシンセシスが1.49~2.1 mGy,マンモグラフィが1.62~2.74 mGyとトモシンセシスの被曝量はマンモグラフィと同等からやや低い結果であった12)13)。また1編の論文では病変の描出能を検討しているが線量は同等にもかかわらず病変の描出能(lesion clarity score)は高かった13)。ただし,2方向のマンモグラフィに加えてMLO方向のトモシンセシスを追加した場合の線量(8.45 mGy)は2方向のマンモグラフィのみの線量(5.3 mGy)に比べて有意に高かった14)

 以上より,トモシンセシスをマンモグラフィに追加して乳癌診断を行う場合,特に読影時間の増加および被曝量の増加が危惧されるが,被曝量に関しては診断領域の医療放射線防護において最適化のツールとされている診断参考レベル(DRL)ではトモシンセシスのDRLは1.5 mGyとされており,撮影の際にはこの値に近付けることによって被曝量増加を抑えることが可能である15)。一方,検診リコール例や症候性の女性に対する精査においてはその感度,特異度はマンモグラフィ単独の場合に比べて上昇し,偽陽性率も減少するためその有用性は明らかである。American College of Radiology(ACR)のAppropriateness Criteriaでは40歳以上の腫瘤触知や,乳頭分泌等,症候性の女性に対する精査としてマンモグラフィとともにトモシンセシスも同様のRatingとして推奨されていることも考慮すべきである16)17)。他にもトモシンセシスを診療に使用した場合の利点として,マンモグラフィに比べて感度が高いため,検診リコールの原因となった病変や触知腫瘤など主病変に対する超音波検査を施行する前に通常のマンモグラフィでは指摘できなかった副病変が検出される可能性があり,主病変に加えて副病変に対する丹念な超音波検査が施行できる可能性がある。また,超音波検査は機器の性能や検者の技量に依存し,超音波では指摘できない病変も存在するため,トモシンセシスで検出された病変が超音波検査で指摘できない場合はMRI等,他の追加検査を考慮することができる。さらには検診リコールの患者が乳腺専門医以外の医者を受診する可能性もあり,トモシンセシスでより多くの病変を正しく指摘できること自体も利点である。また,偽陽性率がマンモグラフィよりも低いため,マンモグラフィによる検診リコール例では,トモシンセシスにより偽病変を正しく認識することによって追加の不要な検査を省略できることも利点である。しかしながら検索した論文の中にはランダム化比較試験はなく,コホート研究,症例対照研究によるメタアナリシスのため,そのエビデンス総体は高いとはいえない。また,トモシンセシスはデータ量が多く,その保管のためのサーバー容量の確保が課題である。検診リコール例や症候性の女性に対する精査以外にも診療においては良性病変や術後の経過観察症例も存在するが,これらにトモシンセシスを併用するかについては,上述のサーバー容量の問題もあり,実際には施行が難しい場合も考えられる。よって検診リコール例や症候性の女性に対する精査においては診断マンモグラフィに乳房トモシンセシスを追加することを弱く推奨するとした。

検索キーワード

 PubMedで“breast neoplasms”,“diagnosis”,“mammography”,“tomosynthesis”のキーワードで検索した。また医中誌,Cochran Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2021年4月までとした。PubMedで703件,医中誌で163件,Cochran Libraryで54件がヒットした。ハンドサーチによる追加はなかった。このうち英語,日本語以外の論文,重複した論文を除いた911件で一次スクリーニングを行い106編の論文が抽出された。二次スクリーニングでは感度向上,特異度向上,偽陽性率増加について10編,読影時間増加について1編,被曝増加について3編の論文が抽出された。感度向上,特異度向上に関しては抽出された10編の論文を用いて定量化アナリシスを行った。偽陽性率増加,読影時間増加,被曝増加に関しては定性的システマティック・レビューを行った。他のアウトカムとして設定した死亡率減少,再発率減少,撮影時間増加に関連した論文は該当するものが存在しなかった。これらの一次・二次スクリーニング,メタアナリシスはガイドライン委員とは独立したSRメンバーが行った。

参考文献

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2)Waldherr C, Cerny P, Altermatt HJ, Berclaz G, Ciriolo M, Buser K, et al. Value of one-view breast tomosynthesis versus two-view mammography in diagnostic workup of women with clinical signs and symptoms and in women recalled from screening. AJR Am J Roentgenol. 2013;200(1):226-31. [PMID:23255766]

3)Tagliafico A, Mariscotti G, Durando M, Stevanin C, Tagliafico G, Martino L, et al. Characterisation of microcalcification clusters on 2D digital mammography(FFDM)and digital breast tomosynthesis(DBT):does DBT underestimate microcalcification clusters? Results of a multicentre study. Eur Radiol. 2015;25(1):9-14. [PMID:25163902]

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14)Kang HJ, Chang JM, Lee J, Song SE, Shin SU, Kim WH, et al. Replacing single-view mediolateral oblique(MLO)digital mammography(DM)with synthesized mammography(SM)with digital breast tomosynthesis(DBT)images:comparison of the diagnostic performance and radiation dose with two-view DM with or without MLO-DBT. Eur J Radiol. 2016;85(11):2042-8. [PMID:27776658]

15)医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME).日本の診断参考レベル(2020年版).令和2年7月3日.http://www.radher.jp/J-RIME/report/JapanDRL2020_jp.pdf(アクセス日:2021/12/13)

16)American College of Radiology ACR Appropriateness Criteria® Palpable Breast Masses. https://acsearch.acr.org/docs/69495/Narrative/(アクセス日:2021/12/13)

17)American College of Radiology ACR Appropriateness Criteria® Evaluation of Nipple Discharge. https://acsearch.acr.org/docs/3099312/Narrative/(アクセス日:2021/12/13)