BQ10  BRCA病的バリアントを有する乳癌患者に対し,乳房手術後の放射線療法は勧められるか?

ステートメント

●乳房部分切除術後の放射線療法は行うことが標準治療である。
●乳房全切除術後放射線療法は,臨床的適応に従って行うことが標準治療である。

背 景

 BRCAはがん抑制遺伝子の一つで,DNAの二本鎖切断の修復に重要な働きをしている。したがって,BRCA病的バリアントを有する患者では放射線感受性が高い可能性があり,有害事象の重篤化や放射線誘発性二次がんが懸念される。そこで,BRCA病的バリアントを有する患者に対する乳房手術後放射線療法の安全性について,システマティック・レビューを行い,放射線療法の害について概説した(乳房手術後放射線療法の益について☞放射線BQ12345CQ5参照)。

解 説

 BRCA病的バリアント保持者に対して乳房部分切除術が選択された場合に標準治療である術後放射線療法が安全に行えるかどうかが問題となる。また,乳房全切除術後であっても腋窩リンパ節転移陽性などの再発高リスク患者への乳房全切除術後放射線療法(PMRT)が安全に行えるかどうかは重要である。BRCA病的バリアント保持者において,放射線療法の益が散発性乳癌患者と異なるかどうかを直接検討した報告はない。検討にあたり,放射線療法の有害事象について,BRCA病的バリアント保持患者と散発性乳癌患者との比較を行った。対側乳癌については,BRCA病的バリアント保持患者に対して照射を行った患者と行わなかった患者の比較を行った。

 BRCA病的バリアントを有する患者に対する放射線療法に関する報告は限られ,放射線療法の有効性と安全性に関するランダム化比較試験はなく,後ろ向きコホート研究と症例対照のみである。

 急性有害事象については,Grade 2以上の皮膚炎,乳房痛,疲労,肺臓炎を評価した。Grade 2以上の皮膚炎については2編の後ろ向きコホート研究1)2)と2編の症例対照研究3)4)でメタアナリシスを行い,散発性乳癌との有意差は認めなかった〔オッズ比(OR)0.92,95%CI 0.61-1.37,p=0.67〕。乳房痛については1編の後ろ向きコホート2)と2編の症例対照研究3)4)でメタアナリスを行い,散発性乳癌との有意差は認めなかった(OR 1.18,95%CI 0.73-1.92,p=0.51)。疲労については1編の症例対照研究3)で報告があり,ModerateからSevereの頻度は病的バリアント保持者で散発性乳癌患者に比し,8.2%多く認められたが有意差はなかった(95%CI -10.5-26.9)。放射線肺臓炎については1編の症例対照研究4)で報告され,RTOG/EORTC Grade 1以上の肺臓炎が散発群で0.94%(2/213)に対して病的バリアント保持群で2.82%(2/71)であったが,一般的な放射線肺臓炎の頻度を上回るものではない。

 晩期有害事象については皮膚障害・皮下組織障害・肺障害・肋骨骨折・心障害について評価した。皮膚障害は1編の症例対照研究で報告があり,RTOG/EORTCスコアGrade 2以上の頻度が病的バリアント保持群で1.82%,散発群で3.76%であった。皮下組織・肺障害・肋骨骨折は2編の症例対照研究3)4)でメタアナリシスを行った。皮下組織障害については,1編は皮弁壊死,1編はRTOG/EORTC Grade 2以上についての評価で評価法は異なるが,両群に有意差は認めなかった(OR 0.90,95%CI 0.39-2.12,p=0.82)。肺障害は,1編は肺線維化,1編はRTOG/EORTCスコアでGrade 2以上についての評価である。2編ともに散発性乳癌群での発症がなく,病的バリアント保持群での発症率は1.82%(1/55)と1.40%(1/70)で,メタアナリシスにて有意差は認めなかった(OR 5.37,95%CI 0.55-52.24,p=0.15)。肋骨骨折もメタアナリシスにて有意差を認めていない(OR 1.92,95%CI 0.27-13.88,p=0.52)。心障害については1編の症例対照研究3)で評価され,両群ともに発症は報告されていない。以上のように,放射線療法による有害事象は,急性期・晩期ともに病的バリアント保持者であっても,散発性乳癌患者を上回ることはない。

 放射線療法による対側乳癌発症については病的バリアント保持者において照射群と非照射群で差があるかを検討した。Kathleen Cuningham Foundation Consortium for Research into Familial Breast Cancer(kConFab)の後ろ向きコホート研究5)では,643例中148例(23.0%)で対側乳癌を認めたが,放射線療法による対側乳癌増加は認めていない(p=0.44)。オランダからの418例の解析6)でも放射線療法による対側乳癌の増加は認めず,発症時40歳未満の症例に限定しても有意な増加は認めなかった。一方,国際的なコホート研究であるWECARE studyの報告7)においては放射線療法による対側乳癌増加を認めたが,有意差はなかった〔リスク比(RR)1.4,95%CI 0.6-3.3,p=0.7〕。

 対側乳癌以外の二次がんについてはイスラエルからの報告がある8)。放射線療法を受けた病的バリアント保持者で5年以上経過観察された266例が対象で,経過観察期間の中央値は10年(5~27年)であるが,1例(0.38%)に甲状腺乳頭癌を認めたのみであった。

 このように,BRCA病的バリアント保持者であっても放射線療法による有害事象は散発性乳癌患者と同等である。BRCA病的バリアント保持者においては対側乳癌の発症率が高いものの,対側乳癌も含めた二次がんは,照射を行っていないBRCA病的バリアント保持者と比較して増加しない。米国臨床腫瘍学会,米国放射線腫瘍学会,米国腫瘍外科学会の遺伝性乳癌に関するガイドラインにおいても,乳房部分切除術後またはPMRTが考慮されるBRCA病的バリアント保持者に対して,放射線療法は差し控えるべきではないと述べられている9)

 以上より,乳房部分切除術後であれば放射線療法を行い,乳房全切除術後でも,散発性乳癌と同様の臨床的適応に従って行うことが標準治療である。

 本BQは2018年版で乳房部分切除術後の放射線療法に限定したCQであった。2022年版ではPMRTにも言及したうえで当初CQとして作成を開始したが,ランダム化比較試験などの実施は困難であり,国際的にコンセンサスも得られているため,BQに変更した。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms/radiotherapy”,“Breast Neoplasms/surgery”“Postoperative Care”,“Postoperative Complications”,“Genes,BRCA1”,“Genes,BRCA2”,“BRCA1 Protein”,“BRCA2 Protein”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は1995年1月~2021年3月とし,9編を採用した。

参考文献

1)Park H, Choi DH, Noh JM, Huh SJ, Park W, Nam SJ, et al. Acute skin toxicity in Korean breast cancer patients carrying BRCA mutations. Int J Radiat Biol. 2014;90(1):90-4. [PMID:23957571]

2)Huszno J, Budryk M, Kołosza Z, Nowara E. The influence of BRCA1/BRCA2 mutations on toxicity related to chemotherapy and radiotherapy in early breast cancer patients. Oncology. 2013;85(5):278-82. [PMID:24217135]

3)Shanley S, McReynolds K, Ardern-Jones A, Ahern R, Fernando I, Yarnold J, et al. Late toxicity is not increased in BRCA1/BRCA2 mutation carriers undergoing breast radiotherapy in the United Kingdom. Clin Cancer Res. 2006;12(23):7025-32. [PMID:17145824]

4)Pierce LJ, Strawderman M, Narod SA, Oliviotto I, Eisen A, Dawson L, et al. Effect of radiotherapy after breast-conserving treatment in women with breast cancer and germline BRCA1/2 mutations. J Clin Oncol. 2000;18(19):3360-9. [PMID:11013276]

5)Pierce LJ, Phillips KA, Griffith KA, Buys S, Gaffney DK, Moran MS, et al. Local therapy in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers with operable breast cancer:comparison of breast conservation and mastectomy. Breast Cancer Res Treat. 2010;121(2):389-98. [PMID:20411323]

6)Drooger J, Akdeniz D, Pignol JP, Koppert LB, McCool D, Seynaeve CM, et al. Adjuvant radiotherapy for primary breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers and risk of contralateral breast cancer with special attention to patients irradiated at younger age. Breast Cancer Res Treat. 2015;154(1):171-80. [PMID:26467044]

7)Bernstein JL, Thomas DC, Shore RE, Robson M, Boice JD Jr, Stovall M, et al;WECARE Study Collaborative Group. Contralateral breast cancer after radiotherapy among BRCA1 and BRCA2 mutation carriers:a WECARE study report. Eur J Cancer. 2013;49(14):2979-85. [PMID:23706288]

8)Schlosser S, Rabinovitch R, Shatz Z, Galper S, Shahadi-Dromi I, Finkel S, et al. Radiation-associated secondary malignancies in BRCA mutation carriers treated for breast cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2020;107(2):353-9. [PMID:32084523]

9)Tung NM, Boughey JC, Pierce LJ, Robson ME, Bedrosian I, Dietz JR, et al. Management of hereditary breast cancer:American Society of Clinical Oncology, American Society for Radiation Oncology, and Society of Surgical Oncology guideline. J Clin Oncol. 2020;38(18):2080-106. [PMID:32243226]