CQ3   乳房部分切除術後の照射法として加速乳房部分照射(APBI)は勧められるか?

推奨

●下記の条件にて,APBIを行うことを弱く推奨する。

推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:92%(35/38)

条件:
◦若年ではない低リスク症例に対して,十分な精度管理のもと,臨床試験として行うか,照射技術に習熟した施設で行うこと。
◦さらに術中照射に関しては,全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明したうえで希望する患者に行うこと。


推奨におけるポイント
■中高年の低リスク症例では,APBIは,全乳房照射と比して全生存率に有意差はないが,術中照射では局所再発率が高くなるので適応に注意が必要である。
■APBIは照射野が腫瘍床に限定されるため,精度管理に注意が必要である。

背 景・目 的

 乳房部分切除術後の放射線療法として,経験的に全乳房に対して総線量45~50.4 Gy/1回線量1.8~2.0 Gy/4.5~5.5週が用いられてきたが,欧米を中心に一部の症例に対し,放射線療法の回数を少なくし,全乳房照射の替わりに腫瘍床のみに部分乳房照射を行う加速乳房部分照射(APBI)の試みもなされている。APBIの適応,有用性について検討した。

解 説

 乳房温存療法における放射線療法の有用性を示した臨床試験の結果から,乳房温存療法後の温存乳房内再発の約70%はもとの腫瘍床の周辺から生じること,およびそれ以外の部位からの再発は対側乳癌の発生と時期および頻度が類似することが明らかになり1)2),全乳房ではなく腫瘍床のみを対象とした放射線療法の可能性が検討された。照射野を縮小することにより,大線量少分割で短期間に照射を終えることも可能になり,APBIとして欧米で臨床試験が開始された。具体的な方法としては小線源治療,術中照射,外照射(三次元外照射,強度変調放射線治療)などが用いられている(☞放射線 総説1参照)。

 ランダム化比較試験(RCT)を含む初期の報告では,対象に大きい腫瘍(4 cmより大)や切除断端陽性例,非浸潤性乳管癌(DCIS)や広範な乳管内進展(EIC)陽性乳癌を含んでいたため,一般的な全乳房照射の成績に比べて明らかに不良であったが3)4),適格条件を厳しくした研究では,用いる方法にかかわらず概ね良好な温存乳房内制御と整容性が得られている。

 その後いくつかのRCTが施行され,約10年のAPBIの治療成績と有害事象が報告されるようになってきた5)~9。全乳房照射(WBI)と小線源治療もしくは三次元外照射を使用した1日2回照射を行うAPBIのRCT(NSABP B-39/RTOG 0413試験)では,10年温存乳房内再発率はWBI群で3.9%,APBI群で4.6%であり,同等であるとはされなかったが,その絶対差は0.7%と小さかった5)WBIと小線源治療を使用したAPBIのRCT(GEC-ESTRO試験)においては、10年温存乳房内再発率は、WBI群で1.58%,APBI群で3.51%と有意差は無く、グレード3以上の晩期有害事象はAPBI群で少なかった6)また,WBIと三次元外照射を使用した1日2回照射を行うAPBIのRCT(RAPID試験)では,8年温存乳房内再発率はWBI群で2.8%,APBI群で3.0%と,APBIの非劣性が示されたが,整容性に関してはAPBI群で不良となる比率が高かった7)。さらにWBIと強度変調放射線治療(IMRT)を使用したAPBIのRCT(Florence試験)では,10年温存乳房内再発率はWBI群2.5%,APBI群3.7%で有意差を認めず,10年全生存率,乳癌特異的生存率にも有意差はなく,APBI群で急性期ならびに晩期有害事象発生割合は有意に低下し,整容性も有意に改善した8)。また,WBIと術中照射を使用したAPBIのRCT(ELIOT試験)では,10年/15年温存乳房内再発率はWBI群で1.1%/2.4%,APBI群で8.1%/12.6%と有意にAPBI群で不良であったが,全生存率には有意差を認めなかった9)

 前述のRAPID試験のように三次元外照射のAPBIの整容性が不良である理由として,1日2回照射のスケジュールが問題なのではないかという意見もあり,最近では1日1回照射のスケジュールも試みられている10)11)

 2021年に発表された乳房部分照射(PBI)のコクランのシステマティック・レビューでは,局所無再発生存率はWBI群に比してややPBI群が不良であったが,局所再発率は低く,さらにその差は小さく,局所再発の多い傾向があった術中照射の報告が症例数の3割を占めており,局所無再発生存率の解釈には注意が必要である。また,全生存,疾患特異的生存,遠隔無再発生存の割合に関しては,有意差を認めなかった,としている12)

 本CQでは,益については局所再発率の低下,全生存率の改善,遠隔再発率の低下,害については整容性の低下,晩期有害事象(皮膚障害,脂肪壊死)をアウトカムとして設定し,系統的文献検索を行い,益のアウトカムについて9編のRCT,害のアウトカムについては7編のRCTを用いて評価した。

 局所再発率に関して,9編のRCTで全APBI治療法(術中照射・外部照射法・小線源治療)を含めてメタアナリシスを行い,APBI群でWBI群より有意に再発率が高かった〔リスク比(RR)1.81,95%CI 1.16-2.84,p=0.009〕。サブ解析として,術中照射では3編のRCTでメタアナリシスを行いAPBI群でWBI群より有意に再発率が高かったが,術中照射以外(外部照射法または小線源治療)では6編のRCTでメタアナリシスを行いAPBI群とWBI群で有意差を認めなかった(術中照射:RR 3.38,95%CI 2.14-5.35,p<0.00001,術中照射以外:RR 1.23,95%CI 0.97-1.57,p=0.09)。また,全生存率では7編,遠隔再発率では4編のRCTでメタアナリシスを行い,APBI群とWBI群で有意差を認めなかった〔全生存率:ハザード比(HR)1.00,95%CI 0.87-1.14,p=0.98,遠隔再発率:HR 0.94,95%CI 0.74-1.20,p=0.63〕。さらに,有害事象に関しては,整容性について6編でメタアナリシスを行い,モダリティや照射方法によって結果はさまざまで,一貫性に乏しいが,三次元外照射ではAPBI群が整容性不良であったが,一方でIMRTを用いた臨床試験で良好な整容性が得られており,全体としてはAPBI群とWBI群で有意差を認めなかった(RR 1.21,95%CI 0.73-1.99,p=0.46)。

 晩期皮膚障害においては5編のRCTでメタアナリシスを行い,APBI群とWBI群で有意差を認めなかったが(RR 1.58,95%CI 0.33-7.52,p=0.56),脂肪壊死発生率に関しては,3編のRCTでメタアナリシスを行った結果,APBI群のほうが有意に高かった(RR 2.80,95%CI 1.16-6.78,p=0.02)。

 以上のように,本メタアナリシスでは,局所再発は術中照射APBIではWBIより多かったが,外部照射法または小線源治療によるAPBIでは有意差は認めなかった。さらに生存に関しても,APBIとWBIで有意差は認めなかった。また,有害事象としては,APBIはWBIより脂肪壊死発生率が高いが,その他の有害事象は有意差を認めないという結果であった。

 また,今回行ったメタアナリシスのすべての解析でRCTを使用しているが,いずれも観察期間が十分とはいえず,各試験によってDCISの有無,年齢制限等,いくつかの条件が異なっていたため,エビデンスの強さは「中」とした。

 米国放射線腫瘍学会(ASTRO)のコンセンサスで,2009年版では,APBIに適している規準は,60歳以上,pT1N0の単発病変で切除断端2 mm以上などであったが,2016年版では50歳以上,pTis-1N0のER陽性で脈管侵襲のない単発病変で切除断端2 mm以上(DCISに関してはRTOG 9804試験と同様,検診発見の径2.5 cm以下の低/中グレードで断端距離3 mm以上)へ変更された13)14)。NCCNガイドラインでも,低リスク早期乳癌において,APBIはWBIと同等の治療法となる可能性はあるが,経過観察は限定的であり,臨床試験での治療が勧められるとしており,適応は前述のASTROコンセンサス2016年版を受け入れるとしている15)。本メタアナリシスでは,局所再発率は術中照射でWBIより高い結果であったが,解析に使用した臨床試験は他の治療法の臨床試験に比べて古い症例が多く,APBIに適切な症例選択がなされていない可能性もある。術中照射は手術時に放射線療法を終了することができ,術後に乳房照射を行う必要がなくなるため,WBIが負担となり乳房全切除術を選択したり,乳房部分切除術後のWBIを拒否したりする患者には,WBIよりは局所再発率が高くなる可能性があることを説明したうえで,適応となる可能性がある。ASTROコンセンサス2016年版では,術中照射APBIは,患者に局所再発率がWBIに比べて高いことを説明する必要があり,再発リスクの低い「suitable群」に属する症例に行うべきとしている。

 以上より,APBIの長期成績の報告はまだ十分とはいえず,現段階では標準治療としては全乳房照射が勧められ,APBIを行う際には,適応症例選択の検討,治療精度の検証などを十分に行い,施設の照射技術の習熟度や地域の放射線治療施設へのアクセスの状況を考慮し,臨床試験として行うか,照射技術の習熟度が高い施設で行うかが必要であると考えられる。さらに術中照射に関しては,全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明したうえで希望する患者に行うべきと考えられる。

 また,日本からのAPBIの報告はいまだ少数であり16)わが国にAPBIを導入するにあたっては,欧米の患者との体格や乳房サイズの差による技術的な問題についてのさらなる検討も必要である。

 なお,粒子線によるAPBIに関してはいまだ治験レベルの域を出ず,その実臨床への応用は時期尚早と思われる。

 小線源治療,術中照射,外照射によるAPBIの費用は,すべて保険診療の範囲内で治療可能である。通常分割の全乳房照射と比して,小線源治療によるAPBIはやや高額であるが,術中照射,外照射によるAPBIは低額である。また,APBIは通常分割の全乳房照射より,通院期間も短いため,治療にかかる時間ならびに費用が方法によっては低減できるというメリットがある。患者の好みとしては,短期間での治療希望がある場合に,選択されることが多い。

 以上より,APBIの益としては,治療期間短縮による患者の負担軽減,また術中照射・外照射であれば治療費用の低減であるが,害としては長期の局所制御割合(特に術中照射),有害事象に関する長期の成績が不明である点である。

 本ガイドラインの推奨決定会議では,投票を行い,特定の条件下においてではあるが,「行うことを弱く推奨する」が92%(35/38)という結果であった。

 以上より,益と害のバランス,エビデンスの程度,患者の希望などを考慮したうえで,推奨としては,乳房部分切除術後の照射法として,「下記の条件にて,APBIを行うことを弱く推奨する」とした。

条件:
・若年ではない低リスク症例に対して,十分な精度管理のもと,臨床試験として行うか,照射技術に習熟した施設で行うこと。
・さらに術中照射に関しては,全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明したうえで希望する患者に行うこと。

検索キーワード・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms”,“accelerated partial breast irradiation”“APBI”,“conserving”,“conserved”のキーワードで検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年1月~2021年3月までとし,202件がヒットした。一次スクリーニングで68編,二次スクリーニングで6編の論文が抽出され,ハンドサーチで2編の論文,2015年以前の2編の論文を追加した。

参考文献

1)Fisher ER, Anderson S, Tan-Chiu E, Fisher B, Eaton L, Wolmark N. Fifteen-year prognostic discriminants for invasive breast carcinoma:National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project Protocol-06. Cancer. 2001;91(8 Suppl):1679-87. [PMID:11309768]

2)Veronesi U, Marubini E, Mariani L, Galimberti V, Luini A, Veronesi P, et al. Radiotherapy after breast-conserving surgery in small breast carcinoma:long-term results of a randomized trial. Ann Oncol. 2001;12(7):997-1003. [PMID:11521809]

3)Magee B, Swindell R, Harris M, Banerjee SS. Prognostic factors for breast recurrence after conservative breast surgery and radiotherapy:results from a randomised trial. Radiother Oncol. 1996;39(3):223-7. [PMID:8783398]

4)Sanders ME, Scroggins T, Ampil FL, Li BD. Accelerated partial breast irradiation in early-stage breast cancer. J Clin Oncol. 2007;25(8):996-1002. [PMID:17350949]

5)Vicini FA, Cecchini RS, White JR, Arthur DW, Julian TB, Rabinovitch RA, et al. Long-term primary results of accelerated partial breast irradiation after breast-conserving surgery for early-stage breast cancer:a randomised, phase 3, equivalence trial. Lancet. 2019;394(10215):2155-64. [PMID:31813636]

6)Strnad V, Polgar C, Ott OJ, Hildebrandt G, Kauer-Dorner D, Knauerhase H, et al. Accelerated partial breast irradiation using sole interstitial multicatheter brachytherapy compared with whole-breast irradiation with boost for early breast cancer: 10-year results of a GEC-ESTRO randomised, phase 3, non-inferiority trial. Lancet Oncol. 2023. [PMID: 36738756]

7)Whelan TJ, Julian JA, Berrang TS, Kim DH, Germain I, Nichol AM, et al;RAPID Trial Investigators. External beam accelerated partial breast irradiation versus whole breast irradiation after breast conserving surgery in women with ductal carcinoma in situ and node-negative breast cancer(RAPID):a randomised controlled trial. Lancet. 2019;394(10215):2165-72. [PMID:31813635]

8)Meattini I, Marrazzo L, Saieva C, Desideri I, Scotti V, Simontacchi G, et al. Accelerated partial-breast irradiation compared with whole-breast irradiation for early breast cancer:long-term results of the randomized phase Ⅲ APBI-IMRT-florence trial. J Clin Oncol. 2020;38(35):4175-83. [PMID:32840419]

9)Orecchia R, Veronesi U, Maisonneuve P, Galimberti VE, Lazzari R, Veronesi P, et al. Intraoperative irradiation for early breast cancer(ELIOT):long-term recurrence and survival outcomes from a single-centre, randomised, phase 3 equivalence trial. Lancet Oncol. 2021;22(5):597-608. [PMID:33845035]

10)Boutrus RR, El Sherif S, Abdelazim Y, Bayomy M, Gaber AS, Farahat A, et al. Once daily versus twice daily external beam accelerated partial breast irradiation:a randomized prospective study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2021;109(5):1296-300. [PMID:33714527]

11)de Paula U, D’Angelillo RM, Andrulli AD, Apicella G, Caruso C, Ghini C, et al. Long-term outcomes of once-daily accelerated partial-breast irradiation with tomotherapy:results of a phase 2 trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2021;109(3):678-87. [PMID:33098960]

12)Hickey BE, Lehman M. Partial breast irradiation versus whole breast radiotherapy for early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2021;8(8):CD007077. [PMID:34459500]

13)Smith BD, Arthur DW, Buchholz TA, Haffty BG, Hahn CA, Hardenbergh PH, et al. Accelerated partial breast irradiation consensus statement from the American Society for Radiation Oncology(ASTRO). Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;74(4):987-1001. [PMID:19545784]

14)Correa C, Harris EE, Leonardi MC, Smith BD, Taghian AG, Thompson AM, et al. Accelerated partial breast irradiation:executive summary for the update of an ASTRO evidence-based consensus statement. Pract Radiat Oncol. 2017;7(2):73-9. [PMID:27866865]

15)NCCN Clinical practice guidelines in oncology:BREAST CANCER, version 8. 2021. https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf (アクセス日:2021/9/29)

16)Yoshida K, Nose T, Otani Y, Asahi S, Tsukiyama I, Dokiya T, et al. A Japanese prospective multi-institutional feasibility study on accelerated partial breast irradiation using multicatheter interstitial brachytherapy: clinical results with a median follow-up of 60 months. Breast Cancer. 2022 Mar 18. Epub ahead of print. [PMID:35303282]